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検査室支援情報

検査の樹 -復習から明日の芽を-菅原 和行(菅原バイオテク教育研究所)

8. 必然性が高まる微生物検査の蛍光染色

II. 蛍光染色法の実際

2:今後、展開を期待される蛍光微生物染色法

1 微生物の核酸染色と活性染色

主な微生物の染色は微生物の表面成分を染める方法と核酸を染める方法とに大別される。核酸染色は、その微生物が細胞内に内包するDNAやRNAといった核酸を染める特性上、蛍光染色が多く、生物・非生物の鑑別に重要な情報を提供する。さらに、核酸との結合により蛍光染料は強く蛍光を発するため、微小微生物の検出も可能となる。このため、微生物の総数計数には多種の核酸染色剤が使用されている。これまでは、VNC(viable but non-culturable)の細菌も含めた全菌数直接計数法(TDC法)としてアクリジンオレンジやDAPI(4',6-diamidino-2-phenilindole)が多用されてきたが、これらは同時に死菌を計測してしまうという欠点があった。

近年は、環境水や医療関連水などの全菌数計測が盛んに行われるようになり、特色を持つ多種の核酸染料が使用されている。SYBR® Green I、TOTO-1 iodideやTO-PRO-1 iodideなどの核酸結合性蛍光染料や、さらに近年では強い蛍光発光特性を持つYO-PRO-1やSYBR® Goldによるウイルスの直接計数も可能となってきた。また、この分野の技術革新には、Anodisc filter(無機酸化アルミニウムメンブレンフィルター(アルミナメンブレンフィルター):Whatman社)の開発寄与も大きい。

Anodisc filterは高価ではあるが取扱い操作や計数が容易であり、平滑な表面は高流量、効率的な粒子保持能が高い。Anodisc13(メンブレン径13mm)は、孔径0.2µm、0.1µm、0.02µmとそろっている。また、Anodisc13の最高使用温度は400℃と高いためオートクレーブ処理も可能である。使用法としては、0.8~2.0µm Millipore filterの上に孔径0.02µm のAnodisc filterを重ね、試料を陰圧濾過して微生物を捕らえる。フィルターを高感度核酸染料で染色しウイルスなどの発光蛍光を直接計数することにより計測する。一方、高価なAnodisc Filterの代替技術として、polycarbonate Track Etch(PCTE)filter membraneを4µg/mL Sudan black Bで染色した後にウイルスをトラップし蛍光発光させる方法も考案されている。

核酸染色法では、細菌はその生理状態に関わりなく染色されるため死菌包括の計測が課題であったが、FDA(Fluorescein diacetate)、CFDA(Carboxyfluorescein diacetate)、CFDA-AM(Carboxyfluorescein diacetate-acetoxymethlester)、Calcein-AMなど、細菌のエステラーゼ活性により加水分解を受け発光するものや、CTC(5-cyano-2, 3-ditolyl tetrazolium chloride)のように細菌の呼吸に伴い還元発光する活性染色法、もしくはEthidium Monoazide Bromide(EMA)を死菌体内に浸透させ、核酸と結合したEMAを光活性化により核酸を分断化し、生菌のみの核酸をPCR増幅する、死菌DNAの増幅阻止法などがある。エステラーゼ活性を有する細菌は、6-carboxyfluorescein diacetateを生細胞内で加水分解し、6-carboxyfluoresceinを生成する。生成物は緑色蛍光を発するため計数が可能である。

生菌・死菌を観察する試薬キットは、LIVE/DEAD® BacLight Bacterial Viability Kit(Molecular Probes)、LIVE/DEAD® Yeast Viability Kit(Molecular Probes)、Bacteria Live/Dead® Staining Kit(PromoKine)、Bacstain-CTC(またはCFDA) Rapid Staining Kit (同仁化学社)など数社から提供されている。特に、フローサイトメーター分析の専用試薬は多い。

他の蛍光核酸色素としては、Hoechst 33258、Hoechst 33342、POPO-1、BOBO-1、YOYO-1、SYTO-61など数多くの色素が挙げられる。選択する際、染料の特性として核酸の何を標的として着染するかを把握しておかなければならない(表1)。この他には、蛍光性色素での直接染色ではないが、rRNAを標的に蛍光標識オリゴヌクレオチドプローブによる蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH法)も行われている。ここでは、蛍光核酸染色剤のうち臨床微生物学領域でなじみの深いアクリジンオレンジは、すでに「VIII-II-1」において紹介したので、染色性の特性からSYBR® Goldおよび細菌の蛍光活性染色について、その染色操作法を紹介する。

表1 細菌検出に用いられる主な蛍光核酸染色剤と染色対象

蛍光染色剤 二本鎖核酸 一本鎖核酸 DNA RNA A-T領域
アクリジンオレンジ
4',6-diamidono-2      
         -phenylindole(DAPI)
Hoechst 33258
Hoechst 33342
Ethidium bromide
Propidium iodine
Ethidium homodimer
SYTOX Green
POPO-1
BOBO-1
YOYO-1
TOTO-1
TO-PRO-1
TO-PRO-3
SYTO 61      
SYBR® Green I      
SYBR® Green II        
SYBR® Gold      
◎:ウイルスの計数に使用    赤字の蛍光染色剤:死細胞の検出に使用

細菌の検出に用いられる主な蛍光染色剤:
http://www.e-cew.co.jp/Microbe-contents/img/TDCflu.gif
(画像)から抜粋し改変

2 SYBR® Green, SYBR® Gold染色1)2)3)

近年、核酸電気泳動ゲルの染色やリアルタイムPCRに多用されているシアニン系色素(CAS No. 163795-75-3)であるSYBR® Greenは、微生物の高感度核酸染色剤としても応用されている。これは二重らせんDNAとより特異的に結合し、DNAと結合したSYBR® Greenは青色光(λmax=497nm)で励起され、緑色光(λmax=520nm)の蛍光を発する。SYBR® Greenは、DNAよりは弱いながらもRNAも染める。代表的な誘導体としては、SYBR® Green I、SYBR® Green II、SYBR® Gold、YO(Oxazole Yellow)、TO(Thazole Orange)、PG(PicoGreen)がある。微生物分野では、SYBR® Green I、SYBR® Goldの応用例が多く、近年は蛍光強度と安定性の特性からSYBR® Goldの使用報告が多い。また、強いSYBR® Goldの蛍光を用いて、孔径0.02µmのAnodisc filterにトラップしたウイルスを染色し、水性試料中のウイルス数を計数する方法にも使用されている。SYBR® Goldでの染色標本は、4℃暗所で3ヶ月ほど安定と言われている。また、ここで紹介した染色操作はそのままの手法で臨床検体にすぐに応用できるものではない。類似試料、もしくは操作に改変を加えて応用できる例もある。しかし、臨床試料は、粘性成分や均質化が困難など試料独自の特質を持つ上に多数の有核細胞が混在するなど試料構成が大きく異なるため応用には工夫と改良が必要である。

ウイルスや細菌を計数するためのSYBR® Gold染色

2-1 ウイルスを計数するための手順
環境水、海水中などの細菌や水生ウイルスを計数する方法。

A:器具と試薬

  • :Anodisc filters:孔径0.02µm、直径25mm(Whatman)
  • :Polycarbonate membrane filters:孔径0.2µm、0.8~2.0µm、直径25mm(Millipore)
  • :Filter holder for 25mm diameter filters、with 15mL funnel(Millipore)
  • :SYBR® Gold stain: 10,000X(Invitrogen)

B:染色操作

  • フィルタリングのサンプルを開始する直前に、SYBR® Gold working溶液*1(2X)を
    準備(染色試料数に応じworking溶液を準備)。

    *1-1) SYBR® Gold working溶液の調製:オリジナルSYBR® Gold stock(Invitrogen)は濃縮形態(10,000倍)で
    入手。ウイルスや細菌を染色するのには 2X SYBR® Goldのworking溶液が最適。低濃度のSYBR® Goldは
    不安定なため、直前に調製した2X working溶液の使用を推奨。
    二次stock溶液(100X)として、オリジナルSYBR® Gold stockを 0.02µmで濾過済みTE buffer(10mM Tris-HC、
    1mM EDTA、pH7.4~7.6)で、1:100に希釈し調製。二次SYBR® Gold stockは-20℃で1~2週間保存が可能。
    100X二次stock溶液をTE緩衝液で希釈し、2X working溶液を調製。
    2X SYBR® Gold溶液はペトリ皿上に100µL(各filter用)をピペットで滴下。
    1つのペトリ皿(直径10cm)で4枚のfilterの染色が可能。

  • あらかじめ湿らせた0.8~2.0µm Millipore filterの上に孔径0.02µm のAnodisc filterを置く
    (Millipore filterは支持体として無傷で平らに機能する限り再利用が可能)。
  • Anodisc filterはパッキングフィルターに固定するように真空を用いる。
    注意点として気泡を避ける。
  • 20 kPa(または150 torr)以下の真空圧力によりAnodisc filterを通して200~500µLの
    水試料を濾過。
  • サンプルがフィルターを通過したときフィルター筒を外す、フィルターを外すまで真空を保つ。
  • Anodisc filterの裏、トッププラスチックの枠などに残った溶液をキムワイプまたは
    ティッシュペーパー(サンプル領域には手を触れない)で吸水除去。この乾燥工程は、良好な
    染色結果を得るために重要。
  • Anodisc filterは、試料側を上にして、染色溶液(2X SYBR® Gold)を滴下したペトリ皿の上で
    暗所にて15分間染色。
  • 染色後、ピンセットでフィルターをピックアップし、残存液はキムワイプティッシュの上に
    フィルターを載せ吸水する。この乾燥工程は重要。
  • 清浄なスライド上にマウント液を滴下(10µL)し、滴下した上にfilterをマウント。マウント液
    5~10µLを清潔なカバースリップ上に滴下し、それを裏返して試料filterの上をカバーする。

C:結果

カバースリップの上に浸漬油を滴下し、落射蛍光顕微鏡の青緑色光(最適励起、480~495nm) 励起下でスライドを観察。粒子状、球桿菌状の緑色光の微生物は少なくとも計300個のVLPs
(virus like particles (VLPs))を、また細菌細胞数は10~20のランダム視野からカウントする。

2-2 細菌を計数するための手順

  • 水性サンプル1~2mL(~1mL当たり106細菌細胞)は、0.2µmの孔径の
    ポリカーボネート膜フィルター(Millipore)を用い、約150torrの真空圧力下で濾過。
  • 全てのサンプルがフィルター通過後に真空圧力を解放(重要なため二重チェックする)。
    SYBR® Gold染色液を追加する前に、真空は完全に解放。
  • フィルタータオル内に2X SYBR® Gold溶液300µLを追加し、光を避けるために、
    アルミホイルでタオルをカバーする。暗所で15分間細菌細胞を染色。
  • 染色後、真空により、染色液を取り除く。以降上記1) の6.~9.を実施。

*1-2) バックグラウンドが高く計測を妨害する場合、1) SYBR® Gold working溶液を1Xまたは0.5Xに落とす。
もしくは、TE緩衝液を滴下した上に1分間フィルターを置き余分な染色を洗い流す。
染色サンプルは暗所に置き4℃で3ヶ月間、蛍光シグナルの大きな損失なく保存できる。
染色したSYBR® Goldは安定で、退色防止処理を使用せずとも保存が可能。

封入剤:50% glycerol 、50% TE buffer(Tris-HCl: 10mM、EDTA 1mM、pH7.4~7.6)、
0.1% phenylenediamine、混合液

結果は1) と同様。

3 強蛍光染料による熱帯熱マラリアの染色法(ギムザ染色プラスSYBR二重染色)4)

22の核酸特異的蛍光染料から染色蛍光の強い14の染料を選び、ギムザ染色後の標本を染色し蛍光が検出されたのは、SYBR® Green I、YOYO-1およびエチジウムホモダイマー2であった。この中でSYBR® Green Iが最も強い蛍光を発したと報告されている。
実験では、熱帯熱マラリア原虫培養液をスライド上でフィルム化して使用。

A:試薬

  • :Accustain®ギムザ染色(Sigma-Aldrich社)
  • :10mMトリス緩衝液 pH8.0
  • :SYBR® Green I(Molecular Probes Inc. X10,000)

B:染色操作

  • 培養フィルムの二重染色は、ギムザ(Accustain®ギムザ染色)を10mMトリスpH8で1:25に
    希釈し、0.2µmのフィルターを通し未溶解物質を除去。
    さらに、使用前に希釈ギムザ液は10,000×gで2分間遠心し、溶液中の粒子をペレット化。
  • ギムザ染色250µLをスライドの血液フィルム全体に注意深く液を広げ、血液フィルムは
    室温で30分間染色。
  • 染色液を水道水で洗浄除去。スライド上の過剰な水は、10mMトリス緩衝液の300µLを
    添加し除去。
  • トリス緩衝液を除き、10mMトリス緩衝液で1:3000に希釈したSYBR® Green I 300µLを添加。
    注意:SYBR® Greenの染色性を高めるため、SYBR®溶液を添加する前にスライドの乾燥防止に
    注意。スライドは暗所に置き、室温で15分間染色。
  • SYBR® Green I 溶液は、水道水を穏やかに流しスライドから除去。暗室で風乾後、
    蛍光顕微鏡にて観察。

C:結果

血液フィルムを1000×倍率でNikon Labophot compound fluorescent microscopeで観察した。
フィルターセット:1)Ex. 340~380、BA 435~485; 2)Ex. 450~490; 3)Ex. 546/10
成熟寄生虫およびリングステージ寄生虫、赤血球内虫体とも蛍光黄緑色に染色。5mW駆動のLED光による落射蛍光顕微鏡でも明確な蛍光が観察可能。

4 細菌の生菌・死菌分別染色法

4-1 CTC染色法-Bacstain-CTC Rapid Staining Kit(for Microscopy)Code:BS02
(同仁化学社 染色キットの操作書から抜粋)

A:試薬

  • :CTC
  • :Enhancing reagent B

B:染色操作

  • CTCの入ったチューブ1本に対し、滅菌水750µLを加えよく混合し、CTCを溶解。
    このときのCTCの終濃度は50mmol/L。CTC溶液は-20℃以下で2週間保存が可能。
  • 菌をPBS(-)*2もしくは生理食塩水に懸濁し、細胞密度を調整(顕微鏡観察:108
    109cells/mL)。

    注) 染色時に培地成分が残っていると、それによりCTCが還元されることがある。
    PBS(-)や生理食塩水にしっかりと置換。

  • 細胞懸濁液1mLに対し、CTC溶液20µL(Enhancing reagent B:5µL)を加え、
    ボルテックスミキサーで混合。
  • 37℃で30分間インキュベーションし、蛍光顕微鏡で観察する。Maximum EX/EM (nm):
    430、480/630 BもしくはG励起。

C:結果

細胞は呼吸活性により還元され赤色蛍光色素(CTC formazan)を生成する。 *2)PBS(Phosphate Buffered Saline)溶液、つまりリン酸緩衝生理食塩水。PBS(-)溶液は、本来のPBS溶液から
マグネシウムとカルシウムを除いたもの。オリジナルのPBS溶液をPBS(+)と表現。10X PBS(-) 1L:NaCl(80g)、
KCl(2g)、Na2HPO4・12H2O(29g)、KH2PO4(2g)を精製水900mLに溶解し、1Lにメスアップ後オート
クレーブし保存。使用時1Xに精製水で希釈し使用。pH7.4前後。

注)CTCによる染色効率が良くない場合は、染色時間を長くするか、
CTC溶液の添加量を増やす(上限100µL/sample)。

4-2 CTC染色法5)6)7)8)9)

  • 細菌懸濁液にCTC水溶液を終濃度が0.5~5 mmol/Lになるように加え、30分~4時間
    インキュベート。
  • 染色した細菌を0.2mmブラックメンブレンフィルターで捕集し、フィルターを風乾。
  • 蛍光顕微鏡(B励起)で細菌を計数し、呼吸活性を有する細菌数を求める。
  • 蛍光顕微鏡で観察する。Maximum EX/EM (nm):430、480/630 BもしくはG励起。
    (結果)呼吸活性により還元され赤色蛍光色素(CTC formazan)を生成する。

注)試料の形態によっては、前処理が必要となる場合がある。

注)最適CTC濃度・インキュベート時間は試料の形態や細菌の種により異なる。
モノテトラゾリウム還元色素であるCTC(5-Cyano-2,3-ditolyl-2H-tetrazolium chloride)は、細菌の呼吸活性に伴い産生される電子伝達系(NAD(P)H)によって還元され、CTC formazan(CTF)と変化する。CTFは水に不溶性となり、細菌細胞内に蛍光性沈澱として蓄積する。CTCは水溶性で、水溶液中では無蛍光である。一方、CTFは低粘性溶液中では蛍光を持たないが、高粘性溶液中や固体状態では赤色蛍光を発する。 染色された細菌をフローサイトメトリーで検出、もしくは細菌をブラックメンブレンフィルターで捕集した後に蛍光顕微鏡で観察することで、呼吸活性を有する 細菌数を求めることができる。インキュベーション時間はおよそ30分から4時間と短時間である。Coallierらは、環境水中のEnterobacter clocaeを試料として、 CTC法が環境水中のVNC細菌検出に適した方法であることを示した(図1)。

CTC-DAPI二重染色

DAPI:http://ja.wikipedia.org/wiki/DAPIより引用

図1 CTC-DAPI二重染色



4-3 Bacstain CFDA solution
(同仁化学社 染色キットの操作書から抜粋)

A:試薬

Bacstain CFDA solution(Code:BS03)

B:染色操作

  • 凍結した-Bacstain-CFDA solutionを室温に30分間程静置し遮光下で融解。
  • 菌をPBS(-)もしくは生理食塩水に懸濁し、細胞密度を調整(顕微鏡観察:108~109cells/mL)。
  • 細胞懸濁液1mLに対し、15μLのCFDA溶液を加えて混合。
  • 37℃で5分間インキュベーション。
    CFDAによる染色が十分でない場合は、染色時間を延長する。
  • ホルムアルデヒド(終濃度1~4%)を用いて細胞を10分程度固定。
  • 遠心もしくは濾過により上澄みを除去し、新たなバッファーで再懸濁。
  • 蛍光顕微鏡で観察。Maximum EX/EM (nm):493/515

C:結果

CFDA:(5(6)-Carboxyfluorescein diacetate)自体は蛍光を持たないが細菌細胞内のエステラーゼ活性を受けると加水分解されcarboxy-fluorescin(緑色蛍光)を生成する。
グラム陽性菌に比べグラム陰性菌はCFDAで染色されにくい傾向にある。これは細胞外膜の存在によりCFDAが細胞内に透過されにくいためである。このような理由からグラム陰性菌のCFDA染色には、0.1 mol/L phosphate buffer(pH8.5、5% (W/V)-NaCl、0.5 mmol/L-EDTA disodium salt)が用いられる10)11)12)13)14)15)(図2)。

6CFDA-DAPI二重染色

DAPI:http://ja.wikipedia.org/wiki/DAPIより引用

図2 6CFDA-DAPI二重染色

5 抗酸菌の生菌と死菌を異なる蛍光色で染め分ける

エステラーゼ活性を持つ生菌はフルオレセインジアセテートを加水分解して細胞内に蓄積するが、死菌は活性を持たないため加水分解できない。死菌の核酸はエチジウムブロマイドもしくはプロピジウムヨーダイドで分別染色する16)17)18)19)20)。

A:試薬
・染色原液

  • :フルオレセインジアセテート(FDA;fluorescein diacetate 、Sigma-Aldrich社):
    5mg/mLの濃度でアセトンに溶解
  • :エチジウムブロマイド(EB;ethidium bromide、Sigma-Aldrich社):
    リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2mg/mLに溶解
  • :プロピジウムヨーダイド(PI;propidium iodide、Sigma-Aldrich社):
    リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で1mg/mLに溶解
    密栓して-20℃で遮光保存、2年間以上使用が可能

・使用液

(a)スライド法
PBSで、FDA原液を10倍(500µg/mL)、EB原液を50倍(40µg/mL)、PI原液を10倍
(100µg/mL)にそれぞれ希釈し、使用液とする。

(b)チューブ法
PBSで、FDA原液を50倍(100µg/mL)、EB原液を20倍(100µg/mL)に希釈し、使用液とする。

これらの蛍光染色液(使用液)は冷暗所に保存し、約6時間は使用が可能。

B:染色操作

スライド法による染色

この方法は染色標本の保存、材料の希釈回避およびバイオハザード対策を意図した塗抹蛍光染色法である。

  • 径3mmの白金耳で、スライドガラス(76×26mm、MASコート付き、松浪硝子工業社)に
    被検菌液を径約10mmに広げ、室温で自然乾燥。
  • 染色は、混合染色液を十分に含ませた濾紙片(定性濾紙No.1、アドバンテック東洋社、約15mm
    正方に切断)を乾燥した塗抹標本に静かに載せ、37℃の孵卵器内で濾紙片が完全に乾燥するまで
    (約20分間)静置。
  • 乾燥した濾紙片は標本から自然に剥離するが、剥離しない場合でも力を加えずにピンセットで
    簡単に取り除くことが可能。
  • 封入には市販の無色ネイルエナメル(成分:オキシベンゾン、ハイム化学社)を用い、菌の塗抹面にエナメルが直接触れないように注意しながら、あらかじめその周囲を薄く数mmの幅で囲う。
  • エナメルを自然乾燥させた後、カバーガラスを接着し、さらに同じエナメルでカバーガラスの
    周辺を固着して封じる。

チューブ法による染色
これはKvachらの原法を一部改変した方法である。

  • 小チューブ(FALCON No.2054、BECTON DICKINSON社)を用い、菌液50µLと混合染色液の50µLを混和し、室温で2分間静置して染色。
  • 材料の一滴をスライドガラスに滴下し、カバーガラスをかけて染色標本とする。
    染色標本の観察: 染色標本の観察は、落射型蛍光顕微鏡(BH2-RFL、オリンパス社)を用い、水銀ランプ(USH-102D、ウシオ電機社)を光源としてブルーフィルター(ダイクロイックミラーDM500、B-G)および補助吸収フィルター(0-515あるいは0-530)の下で行う。

C:結果

FDAを分解して黄緑色の蛍光を発する桿菌は、菌体内にエステラーゼ活性を有する生菌、EBまたは
PIにより赤橙色に染色される桿菌を死菌と判定する。

喀痰を用いた抗酸菌の生菌染色法

A:試薬

  • :FDA stock :5% w/v fluorescein diacetate (Sigma-Aldrich社)アセトンに溶解し
    -20℃で保存(2年間は保存が可能)
  • :FDA working溶液:10mLのPhosphate buffer pH6.8(0.05% Tween 80を含む)に100µLの
    FDA stockを加え、希釈する(0.5mg/mL:保存期間約1週間)
  • :1%酸アルコール
  • :5%フェノール水溶液

B:染色操作

  • 新鮮な喀痰の塗抹標本を作製し、風乾。
  • 標本に FDA(0.5mg/mL)を満載し、37℃で30分間加温。
  • 水洗。
  • 1%酸アルコールで、3分間脱色。
  • 水洗。
  • 5%フェノール水溶液を満載し、10分間静置(殺菌処理)。
  • 水洗。
  • 標本を乾燥(30分~1時間)。
  • 直ちに観察。蛍光顕微鏡: CXC21 Olympus with FRAEN After® LED Blue(480nm励起)
    フィルター: 535/40 nm bandpass。

C:結果

FDAを分解して黄緑色の蛍光を発する桿菌は生菌。

警告)生菌・死菌染色を行う非固定標本の抗酸菌は、5%フェノール10分間の処理までは生菌状態なため操作は必ずセーフティキャビネット内で実施し、使用器具・試薬類は完全な滅菌処理を行うこと。

まとめ

ここまで、微生物の蛍光染色の基礎的理論と実際的技法を述べてきたが、「検査の樹」は技術操作の伝達が本意ではない。臨床検査に携わられている方々に、新たな明日への展開のために一歩を踏み出す灯火をかざすことが目的である。したがって、記述内容に沿って実施するのではなく参考資料を参照し、方法論を熟知したうえに自身の考察を加え、先見性と独自性の高い創意工夫を確立して頂けることを切望する。蛍光染色法は通常の可視染色法と比較して、pHや温度、酸化・還元、塩濃度、金属イオンなどの外的要因の影響を受け易いという短所もある。これら染料の特質を熟知した上で染色性の意義と染色技法を習得すれば、情報検索としての染色のバリエーションは増え、緊急対応のみならず検出感度や特異性の向上、簡易性に寄与する検査法の確立は可能と思われる。また、感染症における蛍光顕微鏡検査は、感染微生物の総体的情報を掌握し易く比較的特異性の高い簡易迅速な技法である。ぜひ各人が適確かつ合理的なレシピを樹立して頂きたい。

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  20. Kvach JT,et al.; Int J Lepr Other Mycobact Dis. 1984; 52(2):176-82.

図3イラスト/菅原 智美

 

2016.03