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8. 必然性が高まる微生物検査の蛍光染色
I. 蛍光染色の基礎知識
1:はじめに
蛍光分析は、細胞構成成分の染色や遺伝子発現および動的成分の局在移動の観察など幅広い分野に応用され、その成果を上げている。蛍光染色の方法には、蛍光染料による特定成分の染色や、蛍光標識した抗体、遺伝子、レクチンなどとの反応成分の染色、蛍光性基を持つ基質と酵素反応による染色など諸種がある。
検出反応の特異性は一概には論じられないが、一般的には検出が蛍光という特殊な発光を用いるためか、特異性が高いと認識されていることが多い。蛍光発光は感度を高める手法であり、その特異性は、使用する染料、遺伝子プローブ、抗体、基質特性、反応条件などに依存する。
本稿では、応用範囲の拡大が目覚ましい蛍光検出法について、微生物検査分野における蛍光顕微鏡検査を中心に、I.蛍光染色法の基礎知識、II.蛍光染色法の実際と応用の2部に分けて整理したいと思う。
2:蛍光(Fluorescence)とは
蛍光とは、生化学辞典第2版(東京化学同人:1990年)によると、『発光(luminescence: ルミネセンス)の一種。光の吸収によって励起された分子や原子が光を放出する過程のうち、発光が起こる最初の状態と発光の終わる状態とが同じ多重度を持っている場合を蛍光と呼ぶ。通常は第一励起一重項状態と基底一重項状態との間で起こる。』(抜粋)とされている。
すなわち、蛍光色素の分子が高エネルギーの光(励起光)を吸収し、この分子が吸収した光よりも長い波長の光が放出された際に発する光、または現象を言う。蛍光は、発光寿命が短く減衰が早い。励起源からのエネルギーの供給を絶つとすぐに発光も止まる。発光寿命が長いものはリン光と呼ぶ。
3:微生物検査の蛍光染色の経緯と課題
臨床検査では、FITC、Auramine O、Auramine O・Rhodamine B、Acridine orange、DAPI、SYBR GreenⅠ、Cy3、Cy5、Texas Red、Ethidium bromideなど多種の蛍光染色剤が用いられ、ヒトや微生物細胞の蛍光染色に使用されている。
特に臨床微生物検査では、FITCが免疫染色法に、Auramine O、Auramine O・Rhodamine B、Acridine orangeが抗酸染色に、Acridine orange、DAPIが広範な微生物の核酸染色に、さらにCalcofluor white(Cellufluor:Fluorescent Brightener28)、ファンギフローラ Y(スチルベンジルスルホン酸系蛍光染料と共染防止剤)などの蛍光染料が真菌や原虫などの蛍光染色剤として使用されている。
ここで興味あることは、例えば抗酸染色では、M. tuberculosis、M. leprae、M. smegmatisおよびatypical MycobacteriumなどすべてのMycobacteriaだけでなく、組織中のNocardia、一部のCoccidian、便中のCryptosporidium parvum、 Isospora belli およびCyclospora cayetanensis のシストなど多くの原虫検査にも応用できる。
また、蛍光増白剤を用いた真菌染色剤も本来は、ChitinやCelluloseと結合し、酵母や真菌菌糸体の染色に開発されたが、Pneumocystis carinii cysts、Plasmodium sp、Acanthamoeba cystsなど原虫類や植物花粉の内包物なども染色する。さらにKeratin、CollagenおよびElastin fibersも染める。また、後に述べる蛍光核酸染色剤は、微生物全般の蛍光染色剤としてその用途は広い。このように蛍光染色法は迅速かつ簡易な極めて応用性の広い手法である。
しかし、これらの蛍光染色法は、普遍的に多くの検査室に普及しているわけではない。その理由としては、蛍光観察に不可欠な蛍光顕微鏡が高価なため常備器材として購入が困難な施設が多いこと、蛍光染色の用途と効果が十分に認識されていなかったこと、さらには、蛍光染色の導入研究が停滞したことなどが重なり、蛍光染色法はあまり表立って評価されることが少ない時期を経てきた。
近年になり、発展途上国の結核症やマラリア症の絶滅を目指したFINDの後押しにより、LEDを用いた安価で手軽な蛍光観察用機器が開発された(Primo Star iLEDTM, LuminTM Lumin i5, ParaLensTM, FluoLEDTM, CyScope®)。これらの顕微鏡に採用されているLEDの光源は、前述のわが国の臨床検査に用いられる蛍光染色剤の励起波長とマッチしているため、当初の用途以外にも応用されている。
4:蛍光染色剤:励起光と発光
従来、臨床検査で蛍光検出に用いる蛍光剤の励起光には紫外線が多く使用されていたため、蛍光検出イコール紫外線使用という既成概念を抱かれる方がいるが、使用する蛍光剤の励起光は紫外域よりもむしろ可視光域にある蛍光剤が多い。
通常、励起光より短波長の蛍光は放出しないので、使用する蛍光物質の励起波長の特性と、放出される蛍光波長の特性とを熟知して波長を選択しないと、まったく蛍光を発しない事態さえも起きかねない。このように、蛍光分析における励起波長および蛍光波長の選択は結果を左右する重要なポイントである。
一般的に微生物検査で使用される蛍光色素の励起波長および発光波長を表1に示した。従来、最も高頻度に励起光として使用されてきた紫外線は化学線とも呼ばれ、化学作用が強い。近紫外線をさらにUVA(400-315nm)、UVB(315~280nm)、UVC(280nm未満)と分けることもある。
蛍光物質の励起・蛍光スペクトルは、通常ピーク値で示されるが、いずれもピーク値を頂点とするきれいな放物線を描くわけではない。従って、個々の蛍光物質の特質を調べ、最良の検出条件を設定することが大切である。
表1 一般的に微生物検査で使用される蛍光色素の励起、発光波長と主な用途
蛍光化合物 | 励起波長 (nm) |
発光波長 (nm) |
染色対象 | 主な用途 |
---|---|---|---|---|
Acridine orange | 500 | 526 | 2本鎖核酸 | 核酸の染色 RNA/DNA比の測定 |
Acridine orange | 460 | 640 | 1本鎖核酸 | |
Auramine O | 460 | 550 | (カチオン・ 塩基性染料) |
抗酸染色 |
Calcofluor white | 440 | 500‐520 | キチン、 セルロース |
真菌、原虫類 |
Ethidium bromide | 545 | 605 | 2本鎖核酸 | DNAの定量、 死細胞の検出 |
FITC | 490 | 525 | タンパク質 (α‐アミノ基) |
細胞内タンパク質の検出 蛍光抗体の標識 DNAの定量、全菌数測定 マイコプラズマ 抗酸染色 |
Hoechst 33258 | 352 | 461 | A-T 領域 | |
Rhodamine B | 540 | 625 | (カチオン・ 塩基性染料) |
図1 FITC(Fluorescein isothiocyanate)の励起光、蛍光スペクトル
引用 : Invitrogen社ホームページ
また、フィルターなどの器材が完備していない場合は、使用する蛍光色素が、使用する機材に適応が可能かを事前に調べておく必要がある。このような分析条件を調査するには、詳細な情報を入手できるInvitrogen社の以下のサイトが便利である。
http://www.invitrogen.com/site/us/en/home/support/Research-Tools/
Fluorescence-SpectraViewer.html
使用頻度の高いFITC(Fluorescein isothiocyanate:フルオレセインイソチオシアネート)の一例を図1に示した。励起光のピーク光は495nmで、509nmではピーク光の50%を励起するが540nmではほとんど励起できない。発する蛍光のピーク光は519nm(緑域)で、543nm(緑域)では50%、さらに593nm(橙色域)では10%を発している。
蛍光染色の観察には、励起不可能な波長域と検出可能な波長域とを熟知して分析することが大切である。ただし、この図は相対値で表現されているので、機器の出力に伴う配慮が必要である。現在の技術では、スペクトルピークに数nmの波長差があれば何種類もの多重染色の中から独立した解析が可能と言われている。
蛍光剤は、同一の蛍光剤でもメーカーにより異なった名称で呼ばれることがある。例えば代表的な抗酸染色に使用されるDiarylmethane色素のAuramine Oも、 Basic yellow 2や Pyocatanium aureum、 Aizen auramine、 Pyoktanin yellow、 Canary yellow、 Pyoktanin、 C.I. 41000など多くの名称で呼ばれているため、使用に際しては留意する必要がある。
5:蛍光の観察:蛍光顕微鏡の機構
蛍光染色した微生物の観察には蛍光顕微鏡が不可欠である。蛍光顕微鏡には、透過型と落射型があるが、現在は落射型蛍光顕微鏡が主流である。落射型蛍光顕微鏡は図2に示したように、光源からの光を励起フィルター(Excitation filter:EX)で励起波長の光だけを取り出す。取り出された励起波長はダイクロイックミラー(Dichroic mirror:DM)で反射され、対物レンズを通して試料の蛍光物質を照射する。
試料中の蛍光物質が発した蛍光は対物レンズを通して接眼部に向かう。蛍光はダイクロイックミラーに反射されずに直進し、吸収フィルター(Barrier filter:BAまたは Emission filter:EM)で標的蛍光以外の短波長光が除かれて、接眼部に届く仕組みとなっている。蛍光顕微鏡では、この励起光を反射して蛍光を透過させるダイクロイックミラーが重要な働きをなしている。
光源には超高圧水銀灯やキセノンランプなどを使用し、励起光としては近紫外線(UV励起・334/365nm)・青色光(B励起・405/435/490nm)・緑色光(G励起・546nm)などが使用される。近年は、使用可能な蛍光剤は限定されるが、単波長の励起光を照射するLEDを光源とした蛍光顕微鏡が開発され、安価に入手可能となった。蛍光顕微鏡の機構上の詳細についてはWikipedia『蛍光顕微鏡』、蛍光フィルターの特性はニコン社の落射蛍光顕微鏡に関するサイトを参照していただきたい。
図2 落射型蛍光顕微鏡の機構とフィルターの特性
引用 : Wikipedia 『蛍光顕微鏡』
6:蛍光染色
蛍光染色法は蛍光染料の特質により、核酸、セルロース、タンパク質および脂質などの目的物質を直接染色する方法と、抗体、核酸、レクチンなどに蛍光物を標識したパートナーとの結合により染色する方法、および蛍光性基質による酵素活性の染色や酸化還元電位による染色法などがある。
当然、使用する染料の特質により被染色物は異なる。また、蛍光染料は染料自体が蛍光を発するものと、被染色物に結合した場合に蛍光を発するか、蛍光が増強されるか、蛍光色が変化するものなどがある。
分子生物学の分野では標的遺伝子にGFP(Green Fluorescent Protein 緑色蛍光タンパク質)遺伝子を組み込み、遺伝子の発現や成分移動を生きた細胞で観察する手法が用いられる。また、細胞内情報伝達には諸種のイオンが関与しているが、カルシウム、ナトリウム、塩化物、亜鉛などのイオンの検出に蛍光性イオンプローブが使用されている。中でもQuin 2、Fura 2、Fluo 3などのカルシウムプローブは最も開発が進んでいる。今後、感染症分野での応用が期待される蛍光プローブである。
代表的な蛍光物質アクリジンオレンジとDAPIの染色機構を整理する。
アクリジンオレンジ(Acridine orange:AO)は、19世紀後半にドイツでコールタールから抽出された色素で、核酸に挿入(Intercalator)または静電アトラクションにより取り込まれて蛍光を発するが、その蛍光色は、取り込まれた核酸の種類によって異なる。
2本鎖核酸に取り込まれる場合は、リン酸基との静電的な結合により、2本鎖の中の3塩基対に対して1個の割合で取り込まれる。挿入AOは単量体で存在するため、AO本来の502nmの励起波長に対して526nm(緑)の蛍光スペクトルを示す(図3、図4左)。また、1本鎖構造の核酸に取り込まれる場合は、リン酸基と1対1の割合で静電的に結合する。結合したAOは隣接した分子間でstackingやaggregationを起こすため、単量体とは異なり、460nmの励起波長により650nm(赤)の蛍光スペクトルを示す(図3、図4右)。
図3 Acridine orangeの励起光、蛍光スペクトル
引用 : Invitrogen社ホームページ
図4 Acridine orangeの2本鎖DNAおよび1本鎖DNA、RNAへの結合模式図
従って、AOのみで2本鎖DNAと1本鎖DNAおよびRNAを分別染色ができる。さらに、AOは生細胞にも浸透するが、生細胞では選択的に細胞外へ排出されるので生細胞は染めることができない。しかし、固定後の死細胞では排出が行われないため核酸が染色される(図5)。
図5 生細胞と固定細胞における細胞膜透過蛍光色素の染色性
AOは、細菌のDNAやRNAの定量的な蛍光染色として、微生物感染の早期診断に用いられている。AOでの染色にpH3.5-4.0の緩衝液を用いた場合、細菌や真菌は一様に明るいオレンジ色に、ヒト上皮と炎症細胞および細胞の残骸は淡い緑色から黄色に染まる。活性化白血球の核は黄色やオレンジ色、RNA生産が増加した場合は赤色に染まる。また、細菌の核酸は細胞全体に分散して存在するため形態サイズとほぼ同じ大きさで染色される。
AOは細菌に対する変異原性があり、発がん性が危惧されているが、実際には哺乳類に対する発がん性は証明されていない。
DAPI(4',6-diamidino-2-phenylindole)は、臨床微生物検査での使用頻度は低いが細胞生物学分野における核酸染色には最も高頻度に用いられる染色剤の一つである。DNAに強力に結合するDAPIは、浸透速度は遅いが細胞膜透過性の色素で、生細胞・固定細胞いずれでも使用できるため、生細胞多重染色の核の対比染色剤として多用される。
DAPIは、DNA二重らせんの小さな溝のATリッチ領域に優先的に結合し、励起光の波長358nmに極大値を持ち、420nm付近で0%となる。従って、可視光域の波長では励起できない。発される蛍光は、465nmが極大で580nm付近までなだらかに広域の蛍光を発する(図6)。また、DAPIはRNAとも結合し500nm前後の弱い蛍光を発する。高濃度のDAPIは細胞内のポリリン酸を黄色に染める。
DAPIのDNAと結合して発する青色の蛍光は他の蛍光染色剤の蛍光とは色調的に異彩なため、多重染色の核染色に使用されるだけでなく、培養細胞中のマイコプラズマやウイルス検出に用いられている。しかし、前述のようにDAPIの励起波長は紫外域のため、ラジカル生成を促し、他の蛍光色素の消光が大きくなる傾向がある。このような例では、退色防止剤(FITC:P-phenylenediamine、Rhodamine:n-propyl galleteなど)の併用や、観察時の不要な照射時間を避け、コントロール標本による精度管理などに留意すべきである。
図6 DAPIの励起光、蛍光スペクトル
引用 : Invitrogen社ホームページ
7:蛍光染色剤による核酸染色
AO、EB、DAPI、SYBR Green 1、PI、Hoechst 33258など核酸を染色する蛍光剤は多い。核酸の染色剤は、DNAまたはRNAの分別染色、G-CまたはA-Tリッチ領域への優先的結合、もしくは1本鎖・2本鎖核酸いずれにも結合するなどの特質を持っている。
また、DNAの立体的二重らせん構造は転写の際、タンパク質が入る深い溝の主溝(Major grove)と狭い溝の副溝(Minor grove)の繰り返し構造を取る。蛍光DNA染色剤は、インターカレーター(Intercalator):(Ethidium bromide、Propidium iodide)、副溝結合(Minor grove binder):(DAPI、Hoechst dyes、SYBR Green1)、主溝結合(Major grove binder)、エクスターナル結合(External binder)、ビスインターカレーター(Bis-intercalator):(TOTO-1)など、DNA独自の二重立体構造の異なる位置に特徴的な結合様式で結合する(図7)。
図7 DNAと各染色剤との異なる結合モードを示した模式図
引用 : Invitrogen社ホームページ Figure 8.151
8:蛍光染色による生菌・死菌の分別
蛍光物質による生菌、死菌の分別染色には大きく二つの技法がある。
一つは、核酸染色剤による方法である。PI(Propidium iodide)は細胞膜が損傷した膜だけを透過して核酸を染める。それに対し、DAPI は膜損傷の有・無に関わらず細胞内へ透過し、DNA のAT 配列に特異的に結合して核酸を染色する。
もう一つは生細胞の呼吸活性を指標とするCTC(5-cyano-2,3-ditolyl tetrazolium chloride)やエステラーゼ活性を指標とするCFDA(Carboxfluorescein diacetate)のように、酵素活性などを検出するものである(図8)。
CTCは、NAD(P)Hなど電子伝達系の作用によりCTC formazan(CTF)に還元される。すると、水に溶けなくなって細胞中に蛍光性の沈殿物として蓄積され、呼吸活性を示す。CTCは水溶性で無蛍光であるが、還元されてCTFに変わると粘性の高い溶液中や固体状態では赤色蛍光を発する。しかし、粘性の低い溶液中では蛍光を出さないので留意すべきである。一般的に嫌気性菌での活性は弱いと言われている。
図8 蛍光染色剤による細菌の生死分別染色法
9:すでに微生物検査に使用されている蛍光染色法
微生物検査に用いられている主な蛍光染色法としては、蛍光抗酸染色、アクリジンオレンジ染色、蛍光真菌染色である。ただ、この中には蛍光染色剤が異なるいくつかの処方や染色法がある。例えば蛍光抗酸染色には、Auramine O、Auramine O-rhodamine B、AO、SYBR Greenなどの蛍光染色剤を用いた染色法、さらには2分間で染色操作を終えるAuramine Oを用いた改良法などがある。蛍光抗酸染色はZiehl-Neelsen法などと異なり、脱色液の酸濃度およびアルコール濃度が低いので留意すべきである。
AO染色は核酸を染めるため、微生物全般の染色に用いられ、特に微生物が少数しか存在しない試料の検出に有用とされている。蛍光真菌染色液としては、真菌の細胞壁のキチンやセルロースに非特異的に結合する蛍光増白剤を用いたCellufluor(商品名Fungi-Fluor stain(Polysciences)やCalcofluor white(Sigma)、Uvitex 2B(Ciba)、ファンギフローラY(バイオメイト)など)がある。CellufluorとCalcofluor whiteは同義異名の蛍光色素である。 Fungi-Fluor® Pneumocystis Kitも市販されている。
これら蛍光染色液の特徴は重染色ができることである。例えば、AO染色後にグラム染色することができる。Oramine O(Auramine O)またはOramine(Auramine)-rhodamine B染色した標本にチール・ネルセン染色を施すことができるが、これらの染色施行後には蛍光が消失するため、一度蛍光観察を終えた後に施行すべきである。このように、蛍光染色法は多分野への応用ができるため、微生物培養検査を行っていない検査室でも可能な感染症一次検査として有用である。
10:細菌集落が放つ自己蛍光
蛍光染色ではないが、細菌培養後の菌集落自身が自己蛍光を発する菌種も存在する。代表的な菌種としては、Pseudomonas aeruginosaが産生する蛍光性の黄緑色のピオベルジン(フルオレシン)、Pseudomonas fluorescensなどがある。この中でLegionella属は、暗室で長波長UVランプ(Wood's lamp)を照射すると特徴的な自己蛍光により、以下の3群に分けることができる。
- a.
- Bright blue-white fluorescence
(1)Legionella bozemanii (5)Legionella tucsonensis (2)Legionella dumoffii (6)Legionella cherrii (3)Legionella gormanii (7)Legionella parisiensis (4)Legionella anisa (8)Legionella steigerwaltii - b.
- Yellow-green fluorescence
(1)Legionella wadsworthiii (2)Legionella birminghamensis - c.
- Red fluorescence
(1)Legionella erythra (2)Legionella rubrilucens
まとめ
蛍光染色法は、基礎研究において今や不可欠な技術として確立されているが、臨床検査における応用性はいまだ十分とは言い難い。従来の蛍光顕微鏡は使用環境上からの課題が多かったが、LED技術の進展により大きく改善され、ハード面からの課題は急速な進展を遂げている。また、蛍光染色剤の開発・応用などソフト面からの進歩も目覚ましく、ほとんどの用途に適応可能な染色法を探し出せる。
また、固定細胞の染色のみならず、生細胞の代謝・動態を観察する技術も革新的な進展を遂げている。さらに、蛍光染色を用いて生細胞の深部機構を観察する顕微鏡としては、SPIM(Selective Plane Illumination Microscope:選択的平面照明顕微鏡) 、DSLM(Digital Scanned Light-sheet Microscopy)、や光子顕微鏡、多光子励起レーザー走査型顕微鏡 や共焦点顕微鏡など多くの機能を有する顕微鏡が開発されている。しかし現段階では、高価で高度な技術を要する機器が多く、臨床検査への即応は困難であるが、これらの機器を用いた検査がそう遠くない日に日常検査にも応用されるものと思う。
参考文献・web site
- 山口進康、他:微生物試験とリアルモニタリング
(国立医薬品食品衛生研究所 医薬品部 ウェブサイト)
(PDF) http://www.nihs.go.jp/drug/PhForum/9thRecord/12yamaguchi.pdf - 蛍光試薬一覧(オリンパス社 ウェブサイト)
http://www.olympus.co.jp/jp/lisg/bio-micro/product/mf20_reagent/index.cfm - UIS FLUORESCENCE MIRROR UNITS TECHNICAL SPECIFICATIONS
(Olympus Microscopy Resource Center ウェブサイト)
(PDF) http://www.olympusmicro.com/brochures/pdfs/mirrorunits.pdf - 落射蛍光顕微鏡とは(ニコン社 ウェブサイト)
http://www.nikon-instruments.jp/jpn/products/option/index1.aspx - Manual of CLINICAL MICROBIOLOGY(10th Edition):ASM press:2011
図4・5イラスト/菅原 智美
2012.10