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検査室支援情報

検査の樹 -復習から明日の芽を-菅原 和行(菅原バイオテク教育研究所)

6. いまさら、でも大切な『次亜塩素酸ナトリウム』について

1:はじめに

次亜塩素酸ナトリウムは、オキシハロゲン酸塩に分類される極めて一般的な試薬で、多くの別名(Bleach liquor;Bleaching solution;DAKINS solution *商品名;Antiformin *商品名;CHLOROS *商品名;次亜塩素酸ソーダ;さらし粉;クロナトロン液など)でも呼ばれている。
検査室でも『じあ』の略称で通じる馴染み深い試薬の一つである。実際、検査室の中にある流し台下の隅や試薬庫中で数本の試薬容器を見つけることができる。その用途としては、感染性微生物の不活化、遺伝子増幅産物や不要遺伝子の分解を目的に使用されている。また、特殊な用途として、抗酸菌検鏡検査における喀痰の可溶化にも用いられている。次亜塩素酸ナトリウムは、検査室や多くの分子生物学実験室で、一般的に常用される試薬であるため慣性的に使用され、その特質や注意点などを忘れがちである。今回は、今一度、臨床検査室や研究室に不可欠な試薬として改めて整理してみたいと思う。

2:化学的な性質

次亜塩素酸ナトリウム(sodium hypochlorite:NaClO)は、次亜塩素酸のナトリウム塩で、酸化作用、漂白作用、殺菌作用を持ち、不安定で分解しやすい性質がある。酸性では極めて急激に分解反応を起こし、塩素ガスを発生するが、アルカリ性では比較的安定なため、製造時は遊離アルカリを0.4%前後に調整し、pH12以上の強アルカリ性にしている。希釈した水溶液はアンチホルミンと呼ばれている。

特性としては、モル質量:74.44g/mol、外観:白色固体、密度:1.07-1.14g/cm3、融点:18℃(水和物)、沸点:101℃(分解)、水への溶解度:29.3g/100ml, 0℃などがあげられる。通常、市販品は次亜塩素酸ナトリウム水溶液を希釈し、有効塩素濃度を、5%、6%、10%、12%にしたものがほとんどである。緑黄色の透明な溶液で、塩素に似た臭気を持っている。

常温でも徐々に自然分解するが(図1)、日光特に紫外線や温度上昇により分解は促進する。また、溶液中に重金属(コバルト、ニッケル、銅、鉄など)および塩類が存在すると著しく分解が促進する(表1)。さらにpH値が低下すると分解が促進し、特にpH7以下の酸性になると分解反応が生じ、pH5より酸性下では急激に塩素ガスが発生するため危険である。pH5~7の領域は、次亜塩素酸態濃度が最も高いため強い殺菌作用を示す。

有効塩素濃度の経時変化

図1 有効塩素濃度の経時変化

表1 分解反応式

(1)自然分解 NaClO=NaCl+O
(2)光化学分解 2NaClO=2NaCl+O2
NaClO+O2=NaClO3
2NaClO+O2=2NaCl+2O2
(3)加熱分解 2NaClO=2NaCl+O2
NaClO+O2=NaClO3
(4)酸分解 NaClO+HCl=NaCl+HClO
2HClO=2HCl+O2
HClO+HCl=H2O+Cl2
(5)重金属による触媒的分解
  (注:Mは重金属を示す。)
2MO+Cl2O-=M2O3+Cl2
M2O3+ClO-=M2O3ClO-(吸着)
M2O3ClO-=2MO+Cl+O2
(6)pHの変化による分解 2ClO-=O2+2Cl-
3ClO-=ClO3+2Cl-
2HClO=O3+2Cl-+2H+

3:化学的な反応性

酸化作用により金属類、繊維類のほとんどが腐食されるので、有効塩素濃度を保持するためには使用濃度に調整した後、容器や清拭に用いる繊維の材質、放置時間などに充分注意する必要がある。使用法によっては、有効塩素濃度が著しく低下する可能性すらある。一度、使用素材をチェックし放置時間に伴う有効塩素濃度の減衰を検証しておくと有効活用できるものと思われる。耐食素材としては、チタン、ガラス、陶磁器などがある。硬質塩化ビニール、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、フッ素樹脂、軟質塩化ビニール、エボナイトなども耐食性を示す。ゴム類の耐食性は劣る。

また、次亜塩素酸ナトリウムは、取り扱いによっては爆発を危惧する報告がある。1980年代に三重県四日市で、作業員が次亜塩素酸ナトリウム水溶液をタンクに移し替える際にホースが外れ、水溶液を浴びてしまった。作業員はぬれた衣類を洗わずに日に干して乾かし、そのズボンをはいて歩いたところ、摩擦によって爆発が起き重体になったという事例がある。これは、次亜塩素酸ナトリウムをセルロースを主体とする布地に浸み込ませて40~50℃に保って乾燥させると、不均化反応により爆発性の塩素酸ナトリウムに変わるためである。この時の次亜塩素酸ナトリウムは高濃度のものであるが、一般的に使用する試薬は希釈されているため、このような危険性はないとされている。しかし、衣類などの繊維にかかった場合は、すぐに水で充分に洗浄する習慣をつけておくべきである。特に色物の衣類では脱色されるので注意が必要である。

3NaClO → 2NaCl + NaClO3

4:検査室での用途と効果

検査室で次亜塩素酸ナトリウムを使用する目的は、大きく二つに分かれる。一つは、被験材料に由来する微生物の検査作業域もしくは周辺に飛散した汚染対策の殺菌やウイルスの不活化である。これらの作業では、環境中からの微生物対応も含まれる。

通常、一般細菌や酵母は濃度が0.01~0.1%(100~1,000ppm)の次亜塩素酸ナトリウム水溶液に20秒~10分、結核菌は0.1~2%(1,000~20,000ppm)の水溶液に10分~30分浸せば死滅する。また、枯草菌の芽胞は0.01%(100ppm)の水溶液に浸せば、5分以内に99.9%が死滅するとされている。一般のウイルスでは、0.02~0.1%(200ppm~1,000ppm)の水溶液に浸せば1~30分で不活化し、B型肝炎ウイルス(HBV)は、0.1~2%(1,000ppm~20,000ppm)の水溶液で20分~1時間の処理が必要とされている(表2)。また、次亜塩素酸ナトリウムは、温水を用いた場合、短時間で効果が表れるとされている(82℃、2分以上)。

表2 消毒薬と作用時間

微生物 次亜塩素酸ナトリウム 消毒用エタノール
濃度 作用時間
一般細菌・酵母 0.01~0.1% 20秒~10分 10秒~1分
糸状真菌 0.01~0.1% 10~30分 2~10分
結核菌 0.1~2% 10~30分 20分
細菌芽胞 1% 3時間 (無効)
ウイルス 0.02~0.1% 1~30分 1~30分
B型肝炎ウイルス 0.1~2% 20分~1時間 (効果あり)

もう一つは、遺伝子検査で実施する、不要遺伝子もしくは作業中に飛散した増幅産生DNAの分解を目的とするものである。この場合、有機物の混入は限定的であるが、TE buffer混入の可否により変わってくる。日常の机上や作業台を清拭する場合は0.1%程度の濃度で、汚染が強く疑われる場合は0.5%程度に上げるのが望ましい。また、作業に使用した器具や機器類は1~0.1%の水溶液に数分~1時間位作用させ、汚染が強い場合は一晩浸漬するのが良いが、この場合は材質の腐食との兼ね合いが重要である。増幅産物の汚染対策としては、TE bufferの使用が頻繁な遺伝子増幅検査では、0.5%程度の濃度での使用が安全であり、処理後の中和や水での洗浄操作が重要と思われる。

使用濃度が濃すぎた場合もしくは中和処理や水での洗浄を怠ると残留塩素が高くなり、次の分析作業に弊害を生じることがある。例えば、汚染DNAを除去する目的で濃い次亜塩素酸ナトリウム水溶液を使用し遺伝子増幅器を清拭した後にそのまま分析した結果、遺伝子検査が偽陰性化した事例などがある。

濃い次亜塩素酸ナトリウム水溶液を使用した場合は、器材の腐食を加味した使用時間の配慮と使用後の水による充分な洗浄もしくはハイポ液による中和などが必要となる。さらに、次亜塩素酸ナトリウム水溶液はアルカリ性に保持されているため、pHの影響を受ける検出反応系では充分な洗浄とpHの中和も念頭におく必要がある。特に生体試料については、個別の成分についての有効濃度や処理時間などの詳細なデータ数が乏しいため、有機物による有効塩素の不活化などを推定して使用するなど考慮すべき要因が多く存在する。

5:殺菌作用

次亜塩素酸ナトリウムの水溶液中には、遊離残留塩素または有効塩素と呼ばれる次亜塩素酸と次亜塩素酸イオンとが存在する。これは、図2に示したように溶液のpHに依存しアルカリ性では次亜塩素酸イオンが、中性から酸性域では非解離型次亜塩素酸が多く存在する。また、非解離型次亜塩素酸はpH5、6より低いと急速に塩素ガスを発生し分解する。

温度とpH値の変化に対応する水中の塩素酸、次亜塩素酸の分布

図2 温度とpH値の変化に対応する水中の塩素酸、
次亜塩素酸の分布(Morris J. C.による)

次亜塩素酸ナトリウムによる殺菌作用機序は充分には解明されていないが、この有効塩素の強い酸化力により、微生物やウイルスなど病原生物の細胞膜や細胞壁(形質膜など)の損傷、酵素活性の失活(表3)、内部のタンパク質や核酸を変性させるといわれている。

表3 in vivoにおけるコハク酸脱水素酵素、
アデノシントリフォスファターゼ(ATPase)、カタラーゼ(Catalase)の塩素による影響

塩素量 コハク酸脱水素
酵素の活性(%)
ATPase
活性(%)
Catalase
活性(%)
mg/L μg of Cl
mg粗抽出液中のN
0 0.0 100 100 100
5 3.0 80.0 100 100
10 6.0 56.5 100 100
25 15.0 45.0 100 100
50 30.0 26.0 100 100
100 60.0 10.0 100 100

*脱水素酵素群も影響を受ける
微生物制御実用辞典(フジ・テクノシステム:1993年)より一部抜粋

次亜塩素酸と次亜塩素酸イオンの有効塩素のうち、次亜塩素酸イオンは、微生物細胞の脂質二重層を透過できないため細胞の外からの酸化作用であるが、非解離型次亜塩素酸は適度の分子サイズと電気的に中性なため受動拡散により細胞壁と形質膜を透過して細胞の内部に入り、細胞の中と外の両面から酸化作用を及ぼす。そのため強い殺菌作用を発揮するといわれている。

有効塩素(残留塩素)には遊離有効塩素と結合有効塩素がある。次亜塩素酸(HOCl)と次亜塩素酸イオン(OCl-)は遊離有効塩素だが、殺菌作用(滅菌効果)は前述の理由により次亜塩素酸(HOCl)の方が大きい。水中の遊離有効塩素である次亜塩素酸(HOCl)は、pH5~6付近で最も濃度が高く、溶解水のpH5程度のときに最も多く存在するため、溶解水のpH5程度のときが最も殺菌作用(滅菌効果)が強いとされている。

6:使用上の注意点

次亜塩素酸ナトリウム水溶液による反応は遊離塩素化反応なのでトリハロメタンなどの有機塩素化合物類を生成する。次亜塩素酸ナトリウム水溶液を塩酸などの強酸性物質と混合すると、黄緑色の有毒な塩素ガスが発生する。

NaClO + 2HCl → NaCl + H2O + Cl2

次亜塩素酸ナトリウムは、タンパク質と接触すると、NaOCl→NaClとなる低残留性の消毒薬であるが、反面、タンパク質が多い喀痰中の結核菌は次亜塩素酸ナトリウム3.5%中でも数時間以上生存しているという報告もあり、喀痰の可溶化に次亜塩素酸ナトリウムを使用した場合、菌体の死滅化という観点からは、熱処理法など他方との併用が必要である。また、次亜塩素酸ナトリウムは、保存中に自然分解するため自然分解を抑えるには冷所保存(15℃以下)が必要であり、長期保管は避けるべきである。

7:中和法

次亜塩素酸ナトリウム水溶液は低い濃度でも水生生物に毒性を示すため、廃棄する場合は必ず有効塩素を中和して廃棄すべきである。また、次亜塩素酸ナトリウムを用いた実験での反応停止や機器内の洗浄に使用した後などには中和反応が必要で、有効塩素の中和にはチオ硫酸ナトリウム(Na2S2O3・5H2O)を使用する。高い濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液の中和には固形のチオ硫酸ナトリウムを使用する。注意点は、有効塩素1%以上の濃度で中和を行うと急激な反応によりpHが低下しガスが発生する事があるので必ず1%以下に薄めてから中和することである。また、この中和反応は、有効塩素の中和であり、pHを中性にするものではない。使用量としては、6%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液1Lに対してチオ硫酸ナトリウム5水和物約50gを、12%の水溶液1Lには約100gを使用する。

次亜塩素酸ナトリウム液の中和に必要なチオ硫酸ナトリウム5水和物量の算出
4NaOCl + Na2S2O3 + H2O → Na2SO4 + H2SO4 + 4NaCl
分子量 : 4NaOCl:74.44g/mol、Na2S2O3・5H2O:248.19g/mol
[次亜塩素酸ナトリウム液濃度(%)] × [処理量(L)] × 0.83 ÷ 100 = [理論量(kg)]
[次亜塩素酸ナトリウム液濃度(ppm)] × [処理量(L)] × 0.83 ÷ 1000 = [理論量(g)]

8:有効塩素量を調べる

次亜塩素酸ナトリウムの濃度は、含まれる塩素量を表しているのではなく、有効塩素として表示する。有効塩素は、次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)の分解によって生成する酸素原子の酸化力に相当する塩素原子の量を表す。実際の測定法は以下の通りである。
『試験液10mlを正確に量り,水を加えて正確に100mlにする。この液10mlを正確に共栓フラスコにとり,水90mlを加えた後,ヨウ化カリウム2gおよび薄めた酢酸(1→2)6mlを加え,密栓してよく振り混ぜ,暗所に5分間放置する。遊離したヨウ素を0.1Nチオ硫酸ナトリウム液で滴定する(指示薬:デンプン試液3ml)。同様の方法で空試験を行ない補正する。0.1Nチオ硫酸ナトリウム液1ml=3.7221mg NaClO(「第十一改正 日本薬局方解説書」(廣川書店,1986))』
簡易な測定器や試験紙としては、「ハンディタイプ残留塩素計(堀場製作所):調理水、プールなどが対象」、「残留塩素比色測定器(アドバンテック東洋)」、「ADOVANTEC Chlorineクロール試験紙(10~50ppm)、(25~200ppm)濃度測定値(変色表) 10、20、30、40、50mg/L(ppm):水溶液中の次亜塩素酸(HClO)および次亜塩素酸イオン(ClO-)量を酸化還元反応により測定する試験紙」である。

9:有効塩素と残留塩素の違い

次亜塩素酸ナトリウム水溶液中に存在する酸化力のある塩素を有効塩素と呼ぶ。次亜塩素酸(HClO)や次亜塩素酸イオン(ClO-)がこれに相当する。残留塩素とは、有効塩素が処理水中で酸化作用(殺菌作用)を起こしたり、処理水中の有機物などと反応したり、分解したりした後に残留している有効塩素のことを残留塩素と呼ぶ。
残留塩素には、遊離塩素と結合塩素があり、次亜塩素酸や次亜塩素酸イオンを遊離塩素、処理水中のアンモニアと反応して生じたクロラミン(NH2Cl)のうちモノクロラミンとジクロラミンは結合塩素と呼ばれ、遊離残留塩素に比べればおよそ数分の1の効果ではあるが、酸化力による殺菌、消毒作用を持っている。

10:使用上の安全性

一般的に普及した試薬だが、危険性と健康管理上からの取り扱いの注意点は守るべきである。使用前に製品安全データシート(MSDS)を読み、薄めたアンチホルミンであっても刺激は強いので、使用時の保護具(保護メガネ、手袋、保護マスク、保護着など)の着用は順守し、長時間の使用は避けるべきである。また、容器の横転、転倒、落下などの衝撃は容器の破損などによる液漏れにつながるため充分に注意が必要である。

参考文献・web site

  1. 消毒薬
    http://hobab.fc2web.com/sub6-sterilization.htm
  2. 次亜塩素酸ナトリウム(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)
  3. 白川 卓、ほか:次亜塩素酸ナトリウムによる核酸の分解 神大医短紀要、7:17-21(1991)
  4. 福崎 智司:次亜塩素酸ナトリウムの特性と洗浄・殺菌への効果的な利用、食品工業、8月30日号,36-43(2006)
  5. 高杉製薬工業株式会社:次亜塩素酸ソーダ 取扱説明書、2009年6月22日(改定)
  6. 日本ソーダ工業会:安全な次亜塩素酸ソーダの取扱い、平成18年11月20日(改定)
  7. 石井泰造監修:微生物制御実用辞典、フジ・テクノシステム(1993)

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