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検査室支援情報

検査の樹 -復習から明日の芽を-菅原 和行(菅原バイオテク教育研究所)

11. こんなとき、この方法を試してはいかがでしょうか

臨床検査や実験などの作業には、疑問を感じながらもこれまでの慣性に流されて改革に至らない事例や、使用済みの試薬・器材の廃棄作業に改善の必要性を感じながらも時間に追われるなど、改善への一歩を踏み出せない事例がある。しかし、些細な工夫や知識の応用で大きな作業軽減や経済効率が得られることがある。また、直接的なメリットは得られないが環境保護の観点から実行すべきこともある。これら作業へのひと工夫は、一部の施設だけにとどまり普及していない事例が多い。今回は、筆者の独断と偏見で、周知の度合いには差があるが、有用と思われる事例を列挙した。内容的には古い事例から、近年の書籍や資料による事例および独自の工夫や先人から引き継いだ事例を紹介する。なにぶん、筆者一人の知識であることから、陳腐な事例、不確実な作業操作、さらに公知の方法ではないことなどにご配慮頂き、お目通し頂きたい。

1:「脱色液の交換が大変」と「染色液の廃棄処理」

SDS-ポリアクリルアミドゲルでのCoomassie Brilliant Blue (CBBと略され、クマシーG250とクマシーR250がある)によるタンパク質染色では、染色後にゲルをバンド以外のバックグラウンドが透明化するまで長時間をかけて脱色する。その際、脱色液(50mLメタノール、70mL酢酸、880mL精製水)を交換しながら行う。この場合、炭素粉末が出なくなるまで水流にて充分に洗浄した活性炭一握りほどをガーゼに包んで脱色液中に紐でつるし、脱色液をマグネットミキサーで攪拌すると、脱色液の交換が必要なく染色バンドも早く鮮明になる。近年は、水洗だけで脱染色できるGelCode Blue Safe Protein Stain(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)も市販されている。

アガロースゲルで電気泳動したDNAの染色にはエチジウムブロマイド(EtBr)が使われる。EtBrが濃すぎた場合や染色時間が長すぎたときは、バックグラウンドが染まりバンドが見えにくく感度が落ちる。この場合は、染色液を含まない泳動用緩衝液中にゲルを十数分間浸漬しておけば、バンド以外の領域のEtBrは抜けて鮮明なバンド像が得られる。

廃棄する染色液の脱色法にはいくつもの方法があり、方法によっては思わぬ化学反応を起こすこともあるので事前に調査もしくは専門家のアドバイスを受け、小スケールで試行しておくと良い。鍍銀染色の銀液は、使用後の液を集め、過剰の食塩を加えて混和すると白濁し、そのまま静置しておくと塩化銀が析出沈殿する。

DNAの電気泳動ゲルの染色には前述のEtBrが主に使われる。EtBrは変異原性が強いのでその扱いには注意が必要である。EtBrを廃液タンクにため、次亜塩素酸ナトリウムや漂白剤で脱色して廃棄する施設がある。しかし、この処理法については、Molecular Cloning初版でも「次亜塩素酸ナトリウムや漂白剤で処理すべきでない」と記載しているように、脱色しても変異原性は残ったままである。むしろ、生態系への影響を考慮した場合、次亜塩素酸処理によりその作用は強まるかもしれない。処理法としては、活性炭で吸着し、焼却処理(適正な焼却により無毒化)するのが良い。同様な考え方として、おからへの吸着も提案されている。近年は、乾燥おからも市販されているので回収法さえ確立できれば安価な方法である。また、変異原性を分解するEtBr Destroyer(和光純薬社:EtBrの二重構造を壊しインターカレートできなくする薬品で、SYBRR Green、SYBRR Gold、SYPROR ORANGEにも適応可能)という市販品もある。

臨床検査に使用する色素は多種多様なため、活性炭などへの吸着、凝集沈殿剤の活用、もしくは次亜塩素酸(使用後、チオ硫酸ナトリウムでの中和が必要)での化学的な脱色法などを応用できる。しかし、これらの脱色法で処理を終えてもすぐに下水道への排水はできない。廃液処理に関しては施設の規則、自治体の排水規制を遵守すべきである。これらの処理は、染色液貯留中の破損、転倒などのトラブル回避、染色槽の汚染回避、廃液処理の軽減化を目指すものである。近年は、専用の染色パッドを使用した、染色液を排出しないeStain(GenScript社)などの電気染色法製品も市販されている。

廃液処理などに活用頻度の高い活性炭とは、炭素物質(おがくず、木材チップ、木炭、草炭、ヤシ殻炭、石炭、オイルカーボン、フェノール樹脂、レーヨン、アクリロニトリル、石油ピッチなど)を高温(500~700℃、700~1000℃)でガス(水蒸気、二酸化炭素、空気、燃焼ガスなど)や薬品(塩化亜鉛、リン酸など)と反応させてつくる、微細孔(直径10~200Å)を持つ炭素である。成分は90%以上が炭素で、微量ながら原料固有の成分や製法による灰分を含む。形状により、粉末活性炭、粒状活性炭(破砕炭、顆粒炭、成型炭)、繊維状活性炭(フェルト、クロス、紙、ファイバー)、特殊成型活性炭(ハニカム状、シート状、板状、ウレタンホーム成型品など)と分けられる。微細孔の壁が大きな表面積となり、ここに種々の物質を吸着する。個々の活性炭の吸着能を比較するには、メチレンブルー液などの吸着を一指標として利用できる。

2:急いで試薬を加温したいのに恒温槽は冷えている

試薬が急に足りなくなった、室温に戻すのを忘れたなど、保冷中の試薬を急いで加温しないといけないときに、恒温機が冷えた状態から目的温度に到達するまでには時間がかかる。このような場合には、電気ポットや電気ケトルのお湯を使って加温するのが最も早い。しかし、試薬を湯浴に直に浸けると、試薬ラベルが剥がれたり、ラベルの文字が滲んで見えなくなったりする。このようなときは、ビニール袋(高温で使用する場合は耐熱性のもの)に試薬瓶を入れてからお湯の中に入れると、水圧でお湯が瓶に密着し加温効果は高くなる。また、試薬瓶のラベルがお湯で破けることもなく便利である。

これは、固形フェノールを液化する場合や保存温度より高い温度で使用する試薬などに応用できる。この際、お湯を張る容器には厚めの発泡スチロールを用いると保温性が高く便利である。また、小さな試薬瓶で短時間加温する場合は、洗浄した縦型カップ麺の容器を使用すると場所をとらず攪拌も容易である。 また、意外と困るのが加温したい試薬ビンが浮くことである。この場合は、試薬ビンが倒れない程度のやや大きめのビーカー(カップ酒の廃瓶も活用性が高い)などに同じ高さまでお湯を入れ、このビーカーごと入れるとお湯は冷めにくい。このときの試薬の加温温度、お湯の交換時間および量などは経験を重ねる必要がある。また、逆に温かい試薬を冷却する場合にも応用できる(図1)。

急な事態でも、周辺の器材を使って応急的な対応を図る

図1 急な事態でも、周辺の器材を使って応急的な対応を図る

3:核酸の移動を見ながら電気泳動したい

近年は、遺伝子検査でも核酸を電気泳動する機会が減ってきたが、ゲル電気泳動は最も重要な基本操作である。核酸の電気泳動では、泳動ごとに緩衝液の液温、イオン強度、ゲルの厚さなどが微妙に異なり、泳動距離を正確に一定化するのは困難である。しかし、サンプルの移動度をリアルタイムにモニターできれば容易となる。また、これは視覚的インパクトが強く学生実習や初心者には感動を与える。異なるサンプルの泳動時間と移動距離がリアルタイムに観察できるのでゲル電気泳動の機構を理解するのに有用である。

やり方は、セーフブルー電気泳動フルシステム(MBE-150PLUS:日本ジェネティクス社)、Non-UVトランスイルミネーター・ダークリーダー(DR-46B:ビーエム機器社)などブルー光を発するトランスイルミネーターの上にUV透過泳動槽(例MupidR-exUなど)を載せて電気泳動する(セットした状態で試料を添加するとよい)。電気泳動しながらブルー光を照射もしくは随時照射する。観察するときは透明なオレンジ板フィルターを掲げるもしくはオレンジのメガネをかけるとバンドが見える。この方法では、DNAの試料を前染色しておく必要がある。染色色素としては、SYPROR Orange、SYBRR Safe、EtBr、GFP、FITC、SYBRR Greenなどを用いることができる。

4:グラム染色または抗酸染色した一枚しかないスライド標本の一端に真菌染色したい

微生物検査でグラム染色(または抗酸染色、以下同様)したスライド標本を観察しているとき、非染色性の微生物が疑われ、形状から真菌類と推察されるが確信が持てない。真菌染色を試したいが再度標本を作製する検体はない。確信が持てないため検体の再提出は依頼しにくい。また、グラム染色像は残しておきたい。このような一見無理な状況と遭遇したときの方法を紹介する。

まずは通常通りにグラム染色し、油浸観察を終えた標本からキシレンで油浸オイルを除去する。乾燥した標本の残したいグラム染色像の領域に3M社『黄ばみにくい超透明テープScotch透明粘着テープ透明美色3M』を貼ってシールする。このとき、貼り付けるテープの上を消しゴムサイズにカットした厚いゴム板でゆっくりと擦りながら覆うと気泡を入れずに貼れる(数回の練習が必要)。そしてテープの不要部分をカットする。この後、グラム染色した標本のテープ非貼付部分に真菌染色する。また、テープの貼付が上手くなってきたら、グラム染色を終えた油浸オイルを滴下する前の標本にテープを貼付すると、油浸観察後のキシレン処理が要らず作業が容易となる。

この場合の真菌染色は、蛍光染色法を推奨する。濃い染料もしくはテープを染めるような染料ではグラム染色が見にくくなるので事前に試しておく。テープを貼り付けた部分はスライドと十分に密着させれば一時間くらい水中に浸漬しても剥がれない。
テープを貼った領域で、再度油浸によるグラム染色像を観察でき、テープを貼っていない領域で真菌を蛍光観察する。グラム染色で数片の菌糸様構造を疑って真菌染色した標本から、多数の菌糸を検出した経験を筆者は持っている。

テープを貼った部分でのグラム染色の観察は、テープの上に油浸オイルを滴下して油浸観察ができ、観察終了後は、レンズ拭きペーパー等にエチルアルコールを付け、拭くとオイルは簡単に除ける。また、この操作は何回も可能なため学生実習などにも活用できる。注意点としては、蛍光染色した部位にテープを貼るとテープが励起光を遮断し蛍光観察ができない染料もあるので、事前に不要な標本で確認する。効果の是非は使用する染色液や方法、標本の厚さなど手技により微妙に異なるため、貴重な標本では直接試さず、不要な標本にて試行、確認の上、実施して欲しい。さらに、保管期間についても随時確認しながら自己責任のもとで試して頂きたい(図2)。

超透明テープを添付してグラム染色像を保護する

図2 超透明テープを添付してグラム染色像を保護する

5:染色台を汚さずに細菌染色したい

細菌検査室の流し台には、2本のガラス棒が平行に渡され、その下に色素がこびりついた光景を目にすることがある。これは、美的感覚だけの課題ではなく、フェノール等の排水規制への対処法も問題となる。フェノールは消毒剤としてスライド標本の殺菌、染色液の防腐およびその化学的特性を活かした染色法や核酸の分離精製などに古くから用いられてきた。検査室では、従来から手軽に使用されてきただけに比較的無頓着な使用法が慣例化している傾向があるが、フェノールは水質汚濁防止法の対象物質である。

フェノールフリーの染色液は別として、一般的に抗酸染色液には約3~8%のフェノールを含む。フェノール3%を含む染色液2mL(約1枚のスライド染色相当量と仮定)を使用した場合、絶対量として60mgのフェノールを含む。これを排水可能濃度まで薄めるのに12Lの水が必要である。フェノール8%を含む染色液2mLの場合は、160mgのフェノール量となり32Lの水を必要とする。この数字は、1枚の標本を染色した例として挙げたが日常検査ではもっと多くの排出が予想される。また、当然貴重な水資源であるから薄めれば排出しても構わないとの概念にはならない。水質汚染を可能な限り防止し、水資源の乱用防止に努めるべきである。

排水の許容限度例を挙げると、フェノール類は5mg/L、溶解性マンガン含有量は10mg/Lである(1日当たりの排水量が50立方メートル以上である工場または事業場に係る排出水について適用する)。フェノール類とは、芳香族化合物(ベンゼン環を持つ化合物)のベンゼン環の水素が水酸基(OH)で置換された化合物の総称で、水質汚濁に関連するものとしては、フェノール(石炭酸)、クレゾール(C6H4(OH)2)、ニトロフェノール等がある(平成8年2月 水質検査の基礎知識(近畿地方整備局近畿技術事業所)より抜粋)。

この対策としては、テーブルトップ染色トレー(スギヤマゲン社)などを使用し、染色液を貯留する器材を使用する。少し手をかけるとホームセンターや100円ショップで適当なサイズのプラスチック容器を購入し、割り箸を渡し接着してもつくれる。この際、吸水紙(吸水ポリマーを含む吸水シートはより効果的)を下に置けば使用した染色液は焼却廃棄物として出せる。また、スライドに付着した濃い染色液は、水洗前に洗浄瓶で吸水紙に軽く流すと少量の貯留水できれいに洗浄できる。この洗浄水をためて、活性炭やケイソウ土処理をすると清澄水となる。今後は、操作面からだけでなく環境や資源にも充分に配慮した検査法が求められる。

6:曲面に直接接触サンプリングできる培地が欲しい

培養法は、全ての細菌を増殖させ検出することはできないが、現時点では最も簡易で効率性の高い方法の一つである。また、臨床検査では、いろいろな環境や器具類の培養検査を依頼されることがある。用途としては多くないが、拭き取り検査よりも直接培地に接触させて培養できれば好都合である場合、曲面や面積がやや広い器具などには、既成の培地製品では対応しにくいことがある。このような場合、アガロースゲル用GelBond Film(Lonza社)を用いたフィルム培地を作成してみて欲しい。

フィルムにはアガロースゲル用とポリアクリルアミドゲル用とがあり、数種のサイズとロールタイプが、タカラバイオ社、GE Healthcare社、ロンザジャパン社から市販されている。
このフィルムの片面はゲルが固着するように処理されているため、調製した通常の培地ゲルが剥がれることはないが、もう一方の面は無処理なため使用面を間違えた場合、培地は剥がれ落ちる。作成法としては、必要サイズにカットしたフィルムを平らな所でゲル面を上にして置き、UV光で殺菌する。シリコン板をカットして作成した任意のサイズの枠(操作が容易なように、フィルムには培地を載せない充分な余白をつくり、シリコン枠は予めオートクレーブしておく)をフィルム上に設置し密着させる(この場合シリコンに重しを載せると培地が流出しにくい)。任意の培地を滅菌した後、冷却して培地をシリコン枠内に流して固化する。

培地表面を内側に曲げると遊離水が出やすいので適度に乾燥させる。ピンセットでシリコン枠を外して使用する。この培地は、通常の寒天培地のように逆さまにして培養する場合に特殊な支え(裏面を両面テープで貼る)が必要である。また、フィルムサイズと適合した滅菌可能なプラスチック容器を予め調達しておくとよい。

7:抗酸菌をスライドカルチャー(迅速培養)で検証したい

文献では、顕微鏡観察する目的で作成された固定後のスライド標本に抗酸菌生存の検証や、多剤耐性結核菌の迅速検出などにスライドカルチャー法が用いられている。その方法は、二つある。一つ目はスライドガラスに塗抹・乾燥および固定した標本、もしくは染色を終えたスライド標本から、綿棒でそぎ落として検体とする。二つ目は、スライド標本をそのまま培養する。本稿では、バイオハザード上の課題や操作の簡易性から報告の多い後者を紹介する。

液体培地としては、(1)クエン酸加ヒト全血を等量の滅菌蒸留水で溶血させたもの(文献では、血液センターから採血後4週間以内の古くなった血液を入手):Human Blood Medium (HBM) (2)羊血液を同様に等量の滅菌蒸留水で溶血させ、溶血液200mLあたり1個の鶏卵(約60g)を加えたもの:egg enriched Sheep Blood Medium (SBM)、これらのいずれかを使用する。(1)(2)には、polymixin B 200,000 ユニット/L、carbenicillin 100mg/L 、trimethoprim 10mg/ L、amphotericin B 100mg/Lを加え、pHを6.5~7.5に調整する。滅菌したスクリューキャップ付きMcCartney bottleに液体培地 10mLを分注し、2~8℃に保存する。文献には、 Middlebrook 7H9にAlbumin Dextrose Catalase(ADC)と、Polymyxin B、Ticarcillin、Trimethoprim、Amphotericin B(MASTタブレット含有、1タブレット/ 500培地)を添加した液体培地を使用した報告もある。

まず、被検対象のスライド標本を準備する。臨床検体からの培養検出、迅速な多剤耐性結核菌の検出、火炎もしくは加熱固定したスライド標本の生存菌有無の検証など応用目的は異なる。そのため検証実験の各コントロールやサンプル数プロトコルは、各位の創意計画に委ねる。被検材料はいずれもスライドガラス上に乾燥したものが対象となる。喀痰初代培養への応用例を示すと、集菌・雑菌処理後の喀痰から2枚のスライド標本を作製する。1枚はスライドの中央に塗抹・乾燥・固定後、Ziehl Neelsen染色し観察する(slide 1)。もう1枚はスライドガラスの下1/3部に塗抹・乾燥する。スライドカルチャー用のスライドはMcCartney bottleの口径に入るようにガラススライドを縦方向に2分割する(筆者は、培養液は少し多くなるがPPマルチトランスチューブ(滅菌、アジア器材社)を使用し、スライド標本は分割しない)。McCartney bottleにスライドを入れ、傾斜状態で培地に浸漬し、37℃で7~8日間培養する(報文ではおおむね7~12日)。

培養を終えたスライドを取り出し、表面の過剰な溶血液を滅菌蒸留水に浸漬し、除く。次いでスライドを80℃オーブンに30分間入れる。この後、Ziehl-Neelsen染色し、次のように判定する。グレード0は陰性、グレード1~4を陽性とする。

Grade 0-:slide1と比較してAFB(Acid-Fast Bacilli)の細胞分裂がない
Grade 1+:コントロールには存在しない4桿菌以上の小さなクランプが存在
Grade 2+:桿菌の大きなクランプ
Grade 3+:大きなクランプといくつかのコード形成
Grade 4+:複数のマイクロコロニーと良好なコード形成

と分類評価する。スライドカルチャーでの結核菌のクランプおよびコードの画像は論文やインターネットに掲載されている。本操作は、生菌を扱うため必ず安全キャビネット内で細心の注意を払いながら行う。また、自己防御のために結核菌培養の装備装着は必須である。

8:電子レンジを使って抗酸染色、真菌染色を迅速にきれいに染色したい

抗酸染色に電磁波(microwave)を利用すると標本の染色像が鮮明となる。電子レンジの機能と活用法により多くの手法が報告されている。
Ziehl-Neelsen法の例を二つ紹介する。

(1) http://library.med.utah.edu/WebPath/HISTHTML/MANUALS/AFB.PDFより抜粋― Carbol-fuchsin液をcoplin jar に入れ、電子レンジで80 power 45秒間照射し、熱い液の中で5分間染色する(通常の方法では 60℃オーブンで1時間)。染色液は濾過して一週間使用できる。以降の操作は、流水で洗浄し、通常の方法と同じ染色操作を行う。

(2) Polysciences,Inc. Acid-Fast BactiStainTM Kit(A Microwave Modification of the Ziehl-Neelsen Method by Churukain.)より抜粋― 45mLの染色液Fuchsin Basicを電子レンジに対応可能なガラスもしくはプラスチックのcoplin jar に入れ、電子レンジの低出力(60W)で1分30秒照射する。スライドを数回上下させ、染色液の熱を均一にする。スライドは加温した染色液中で15分以上染色する(電子レンジを使用しない場合は、室温で1時間染色)。以降の操作は流水で余分な染色液を落とし、酸アルコール液で淡いピンク色になるまで脱色する。1分間流水で洗浄し、蒸留水を2回交換してすすぐ。メチレンブルーで15秒間対比染色を行い、蒸留水を3回交換して洗浄する。

次にAuramine O-Rhodamine Bの蛍光染色の例を紹介する。

(3) Polysciences, Inc.のTB FluorostainTM KitのTECHNICAL DATA SHEET 488より抜粋― 電子レンジ対応のプラスチックcoplin jarにAuramine O-Rhodamine Bを35~40mL入れる。キャップを緩め、15~30秒間照射して65~70℃にする。スライドを上下して加熱した染色液を攪拌し、温度を均一にする。そのまま3、4分間室温もしくは電子レンジ内において温度を安定させ、染色する。再度電子レンジにかけることは避け、過剰に加熱するとcoplin jarから漏れる。以降は蒸留水で色素を除き、酸アルコール脱色、水洗、対比染色、水洗乾燥と通常の方法と同じ操作を行う。電磁波は加熱と還元効果を併せ持つため鮮明な蛍光染色像が得られる。手技上の不明点や疑問点については、インターネットで各染色法名と電子レンジ(microwave oven)とでキーワード検索すると、詳細な手法が多くのサイトで紹介されている。

(4) 白癬症の疑いで皮膚片や爪の検査依頼を受けた場合、KOHで可溶化し、染色を終了するまでに数十分を要する(注:KOH/DMSO液も浸透性が高いが、DMSOを含む可溶化液には電子レンジを使用すべきでない)。このような場合、材料をハサミなどで砕片化し、1.5mLのエッペンチューブ(注:エッペンチューブのキャップは加熱により開かないように、あらかじめ加熱した虫ピンか伸ばしたクリップで中央部を穿孔し、キャップロック(アズワン)を装着できればより安全である)に入れ、10% KOH液を1、2滴滴下する。

キャップをして電子レンジに750W、3秒間かける。軽くタッピングしながら観察し、ほつれが不充分なときは20秒間くらい冷却し、再度、750W、3秒間かける。軽くタッピングし、ほつれていなければもう一度同様に行う。20秒間くらい冷却し、KOHの0.5~等量の染色液(筆者は、Trypan blueもしくは蛍光染色液を使用)を加え、750W、2秒間電子レンジにかける。マイクロピペットに、ハサミで先端をカットして口径を大きくしたチップを装着し、組織片を吸い上げる(ディスポーザブルのスポイトを用いても良い)。染色した内容物約20μLをスライドガラスの中央に置き、その上からカバーガラスで覆い、観察する。固形片が残っているときは、カバーガラスの上から軽く押さえる(図3)。

10% KOHを加え、電子レンジで3秒×数回かけた後、染色液を入れて電子レンジ2秒

図3 10% KOHを加え、電子レンジで3秒×数回かけた後、染色液を入れて電子レンジ2秒


顕微鏡で観察すると清澄化した背景の中に菌体が見える(爪はこの処理法では可溶化できないので、しばらく静置した後、電子レンジの反復照射やKOH/DMSOを使用する)。
電子レンジは、高度な機能を備えた高価な物でなく、レンジ機能だけの安価なもので良い。出力は数段階に分かれたものが便利である。最大出力は500~700W前後あれば十分で、照射時間は、上記条件を目安に実験の上、設定して頂きたい。筆者はPanasonic NE-EH212(最大出力:750W、5段切替タイプ)を使用している。

本操作での死菌化検証はできていないのでチューブキャップは必ず閉め、染色液が突沸しても庫内に飛散しないように、電子レンジで使用可能な小さい蓋付容器を購入し、その中で行う。また、バイオハザードの認識と、金属は使用不可など電子レンジの一般的な注意点は遵守すべきである。電子レンジの心臓部であるマグネトロンは、低負荷(非照射体量が少ない)やアルミホイルの使用などによりマイクロ波が反射させられ、マグネトロン自身を焼いてしまうため短期間に劣化すると言われている。

9:PCRで野生型に混在する微量な変異遺伝子を増やしたい

遺伝子検査の用途は、がん診断、感染症診断、治療薬の有効性評価、体質評価などさまざまである。中でもがんは、診断および治療へと広範囲にわたって最も精力的に遺伝子検査が行われているが、必ずしも順当に成果を挙げているわけではない。がん分野では遺伝子変異の検出が主たる手法である。この最大の課題は、多くの野性型の中に潜む極めて微量かつ多様な変異型を、正確かつ高感度に検出することの困難さが起因するものと思う。例えば、がん組織でも正常組織と白血球細胞とが混在している。ましてや血液を用いた早期がんや血流中への流出が少ない造血器腫瘍の全血からの診断などはまさにこの葛藤といえる。このような場合、まず腫瘍細胞の濃縮は必須であるが、これも簡単ではない。前処理を終えた試料は核酸の抽出・精製操作を経て検査を行う。

この野生型遺伝子(WT)に混在する微量で多様な変異遺伝子(Mutant)を効率的に検出する方法にCOLD-PCR(CO-amplification at Lower Denaturation temperature-PCR)がある。COLD-PCRは、2008年Li,Wang L等がNature Medicine 14(5):579-84に報告した方法で、単一塩基のミスマッチは二本鎖DNAの融解温度(Tm)をわずかに変える。Tmの変化はミスマッチの配列内容や位置によるが、0.2~1.5℃ほど変わる。これは200bp前後より小さいシーケンスに共通する。WT-Mutant二本鎖DNAは、そのTmよりも低い“臨界温度”(Tc)がある。融解温度をTcに設定すればWT/WTのホモアレルは融解しないが、WT/MutantのヘテロアレルはTcで融解し、primerとアニーリングして増幅する。

こうして(1)Denaturation stage (2)Intermediate annealing stage (3)Melting stage (4)Primer aninealing stage (5)Extension stageと5段階を経て、1、2塩基の変異アレルが増幅される。COLD-PCRは手軽に特別な機器を必要としないで行える。しかし、約200bpより小さいシーケンスの分析に限定される、PCR中の正確な変性温度制御は±0.3℃以内が要求され、全ての低レベル変異が優先的に濃縮される保証はないなどいくつかの短所もある。COLD-PCRは、RFLP、 MALDI-TOF、Sanger Sequencing、Pyrosequencing、QPCRなどとの組み合わせにより、高い検出感度と精度を提示している。COLD-PCRはさらに、Full COLD-PCR・前述の(1)~(5)、Fast COLD-PCR・(3)~(5)、さらに、wild type の相補オリゴヌクレオチド(RS-oligo)を加えたIce-COLD-PCR(Improved & Complete Enrichment)も報告されている。COLD-PCR Technologyのライセンスは、現在TRANSGENOMIC社が所有している。

10:むせる微粉末試薬の秤量と色素秤量後の後始末

現在は試薬を秤量して調製する機会は極めて少ないが、もしもの事態に備えて知識として記憶して頂きたい。特に界面活性剤(コール酸ナトリウム、SDSなど)は秤量するときに気を付けて秤量しても微粉末が飛散し、むせ込むことが多い。秤量者は自己防御のためもちろんゴーグルとマスクを着用するが、周辺への飛散は防止できない。このようなときに効果を発揮するのが掃除機の活用である。秤量前に、前面をカットした段ボール箱で天秤を覆い、左右いずれかの上側の角に吸引口を設置し、弱く吸引しながら秤量を開始する。このとき掃除機の排出部を水で濡らし固く絞ったタオルなどで覆う。濡れ過ぎたり、厚過ぎたりすると横から漏れる。覆わないと掃除機の排出口から微粉末が周囲に飛散する。

次に、色素粉末を秤量されたことのある方は、落とした覚えがないのに色素が袖についていた経験をお持ちだろう。色素粉末は荷電を帯びた微粒子であるため、薬さじで色素を薬包紙や容器に移すときに、静電気を発生する器材の周辺に飛散し、付着する。従って、秤量した後の丁寧な清拭処置が不可欠となる。まず、秤量した色素が水溶性であればキムワイプなどを水に浸し、絞ってから周辺を清拭する。この場合、かなりの広域に飛散していると想定して欲しい。非水溶性色素であればキムワイプにエタノールなどを含ませ清拭する。最後に天秤の上皿も外して全体を丁寧に拭き取る。

また、蛍光色素を秤量した場合は、UVランプや最適な励起光を当てながら確認する。色素は目に見えるため、感度的な差異は別として飛散の実態をつかむことができる。しかし、目に見えない非色素系の試薬でも同様の現象が起きている。このような事例から、究極的に突き詰めると、粉末試薬の秤量だけではなく、液体もエアロゾルが飛散し乾燥後は微粉末化する。あるいは飛び散った液体成分も乾燥して微粉末として舞う。このように、室内には眼に見えない成分が、自覚や認識を伴わずに汚染の原因となり意外な誤差を招く可能性があることを強く認識すべきである。

11:おわりに

活用してはじめて知識は活きてくるものと思うが、中には活用する機会がない知識も多い。しかし、充分に理解して得た知識は類似したことへの応用が利く。また、しまっておいた知識は、知らない間に使っていることもある。今回は、今の検査室では使うことがない事例もあったと思うが、生活のどこかで活用、応用する機会が生まれれば幸いである。

参考文献・web site

  1. 活性炭とは(浦野株式会社 ウェブサイト):
    http://www.uranokk.com/ac/
  2. Hemavathi, Pooja Sarmah, Ramesh D.H.;Comparative Evalution of the Rapid Slide Culture and Microscopy with the Conventional Culture Method I the Diagnosis of Pulmonary Tuberculosis; JCDR. 2012 April, Vol-6(2): 192-194.
  3. COLD-PCR(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)
  4. ICE COLD PCR(Transgenomic, Inc. ウェブサイト):
    http://world.transgenomic.com/pharma-services/technology/ice-cold-pcr
  5. Coren A. Milbury, Jin Li, and G. Mike Makrigiorgos;Ice-COLD-PCR enables rapid amplification and robust enrichment for low-abundance unknown DNA mutations;Nucleic Acids Res. Jan 2011; 39(1): e2.

イラスト/菅原 智美

 

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