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精度管理の考え方中 恵一

統計的な問題についてのメモ(11)

11)

確率波

『ここに気体を入れた容器があるとします。気体を作る各々の粒子の運動を跡づけてゆこうとするのには、まず最初の状態、すなわちすべての粒子の最初の位置と速度とを見つけ出すことから始めなければなりますまい。ところが、それが可能であったとしても、考えに取り入れなければならない粒子の数が非常に莫大なのですから、その結果を紙に書き留めるのには、人間の一生を費やしてもまだ足りない程でしょう。そこでもしも、古典力学の既知の方法を使って粒子の最後の位置を計算しようとしてみたならば、その困難は到底超えきれるわけのものではありません。原理の上では、その際にも惑星の運動に適用せられた方法を用いさえすればよいのですが、さて実際には、それは役に立ちません。そして統計法に道を譲らなくてはならないのです。この方法では最初の状態についての精密な知識は何も無くてもよいのです。私たちは、そこではある与えられた時刻における有様について知ることもできませんし、その過去、または未来について何事も言うわけにはゆきません。つまり個々の気体粒子の運命に対しては無関心になるのです。私たちの問題は、それとは異なった性質のものとなるのです。例えば、「この時刻において各々の粒子の速さはいくらであるか」と尋ねるのではなくて、どれだけの数の粒子が毎秒1,000フィート乃至1,100フィートの速さを持っているか」と尋ねるのです。個々のものに対しては、私たちは少しも注目しないのです。私たちが決定しようとするのは、全集群を型づけているところの平均値なのであります。もちろん、このような統計的の方法で意味が出て来るのは、単に体系が極めて多数の個々の物かつくられている時に限られているのは明らかであります。
統計的な方法を適用する時には、私たちは集群の中での個々のものの有様を予言することはできないので、単にそれがある特殊な有様になる偶然さ、すなわち確率を予言することができるだけです。』 *12

*12 A.アインシュタイン、L.インフェルト共著(石原 純訳)、「物理学はいかに創られたか(下巻)」、岩波書店、p174~175、1939年