SOLUTION
検査室支援情報
精度管理の考え方
1:はじめに
臨床検査が医療の現場において、その価値をもつには、いくつかの要件を満たしていなければならない。臨床検査は、所見の一部として正しく客観性のある情報を治療チームに提供することがその職務である。提供する情報は信頼されなければならない。その信頼のために要求される条件は、利用される現場によって若干その特性に対する優先順位に違いがあるものの、次のようなことが挙げられるだろう。
- 正確性と再現性
- 迅速性
- 付帯する情報の豊富さ
- 被検者への肉体的・精神的苦痛が少ないこと
- 普遍性
- 経済性
- 過誤を生じたときへの用意周到な配慮
臨床検査の与える情報が「正しい」ことは、信頼性を考えるとき、第一に要求されるものであって、客観性に欠ける不正確な情報は直ちに医療過誤につながる。「正しい」という意味は、すなわち被検者の生理的、あるいは病理的な状態を正しく言い当てているということを意味し、臨床検査を行う目的はこのことにつきる。
医療行為の選択やその実施・中止の決断がなされるためには、その判断根拠の重要な一つである臨床検査情報が正しくなければならない。今日の近代化された医療では、時を追ってなされる医療上の決断には、臨床検査情報に基づく客観性の高さがなくてはならない。
検体の採取から始まる一連の検査の作業について、その一つ一つは連携しているとはいえ、関わる専門家も複数存在し、異質な作業内容がそれぞれ最終的な情報の正しさを左右している。これらは、すべてをひとまとめに議論できない。
例えば、現実に生きている人を見るとき、その生理的な状態は毎秒、刻々と変化しているのがおそらく通常であって、食事をし、眠り、労働をするというような行動のそれぞれで、当然のごとくその生理状態が変化している。しかしながら、少し時間的な間隔を長くして観察するならば、人体の恒常性が保たれているゆえに、おそらくさほど変化なく見えるだろう。臨床検査では、血液を試料として、これを分析することがもっぱらであるが、これは血液が全身を巡っていて、およそ全身の状態を反映するだろうということと、常に拍動で混ぜられていて含まれる成分がどの採血部位であってもさほど大きな違いがないだろうという予測があって、検査材料として都合がよいからである。
その血液を採血器具によって取り出してみるとき、その血液の化学的成分や含まれる細胞の形態・生理は、いわば採血がなされた一瞬時における被検者の生理的状態を反映するもので、その人をカメラによって捉えると同じである。サンプリングの時点でどのような生理的状態であったのかは、その血液サンプルに留めおかれる。とはいえ、現実に血液は生きている細胞や機能性タンパクを含むため、サンプリング後、容器の中でその状態はどんどん変化して行く。採血時点から見て、変化した化学成分や細胞形態の観察は、その血液の持ち主が「今そうある状態」を正しく反映しているとは言えない。まして、採血されたその肉体を離れているがゆえに、その「もとの持ち主」の今ある状態を反映すべくもない。血液をサンプリングして検査容器に封入し、後方で支援する検査室へ送り届ける際、長時間かけていたのではとても要望にこたえられない。臨床検査情報の「正しさ」は、こうしたサンプリングから移送までを含めての管理が必要となるのは自明のことである。
こうした観点から見たときの臨床検査結果に対する「正しさ」というのは、いわば総和的な「正しさ」である。つまり、臨床検査を運営する上で正しい情報を診療側に提供するために、まず適切な検査用試料を採取しなければならない。そうして得た試料で臨床検査の分析・測定が行われる。満足しなければならない条件は、すでに上で箇条書きにした。報告される分析・測定の結果は、試料の持つ特性を正しく表していなければならない。特性とは、例えば血清試料に含まれるグルコースの量であり、あるいはコレステロールの量である。一般的にはこの正しさを、測定における「正確性と再現性」として議論している。
以下の章では、臨床検査の信頼性を保証するために必要な事柄のうち、精度に限って議論したい。内容は、検査結果が「事実」をどれだけ忠実に数値化したか判断することであり、それはその検査結果を信頼すべき情報として保証するために欠かせない問題である。