日常の作業に対す精度管理手法の導入る

— 補足 —

<目的><適応範囲>

 精度管理は、基本的に経済性を追求する上で、与えられた経費枠内において、検査精度に関し最良の品質の検査結果を診療側に医療上の情報として提供しようとする努力について、それが有効でかつ最大の効果を上げるために用いる手法である
 統計学的な作業管理状態を反映する最終的な一つの測定結果が、情報として提供されるときの品質レベルは、主として利用者の要望とそれに応えるために準備される資源によって決定される。資源は、人、装置・器具・消耗品、設備、利用できる知識、およびすべてを運営するための予算などをいい、さらにこれらを統括する有能な運営能力と管理能力が要求される。
 精度管理は、最終的な情報のレベルに対する高さを決定するのではなく、経営的に予め定められた品質レベルを保証する。ここに記述する精度管理はそのうちの一つの手法であって、医療機関において生産される検査情報が最も有効に利用されることを考えるとき必要となる、検査結果の信頼性を確実なものとして保証するものである。ここでいう信頼性が保証されることとは、検査結果が正確であり再現性が高いことを意味する。
<注1>
本書の範囲として含まない事項について
 この手引き書では、現在作業が行われている測定法に対し、新しく装置を購入し、これと交換して運転するために必要な正確性と再現性の確認のための作業、あるいは、同様に試薬を別のものと置き換えるときに必要とする確認のための作業は記述しない。さらに、全く新規の項目を検討するときに必要となる確認事項や、それに関する作業は含まない。
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<必要とするもの>

<注2>
1. 正確性の確認を行うために用いる、上位の標準に対してトレーサブルな第二次標準物質
 上位の標準に対してトレーサブルというのは、入手した第二次標準が、公的に承認された検定機関において認証を受けた表示値をもつことを意味する。ここでいう表示値とは、幅のある値ではなく(例:8.00?8.22 mmol/l)、1点を表す表示値だけであって、その値を分析するときに用いたキャリブレーターの表示値が、さらに上位の標準から伝達されたものであることをいい、そうして上位の標準が確認できることと、最終的に最も原初の標準が、現場で表示に用いる単位を規定した原器へ至ることのできるものをいう。
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<注3>
2. 精度を確認するために必要となる、精度管理物質:とくに認証値が付けられたものでなくともよい。
 プール血清などでよいが、生物学的汚染に対する配慮のあるものが適している。必要量は、本書の操作で記述する本数などを検討し、実施しようとする実験の大きさおよび日常管理作業での必要数を勘案して決定する必要がある。
 また、複数の濃度の管理血清を用いて、層別の管理が可能である。すなわち、検量線の性格上、平均値近辺が最も正確性のズレが小さい。したがって、高濃度の試料と中濃度あるいは低濃度の試料を組み合わせることによって、検量線範囲の全体にわたって管理を徹底することが望める。経費上のこともあり、すべてが理想通りに実行できるとはいえないであろうが、一つの濃度を限定して精度上の管理をするには、自ずと限界があることを認識しておく必要がある。
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<操作の概略>

<注4> 
対象とする測定項目に対して装置が複数ある場合について
 当該の項目に対して、複数の分析装置を平行してあるいは交互に利用している場合には、それぞれの分析装置での特性値を得る必要があり、またフローは別々に書き記さなければならない。
 一般的に基準勧告法を自施設で実施するのはさまざまな理由で困難と考えられるが、正確性の問題から結果的に、よりどころとする分析装置をどれにするか決定しなければならない。すなわち、複数の分析装置のうち、基準とする分析装置を1つに決定して、これを施設内の基準とするべきである。
 さらに、正確さと再現性に関してこの基準とする装置の特性値に、他の装置のそれらを同じ程度にするかどうかは、それぞれの施設で決定しなければならない。このマニュアルでは、利用される複数の装置をすべて含めて、総合的な正確さと再現性をもって、その項目に対するその検査室の特性値と考える立場で進める。したがって、精度の悪い装置があれば精度のよい装置は、それによって見かけ上性能が低く判断されることもある。これは、外部のものにとっては、どの装置で得られた検査結果か判断できないだろうから、そう進めるのが妥当としていることによる。たとえば、もし簡易測定装置による緊急検査の結果を、日常の自動分析装置で得た結果と区別して報告し、前者より後者が精度の上で優れていると、外部のものにも分かるよう特別な工夫をしているなら、別項目として扱うのがよい。たとえば、「血清ナトリウム」と「緊急血清ナトリウム」のようにするならば、検査室を利用する者にも精度上の違いと区別が明らかであろう。
 また、複数の分析装置が、精度の上で基準とする分析装置の特性値内で稼働しているかどうかを判断するためには、基準とする分析装置の正確さと再現性を許容差の目標値として考え、その他の装置がその目標値と同等かあるいはそれより性能上優れているかの比較判断をすることになる。こうした厳密さを希望する場合には,JIS8402「分析・試験の許容通則」がよいテキストとなるだろう。
注10>も参照せよ。
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<注5>
現状で明らかになっている範囲で、正確さと再現性に対する特性値を書き出す
 通常、管理に用いる測定系の特性値は、精度管理物質の測定結果を対象として統計学的な手法を適応する。場合によっては、装置の水ブランク値や、ある特定の特性値が装置の予防的メンテナンスに適応する数値として利用できる場合がある。また、検量線を内部のソフトで回帰式として得る場合などは、その係数を出力できる装置がある。こうした値は、未知検体への測定値保証には直接利用できないとはいえ、基本的に装置や試薬の運転状況を把握するためにきわめて有用なことが多い。装置・試薬のメーカーのアドバイスを受け、管理に有用なものは是非とも利用すべきである。
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<注6>
精度管理の対象とするロットを定義する
 ここで扱っている統計学的な精度管理手法は、あくまでもその対象が一つのロットに限定される。ロットとは、あるひとかたまりの検体列、あるいは群である。一つ一つの未知検体に対する測定結果を、それぞれ別個に保証するものではない。統計学的な手法は、たくさんの未知検体を扱っている場合に強力な道具となりうるが、あくまでも対象はロットを1つの単位とする。
 ロットは、どのように取り決めてもよいが、毎日変更できるものではなく、十分に長い間を対象として、その間のロットを統計学的に保証することになる。したがって、ロットをいったん定義したら、安易に変更すべきではない。
 ロットの例としては、一つの分析装置から出力される測定結果、午前中など定めた時間内に受け付けられた検体群など、対象として決めやすく明確なものがよい。ロットを定めると、ここで記述する精度管理手法上、計測値すべてを統計学的に扱う都合から、そのロットに含まれる検体からランダムに測定結果を抜き出す作業が必要となる。一般に、1つのロットの全数を対象とし乱数を発生させて、その場所に精度管理物質をセットすることによって、ランダムな抜き取り検査を満足させる。このため、系列の中から抜き出される“通し番号”を予め決定できるよう、ロットの全数が測定作業の始まる直前までに決定できると都合がよい。
 今日の臨床検査室における現実的な観点からすると、五月雨式に到着し受け付けた検体をそのまますぐ測定系へ導入するなど、ロットを設定しても、そのロット単位が日によって変化する上に、全数が定まらず、測定に先んじて乱数を発生させるための全個体数が定まらないケースがある。
 ロットの定義は、統計上の管理対象を決定するための重要な要素の一つであり、ランダムさを厳密に考えれば、乱数を発生する方法が最上である。しかしながら、現実の作業でそれが適用困難ならば、検体列を見て便宜的な方法を採るとよい。かといって、常に同じ状態が予想される位置に精度管理物質を置くことはよくない。あくまでも、測定系の状態について全体を見、測定状態の一定ではない検体列の数箇所から精度管理用の測定値が得られて、ランダムさが満足されることが肝要である。たとえば、検量線を作成した直後に連続して、あるいは、10本おきなど固定的な箇所は推奨できない。例として、1時間当たりに受け付ける検体数が一定ではない24時間対応の検査室では、定時に精度管理物質を挿入する方法などはかえってランダムさが得られるだろうから、実験によって確認して採用するのもよいだろう。
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<注7>
作業の流れを確認するとともに、実施する担当者と、必要な決定を下すための責任者を決定する
 管理基準を決定する作業を実施しようとする担当者は、対象の測定項目に対して、装置、試薬、作業のすべてに精通しているものが好ましい。作業を標準化するために関わるすべての情報を勘案する必要があるためである。実際、管理のための準備をする担当者は、教育を担当しなければならないので、全体にわたって知識が豊富で指導力を備えたものが好ましい。
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<注8>
キャリブレータの正確さに対する評価をする
 第二次標準物質は検量が正しく行われていることを確認するものであるので、測定法によってはキャリブレータと第二次標準物質の性状が異なる場合この作業が容易に行えない場合がある。そのような場合は、装置メーカーと相談して、正確さの確認作業を実施する。
 より正確な判定を年に数回することを推奨する。そのためには、通常作業通りキャリブレータを用いて装置に検量線を入力した後、第二次標準物質を複数回測定し、比例系統誤差が有意に見られるかどうかを検定する。測定回数と検定水準は、各検査室で決定すればよい。このための詳細な作業は、次の資料に詳しい:細萱茂実:標準物質を用いた正確さの評価 検査と技術28:289-292,2000
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<注9>
精度管理試料を測定する
 ここでは、日常作業において、1ロット当たり4本の精度管理試料を投入し、統計学的に精度の保証をするための基本とするデータをサンプリングするように想定している。ロットを定義するときに総検体本数で指定していて、ここでいま管理図を作成するために、24本だけのデータを取ろうとするならば、このロットの定義と違う条件となるだろう。その場合には、必ずしもロットの定義にこだわらなくとも良い。さらに、操作9)および10)で、24本ずつ2日にわたって測定し、総数48のデータを集めることにしているのは、管理図を作成するに当たって、4本x12ロット分を2日でまとめてとり、これを実際の管理データとして当てはめようとするものである。48本のデータ数は、あくまでも一例であって、このようにするべきであると勧告するものではない。管理図作成のために、経費上の負担が大きくなるのはさまざまな意味で推奨できないだろう。
 精度管理試料の本数については、ロット当たり、2?5本が推奨されるので、これも各施設が適宜に決定すればよい。もし、ロット当たり2本の精度管理試料を適応することを想定するなら、ここで例示した48本のデータは、2x24ロット分に相当する。
 そもそも、s管理図は10本以上のサンプリングでも可とする手法であるといわれたが、R管理図が離れ値に対して敏感なものであるに対して、s管理図はバラツキがそれほど大きくない場合に適している。R管理図が簡易表を準備して、計算過程を省略できる点で旧来から好まれてきたのであって、繰り返し宣伝されてきたのは、s管理図の計算過程が煩わしいことにあった。今日のコンピューターの性能を考えれば、計算過程の煩雑さは議論しなくとも良いだろう。繰り返せば、ここで、合わせて48個の測定値をとるように指定しているのは1ロットで4本をサンプリングすることを想定しているのであって、各施設において本数はつごうの良いように変更すればよい。
 また、ここで示した例数の12ロット分で、管理図の上方および下方管理限界を計算するのは、少なくともこれだけのロット数のデータを利用することを推奨するというのもので、もし相当ロット数が小さい状態で、仮の管理限界の計算をした場合には、日常稼働をして得られるデータを加え、総数を増やして再計算するのがよい。
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<注10>
測定結果を用いて統計処理する
複数の分析装置を用いている場合について
 予め複数の分析装置が同一の測定結果を与えるかどうかについて、必要ならば次の検定を行っておくこと

(1)測定結果の同等性の確認

 ある測定項目に、2以上の異なる分析装置を適用している場合、どの検体についても、それらの装置から得られる測定結果が同一であることが好ましい。以下に、その確認ための実験を記述する。
3. 測定可能とする濃度範囲、すなわち検量線が精度を保証する濃度範囲、にある6本以上の濃度が異なる検体を準備する。それぞれの検体は、確認作業に必要となる液量を準備し、それらの検体で、保証する濃度範囲全体をカバーしなければならない。
4. 対象となるすべての分析装置で、準備した6本以上の検体を1回ずつ測定する。
5. 検定
「対応のある2群に対するt検定」を採用する。そのうち1群は常に、基準とする分析装置からの測定結果とする。
両群の差がゼロであると仮定し、p≦0.05の危険率で、その両側検定を行う。
さらに、
 によるz変換を行う。
ここで、相関がゼロであると仮定し、p≦0.05の危険率で検定をする。さらに相関係数の95%信頼域を求める。常識的に考えれば、両者には有意に相関が認められるはずで、相関係数の信頼域を記録し、管理上、これを1つの因子とするのが計算の目的である。
実際面で相関の可否を決定するのは、相関係数の95%信頼域下限の値が、>0.90を満足する、など各施設で設定するとよい。
もし、基準とする分析装置による測定結果と、他の装置のそれが異なる母集団から得られた標本データであると、判定された場合には、キャリブレーターを新しくして再度基準ではない分析装置の校正を行い、測定をやり直す。再び上の検定をし、同一の母集団から得た標本データであると判定されたとき、よしとする。
(2)1つの試料に対して測定値に差がないことの検定

 上と同様の確認をするが、用いる試料は精度管理用試料で、その試料にはとくに認証値が付いていなくともよい。ただし、成分濃度は正常値上限あたりが望ましく、極端な低値や高値は避ける。また、作業手順にある、第2作業日と、第3作業日で合わせて48回の測定をし、48個の測定値を得るよう計画するので、これを以下に述べるように組み込んでデザインし、解析にはそのデータを用いると作業が多くならなくてよい。
 1. 該当する2つの装置で、それぞれ24回ずつになるように同一の試料を測定し、それぞれ24個の測定結果を得る。
 2. 検定
「対応のない2群に対するt検定」を採用する。そのうち1群は常に、基準とする分析装置からの測定結果とする。
2つの群の平均値を比較し、平均値の差はゼロであることの両側検定を実施する。p値が1に近ければ両者には差がないと判断する。p≦0.05であれば2つの平均値は有意差があると判断する。
「2つの群に対するF検定」を採用する。仮説分散比を1として両側検定を行う。p≦0.05であれば2つの分散は有意差があると判断する。
 もし、基準とする分析装置による測定結果と、他の装置の測定結果に差があると、判定された場合には、キャリブレーターを新しくして再度基準ではない分析装置の校正を行い、測定をやり直す。再び上の検定をし、差があるといえないと判定されたとき、よしとする。
 また、双方の装置の分散に有意の差があると判定された場合で、基準ではない分析装置の繰り返し測定値の分散が大きい場合には、調整を試みて、再度測定を実施し、検定する。その上での再判定で、分散に有意差がある場合には、それで全体の分散が大きくなる危険があることを認識し、各検査室においてこれを了解する必要がある。

 3つ以上の分析装置を稼働している場合、基準とする分析装置のデータと、同一結果が得られるかどうかを、上の(1)測定結果の同等性の確認で、t検定による確認を、それぞれの装置について個別に行う。分析のバラツキの度合いが同一であることを、分散値に差がないと仮定して行う検定、すなわち等分散性の検定を行って確認する。その場合装置が2台であればF検定で、分散比を1とする仮説検定を行うが、装置が3台以上の場合、「Bartlettの分散比の検定」を実施し、装置間にバラツキの差がないことを確認する。バラツキが有意に観察される場合には、分散値の大きな装置に対して、それを改善できるかどうか判断しなければならない。
 これは上述したように、あくまでも外部の利用者側から見れば、ある項目の測定報告値を見る場合、そのバラツキ(分散値)は1つ、とするものである。1つの項目に関するバラツキへの保証は、1つの幅だけを明示することになる。したがって、基準とする分析装置は内部で設けていても、バラツキに対する保証ではとくに装置による区別を付けない。しかしながら、基準分析装置に比較して、別のある測定装置のバラツキが著しく大きい場合でも、外部の利用者がそれを認識できるならこの限りではない。たとえば緊急検査用の簡易装置などで、報告に用いた方法・装置が明記されるようなときには、バラツキの保証も別に表示して、通常のものと区別するとよい。
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<注11>
測定値を一覧表にする
48個のデータを出力された順に4つの群に当てはめて行き、それぞれの群が12個のデータを持つように配分する。例をエクセルの表でつける。表:AST(4x12)
注意:4つの群に分けるのは、あくまでも一例である。実際的には、2?5に群分けするとよい。この群の数は、日常の管理作業でロットに挿入する管理用物質の数を想定する。すなわちここの例では、日常の精度管理に1ロット当たり4つの精度管理物質を入れて、その4つの測定値から管理図を作成すると考えている。
基本統計量を求める
4つの群の1つのかたまり、すなわち1ロット分の4個のデータからその平均値を求め、(エックスバー)とする。次いで4個のデータから分散を求める。分散はデータの個数で割り、[データの個数-1] は用いない。
 例:表:AST(4x12)のデータの場合、分散をVar(x)、標準偏差をDiv(x)で示している。
の平均値を計算し、これを (エックスバー・バー)とする。
さらに標準偏差の平均値を求める。これを とする。
例:表:AST(4x12)のデータの場合、



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<注12>
管理図を作成するための計算
母平均は、標本の平均値(エックス・バー・バー)から推定する。
また、母平均の区間推定のための母標準偏差は、標本標準偏差から推定する。
すなわち、
別に記載する統計学的な説明から、(F-19)式によって
   ・・・(F-19)
 であるから、
   ・・・(C-14)
ただし、
    ・・・(F-20)
とする。
(F-20)式に、n=4を入れて計算すれば、次のようである。

管理図のための管理限界値を次式によって計算する。
上方管理限界  ・・・(C-15)
下方管理限界   ・・・(C-16)
ただし、zは、3SD範囲を越えるときに警告する場合には z=3 とする値で、ここでも一般的な慣例で3としておこう。


また、上記(c-14)式を用いて、を推定すれば次のように計算される。


したがって、上方管理限界と下方管理限界は次の通りである。
上方管理限界
 
すなわち、182.12 IU/l である。
下方管理限界は、同様に計算できて、177.08 IU/l である。実際上、日常作業での管理域は、
182?177  IU/l と、設定される。
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<注13>
s管理図を作成するための計算
テキスト本文に記載した通り、標本標準偏差の分散からその標準偏差D(S)を求めた式 
   ・・・(F-25)
を利用して、s管理図の上方管理限界と下方管理限界を設定することができる。

すでに母標準偏差は上で推定している。

管理限界は、
    ・・・(F-27) 
で与えられるから、

                        ・・・(F-28)

  ただし、
     ・・・(F-29)
ここでも、z=3 として3SD範囲を想定した管理を適用することにしよう。


すでに計算したとおり、
  
 であるから、
   
をもちいて、

  
     
そこで(F-28)式から上方管理限界を計算すると、次のようになる。
   
             

同様に、下方管理限界は
     1.34-1.696=-0.36
計算結果が負の値になる。管理を考える上で負の値は意味がないので、下方管理限界は考えない。
したがってs管理図の管理限界は

     3.04 IU/l 以下  となる。

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<注14>
管理図の作成
通常のグラフ用紙で、B4もしくはA3の大きさのものを横置きに用いる。
横軸にロット番号をとり、左側から時系列を開始する。すなわち横軸の左から順に、ロットごとにプロットすることになる。
タテ軸方向で、上に管理図を描くスペースとして利用、下にs管理図を描く。
s管理図のスペースは下の横軸から6?10cmをとる。
管理図は上端から8cmあたりにの中心線を実線で横に引く。管理図の目盛りを、グラフのタテ軸を利用して切りの良い数字で目盛る。計算で得た管理図の上方管理線を、中心線から上へ3cm程度の幅でとって中心線と平行に破線で記入する。管理図の下方管理線を上方の管理線と同じ幅で中心線から下にとって、同様に中心線と平行に破線で記入する。中心線は実線で、上方および下方管理線は破線で記入すること。また、上方および下方管理線の数値を見やすいところに記入しておくこと。
s管理図は下端から5cm程度の幅でその中心線を実線で横に引く。目盛りは管理図の目盛りと同じ幅でとる。s管理図の上方管理線をその中心線から上に3cm程度の幅でとり、中心線と平行に破線で記入する。下方管理線がある場合には、中心線から下に3cm程度の幅でとって中心線と平行に破線で記入する。
層別の管理を適応する場合には、グラフ用紙を横置きにして、タテに必要枚数つなぎ合わせ、同じロットは同じタテ軸上に記入できるようにする。
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<注15>
日常管理の開始
定めたロットへ、既定数の精度管理試料を投入する。投入する方法は、必ずランダムになるように工夫すること。
とsを記入する。 は記号○で、sは▲もしくは×で記入する。
上方もしくは下方の管理線を出る場合には、◎のようにそれぞれの記号をさらに赤丸で印する。管理線上は、とくに事情のない限り一応管理範囲内と決めておく。
1つのロットのとsのプロットはタテ軸の上で同じ線上にあること。
また、管理図、左上部には精度管理試料の投入回数を“n= ”で記入しておき、何らかの都合で、投入回数に変更があったときには、そのロットのプロットの上に、n=3のように数の違うことを明らかにしておく。
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<注16>
順にロットを進めて管理図を延長する
 1つのロットで、 とsのプロットが管理域を超えたからといって、すべての患者データを見直すことはしない。分析装置や試薬、あるいはキャリブレーションなどについて、定められた標準マニュアルにしたがって実施したか点検を行う。この確認と点検手順も標準化しておかなければならない。以上の点検の上、疑問点がなければ、そのまま可とする。
 ロットを重ねて行くとき、 とsのプロットについて、次の判断基準を満足する場合に限って、そのままの管理図を延長する。
1)連続して25点以上が、管理限界内にある
2)連続する35点のうち、管理限界をはずれたのは1点だけ
3)連続する100点のうち、管理限界をはずれたのは2点まで
上の条件を満足しない場合は、管理図をそのまま延長せず、問題があると考えてこれを追求する。問題が発見され、その原因が明らかになったら、それを除去する作業を行い、再発を防止する考案をする。再発防止案は、作業を標準化したマニュアルに変更を施して取り入れる。
管理限界内に点があっても、管理図に、次のような状況が見られたときには、試薬、装置、その他の条件が標準のそれからずれていて、統計的には不自然であることを意味している。このときは中心線がズレていることを手がかりとして問題を発見するようつとめる。
中心線(平均値)の片側だけに、次のように連続して点が並ぶのはよくない。
1) 連続した11点で10回
2) 連続した14点で12回
3) 連続した17点で14回
4) 連続した20点で16回
さらに、 管理図でドリフトとよばれる、一定方向への傾向についても注意しなければならない。次のように点が並ぶのは良くない。
  ・連続した点が、上昇もしくは下降傾向を7点以上続ける
 これらの現象が、管理図にある場合は、必ず原因を追求して問題点を明確にし、その除去を行って、再発防止策を考案する。また、作業の標準マニュアルに変更点を必ず記入する。
 ただし、s管理図では平均値に対する片側への偏向は重視しない
これらとは別に、管理図全体を肉眼で観察し、一定のリズムで波があるような状態を発見した場合には、問題があると見なければならない。

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