SOLUTION
検査室支援情報
精度管理の考え方
(実践) 日常の作業に対する精度管理手法の導入
目的
この手引き書の目的とするところは、臨床検査室における日常の作業に関し、正確性と再現性の上で患者検体の測定値を保証しようとするときに必要となる実際上の手法について、それが正しい形で導入されるよう、順を追って進めるためのものである。<注1>
適応範囲
本マニュアルの範囲は、日常作業が、管理範囲内で運営されていることを確認し、逸脱が予想される場合にはそれを警告して予防的措置が必要なことを知らせようとするものである。それは、対象が一つの検体であれ、ロットとよぶひとかたまりの群をなす検体列であれ、精度保証の上で測定・分析結果を棄却する判断根拠を与えるものではない。また、補正が必要なことを示唆し、その補正に必要な係数等を与えるものでもない。<注1>
必要とするもの
操作の概略
- 対象とする測定項目に関わる装置、試薬、キャリブレーター、環境、設備、オペレーター(検査員)について詳細を書きだし、全体の作業の流れをフローとして文書化する。<注4>
- 現状で明らかになっている範囲で、正確さと再現性に対する特性値を書き出す。<注5>
- 複数の装置で、対象とする測定が実施されている場合には、1,2についてすべて文書化すること。
- 精度管理の対象とするロットを定義する。<注6>
- 精度保証を開始するまでに必要な準備作業日数は、少なくとも3日である。これを連続した日程で行えるよう、予めその期間を決定しておく。
- 作業の流れを確認するとともに、実施する担当者と、必要な決定を下すための責任者を決定する。<注7>
- 今回の目的に使用する第二次標準物質と精度管理試料を必要量準備し、最終的な確認をする。
- 第1作業日:第二次標準物質を三重測定する。測定結果から、キャリブレータの正確さに対する評価をする。<注8>
[判定] 三重測定の平均値と第二次標準の認証値の差を求め、この差が第二次標準の認証値の5%未満であること。これを満足しない場合には、正確さに関わる事項の点検をし、不具合を発見してそれを排除した後、再度測定してこの条件が満足されることを確認すること。 - 第2作業日:精度管理試料をすでに定義したロットに投入し24回測定する。<注9>
- 第3作業日:前日と同様、精度管理試料を1つのロットに投入し24回測定する。
- 合わせて48個の測定値を一覧表にし、群に分ける。
- 基本統計量を計算で求める。<注10、11>
- 管理図を作成するための、計算をする。<注12>
- s管理図を作成するための、計算をする。<注13>
- 管理図の作成 <注14>
横軸にロット番号をとり、左側から時系列を開始する。すなわち横軸の左から、ロット順にプロットすることになる。タテ軸は、上に管理図を描くスペースとして利用、下にs管理図を描く。管理図は上端から8cm当たりにの中心線を横に引く。上方管理線を、中心線と平行に記入する。管理図の目盛りをとる。下方管理線を上方の管理線と同じ幅で中心線から下にとって、同様に中心線と平行に記入する。中心線は実線で、上方および下方管理線は破線で記入する。また、上方および下方管理線の数値を見やすいところに記入しておくこと。s管理図は下端から5cm程度の幅でその中心線を横に引く。目盛りは管理図の目盛りと同じ幅でとる。s管理図の上方管理線を中心線と平行に記入する。下方管理線がある場合には、中心線から下に3cm程度の幅でとって中心線と平行に記入する。 - 日常管理の開始 <注15>
日常の測定作業を稼働し、定めたロットに4本の精度管理物質を挿入する。これによって得られた測定値の、とsを記入する。定めたロットへ、4本の精度管理試料を投入する方法は、必ずランダムになるように工夫すること。は記号○で、sは▲もしくは×で記入する。 - 順にロットを進めて管理図を右に延長する <注16>
このとき、とsのプロットについて、判断基準に従って検定する。管理限界内に点があっても、試薬、装置、その他の条件が標準のそれからずれていて、統計的には不自然であることを意味している場合がある。中心線(平均値)の片側だけに連続して点が並ぶのは不都合である。管理図でドリフトとよばれる、一定方向への傾向についても注意しなければならない。s管理図では平均値に対する片側への偏向は重視しない。また、管理図全体を肉眼で観察し、一定のリズムで波があるような状態を発見した場合には、それに原因があると見なければならない。 - 判断基準から、統計的にズレがあると推察される場合には、速やかにその原因を追求し、それを排除して、再発を防止する工夫を検討する。これは、標準マニュアルに変更をすることになる。原因が、部品などの消耗に由来すると思われる場合には、予防的措置の必要性から、発生した日付を明記し、発生頻度などのデータが得られるよう工夫する。
日常作業では、16~18を繰り返す。
測定法採用時作業手順書とデータ処理ワークシート [ダウンロード(登録)]