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検査室支援情報

精度管理の考え方中 恵一

Q5 Answer

Q.5

現在生化学で同一機種を複数台使用しています。機種間差を取った時に許容できる(相関関係がある)r係数の範囲と、±bの値の補正はどのようになった場合にすべきであり、必要なのでしょうか?(東京都 U.M.様)

A.5

いただいたご質問を、違った表現の仕方をすると、
『基準とする分析装置の検量線と他の装置の検量線を比較したとき、どのくらいまでの差であれば許容できるか』ということになるでしょう。正にその回答となる文献がありますので以下に紹介します。

参考文献

  1. (社)日本臨床衛生検査技師会:臨床化学における定量検査の精密さ・正確さ評価法指針(改訂版)(GC-JAMT 1-1999).日本臨床検査標準協議会会誌14(2):3-26, 1999
  2. 細萱茂実:標準物質を用いた正確さの評価:偏りがどのくらいならば校正が必要か?.検査と技術 28:289-292, 2000

詳細は上記文献をお読みいただくことにして、ここでは概要のみを説明いたします。

一つの施設内で、同一項目を複数の装置で測定する場合に、装置間差が無視できるように調整することについてはどう考えればよいかという問題は、次の2つに分けて考える必要があります。

  1. 各装置が独立(機種、試薬、標準品の全てが異なる)している
  2. 基準とする装置が存在し、その値に合わせるための処置を行っている

<1の場合>
最初に各装置に対して、標準物質を用いトレーサビィリティーの評価を行います。これによってそれぞれの装置の正確さが保証されます。
検査室を利用する第三者から見た場合、その項目の総合的なバラツキは各装置の分散の和となります。この値が受け入れられるものであるか否かを判断する必要があります。もしこのバラツキが検査室の管理目標とする値より大きい場合は、最も精度の悪い装置についてその原因の解明と除去を行う必要が生じます。つまり足を引っ張っている装置の精度を上げなければなりません。
ここで装置間の回帰式を求めたときの係数は、それぞれの装置が標準に対してトレーサブルであることを保証した結果、各装置の持つ特性で発生したものです。装置の相互比較によって回帰させる問題ではありませんから、この係数について補正を考えることは全く意味がありません。
それぞれの装置が独立していると考えることは、それぞれが基準としているものにトレーサブルである保証を必要としているのです。これは正確さの保証の問題です。

<2の場合>
同一施設内で緊急検査に利用する装置とルチン検査に使うものとが違う、あるいはルチン検査に利用される装置のバックアップを備えている、というような場合にたとえ違った装置で測定されても、施設内で基準にしている測定系があって、それにすべての測定値が合うよう設定したいと考えるときの問題です。
評価の手順は、

  1. 基準となる装置の正確性の評価を行う。
  2. 検量線の正確さが保証されている濃度範囲で、6濃度(注1)の試料を準備し評価対象の各装置でそれぞれ多重測定(注2)を行う。
  3. 基準装置での測定値と各評価対象装置の測定値の関係を一次回帰式として求める(注3)
  4. 回帰式の傾きが1より有意に偏りがないか検定する。(系統誤差のチェック)
  5. 回帰式のy切片が0より有意に偏りがないか検定する。(一定誤差のチェック)

回帰式の傾き、y切片共に有意な差が認められなければ、
『複数装置間の測定値に差があるとは言えない』
ということができます。
有意な差が認められた場合には、原因の解明と除去を行い再度評価を実施することになります。この作業を差が認められなくなるまで繰り返します。

注1
5濃度あるいは6濃度を推奨します。これは回帰問題が常に平均値を重心として議論しているので3濃度では両端の濃度に引きずられる傾向が強くなるからです。かといってあまりたくさんの濃度の資料を準備するのは経済的な問題が生じるでしょう。
注2
有意な差があるか否かの判定を十分な信頼性をもって行うためには、試料の測定繰り返し回数が検定に十分量である必要があります。N=10~20を推奨します。どのくらいの誤差なら許容できるかということは利用者が精度管理上管理目標を設定するときに決めることです。
注3
ご質問にありました一次回帰式を前提としていますが、回帰式は特にどんなものでもこだわることではありません。
補足
しばしば、回帰問題と相関の問題を混乱されることがあります。相関係数rまたはその二乗r2は、対応するデータ組について一定傾向があるかどうかを議論するとき、その程度の強さを示すものです。データの同一性を保証する指標としての議論とは異なった議論です。極端な例を示しますと、A、B二つの測定法があってB法が常にA法の10倍の値が出る場合もr=1 になります。

本WEBサイトで、『臨床検査における精度管理の考え方』のトップページの一番下に「日常の作業に対する精度管理手法の導入」というメニューを設けています。
このメニューから、ワークシートをダウンロードして下さい。ワークシートに記載されている手順に従ってデータを取り、必要な数値を入力していくだけで複数台の装置を使用する場合の結果の同等性の確認をすることができます。
プログラムは無償で提供されていますのでお試しになられてはいかがでしょうか。

篠倉 潔
(NTT西日本大阪病院 臨床検査科)
2004年2月15日