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精度管理の考え方中 恵一

Q4 Answer

Q.4

専用試薬がセットになっている分析装置を導入しました。全項目についてメーカーとしての保証精度が記載されていました1)。このような場合、法的な品質保証責任も視野におけば一般的なアプローチ2)での法や法での精度管理の意味はどう考えればよいでしょうか?メーカー保証より狭い幅の精度管理(つまり品質保証)をする3)ことに矛盾を感じるのですが。

  1. 例えばAST:30±2IU (±2SD)
  2. 自施設で日差変動などをとり管理幅を設定する
  3. 当然ながら自施設でのデータによる管理幅の方が小さくなりました(千葉県 Y.様)
A.4

測定方法は、それに関わるすべてのリソースがオーケストラの演奏のようにうまく指揮され実施される必要があります。分析装置とそれに用いる専用試薬がセット販売されているケースであっても、汎用の装置に自分で選択した試薬を使ってもそれに区別を付けることはできません。今回のケースでは、ともかくセットになっているものを選択されたとのことですから、トラブル時の交渉相手が一社でよいという都合の良さはあるでしょう。
ところで、メーカーが保証する品質を貴施設で再現できるかどうかは、上にいいましたようにそれに関わる装置と試薬以外のさまざまなリソースが理想的な状態で運転に関わらなければなりません。貴施設で導入のための評価をされた結果、メーカーが保証する精度をクリアしたとおっしゃっています。このことが意味するのは、メーカーが推奨する環境で、メーカーが推奨する運転状態によって測定が行われたことを意味すると同時に、メーカーが保証する品質を貴施設の設備と技術者で再現できたことです。
一つだけ確認しなければならないことがこの段階で一つあります。それはメーカーが保証している品質を出した条件と貴施設における条件に大きな差異がないことが重要です。キャリブレーションに用いた標準、評価に用いた試料やその数、評価の期間と具体的な方法などです。現在、NCCLSから導入時初期に行うべき受け入れ試験について数種の手引きを出しています。むろんメーカーがその製品について品質を主張する際の試験方法についても手引きがあります。今回のケースに関わるものについては次のような手引きがあり、参考にできるでしょう。

EP09-A2
Method Comparison and Bias Estimation Using Patient Samples
EP10-A2
Preliminary Evaluation of Quantitative Clinical Laboratory Methods
EP12-A
User Protocol for Evaluation of Qualitative Test Performance
EP15-A
User Demonstration of Performance for Precision and Accuracy
EP21-A
Estimation of Total Analytical Error for Clinical Laboratory Methods

直線性の評価など、測定法の評価試験についてはさらに詳細のものもありますので、一度インターネットサイトを参照されるとよろしいでしょう。
http://www.clsi.org/
国内ではこのほかに、日本臨床検査自動化学会が出した「汎用自動分析装置の性能確認試験法マニュアル」v1.2(2001.9.13)があります。(同学会誌26巻補冊1(通巻第134号)2001年8月1日発行)

さて、ご質問の主旨である次のことに触れなければなりません。すなわち、メーカーの主張する保証を確認できた後、その装置と試薬の組み合わせを測定方法として採用し日常の検査に使って行こうというとき、精度管理を実施することにどんな意義があるのか、というご質問です。
すでにここまでの説明でお気づきになられたかも知れませんが、ご質問のあった時点を現在としますと、今は貴施設で日常検査法として要求されている品質に照らし、メーカーが主張する性能を確認でき、それは満足できるものであった、というのが現在のことです。今日これから、そして明日も明後日も、おそらく法定耐用年数の5年の間その装置を運転させて、その品質性能を維持して行かなければなりません。今日も明日も明後日も、というのは毎日毎日繰り返して性能を確認しなければならない、ということを意味しています。
受け入れ検査で現在の今、少々性能試験の結果がメーカーが主張するよりよかったからといって、4年先の状態がそれをクリアできると保証するものではありません。その品質性能を維持するのは貴施設の技師の人たちです。冒頭で申し上げましたように、運転を担当する技師の人たちもリソースであり、毎日の運転で書き留めて行く日誌や思いついた工夫などの知恵もリソースです。すべてが統合されなければなりません。
管理図法は管理のための一つの手法です。たとえば、例に挙げていただいたASTの30IUにおけるバラツキは、95%の精度で貴施設が品質保証するとき、表示する誤差は13.3%です(4÷30×100=13.33)。この性能を5年間維持できると、誰も言えません。だから毎日毎日精度保証をしなければならないわけです。
購入当時の現時点ではおそらく性能が頂点にあり、これからしばらく慣れてその性能を凌ぐことがあっても一時的で、消耗品の摩滅やカビや錆によって秤量精度も漸減するに違いありません。運転技術者の交代によって精度もゆれる可能性があります。
メーカーが出荷するときにつけた保証は、受け入れ検査のすんだ今、極端にいえばそれで消滅します。現在患者に対して保証することになったのは貴施設なのです。後はメーカーが推奨する運転方法で、うまくやれば、保証範囲に維持できるかも知れませんが、その範囲を外れたからといってメーカーの責任とは言えません。性能を維持する責任はあくまでも貴施設にあります。
矛盾を感じている暇がもはやないことをご理解いただけたと信じます。ご健闘を祈ります。

(補足)
より詳しくは「精度管理の考え方」テキストを参照して下さい。
(参考資料)
臨床検査の保証(88KB)

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篠倉 潔
(NTT西日本大阪病院 臨床検査科)
2003年9月10日