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精度管理の考え方中 恵一

Q23 Answer

Q.23

ランダマイズ2回測定法にて血液一般検査の精密度を評価しようと思っているのですが、血液一般検査の個人生理的変動幅を記載している文献が見つかりません。血液一般検査はこの方法では精密さを評価できないのでしょうか。またもし、血液一般検査項目の生理的変動幅をご存知ならば、教えていただけないでしょうか。(奈良県 F様)

A.23

「血液一般検査の個人生理的変動幅を記載している文献が見つかりません」…というご質問については、すでに鳥山満先生、森三樹雄先生(獨協医科大学越谷病院臨床検査部)が赤血球恒数の生理的変動の許容範囲に関する公開質問でお答えになっています。
http://www.jaclap.org/data-bank/consultation.html (日本臨床検査専門医会 臨床検査ネットQ&A)
ここに結論だけを抜粋しておきますと、『私見ですが、健診において個人の検査データを時系列で確認したところ赤血球恒数の変動はほとんど認めず、有意と思われる差を認めたとしても、それは病態による変動でした。よって生理的変動の許容範囲を設定するのは困難で臨床的に有益ではないように思えます』
ご質問にある、ランダマイズ2回測定法による精密度の管理における判断基準は、
―標準偏差の期待値が生理的変動幅(Sp)の1/2以内であること確認する
ということになっていますので、生理的変動幅を決定できない以上、この管理法は適応できそうにありません。
ここに、別の資料があります。それは市原清志先生(山口大学医学部)の文献で、『重回帰分析による臨床検査の変動要因の解析法』臨床検査:49(12)1297~1306,2005のなかに、[表7] 主要23臨床検査値の生理的変動要因の解析結果(p1305)があります。
これによりますと、白血球数は喫煙や肥満度と正の関連があり、赤血球数は性別、年齢、飲酒などと負の関係があることがわかります。
すなわち、生理的変動について、単純にひとつの集団を群に分けず無差別なマスとして変動幅を計算しても、緻密な精度管理基準を求め得ないことが推測できます。
さらに化学療法を初めとして、多くの治療行為が血球数ならびに血液像を変化させることが、臨床的な研究で多く報告されていますから、患者検体をランダムに抽出して2回測定しても、すべてに共通の管理基準幅を与えることが困難であると考えられます。実際に、国内にある多くの施設のマニュアルで、CBCに関しランダマイズ2回測定法を適応している例は見当たりません。

中 恵一
2009年5月23日