SOLUTION
検査室支援情報
精度管理の考え方
Q22 Answer
トレーサビリティの原点となる国際標準あるいは国家標準について、入手方法などを教えてください。(北海道 Y様)
測定の定義は、<単位を決め、その何倍に当たるかを示すこと>です。このとき、単位の設定は任意となっています。しかしながら、データを第三者と共有しようとするとき、データを見た人が、そもそもデータの「1」が具体的に何をどのように示しているのかを理解できないと、いくら数値が緻密で桁数が大きくても何の意味も持ちません。
これを解決し単位を共通にするために、国際的なSI単位が提案され、先進国の多くはこの度量衡制を採用しています。1951年にわが国も新しい計量法を制定しました。SI単位を用いている加盟国の一つです。
臨床検査データのトレーサビリティは、Q20で解説してあるように、現場の臨床検査室で得られたデータが、対象としている物質量に関し、その基本となる「1」という値について、国際標準の値を忠実に映していることを言います。標準物質は、先進国各国の専門家が集まった専門機関の委員会から代表者を選出し、その代表者で構成された国際委員会で、標準物質の物理化学的性格、製造方法、製品企画、表示値等々慎重に審議した上、実際に製造され、備蓄されます。計測の基準となる「単位」は論理的な学問上のものですが、現実の標準は、実際の作業に用いられる必然性から「そこにあるもの」であって、具体的です。その表示値は、国際的な協力下で選ばれた施設で厳密に測定され、集められた複数のデータから平均値を得たものです。
こうした標準物質の製造と供給は、一般に非営利的な活動によって必要とするものに配布されます。それは膨大な労力と資金を要求する活動であるため、先進国においてごく限られた機関がこうした活動を行っています。最も精力的に活動を行っているのはアメリカです。またEU各国やイギリスにおいても積極的に行われています。こうした活動には国際委員会の連携と各国政府のサポートが不可欠です。その活動の意義は知的財産を共有することにあります。すなわち、準備された一つの標準物質がすべての国で利用されることによって、対象の物質に対する臨床検査データは共通の量的解釈が可能となります。
標準物質の入手に当たっては、通常それぞれの臨床検査室が単独でこうした国際機関に接触し、供給を依頼するものではありません。理由は、このような国際標準を開発・製造するには、上述したように膨大な労力と資金ならびに国際的な協力を要するため、数量が限定されており、世界中にある一つ一つの検査室すべての希望に応えることができないからです。従って、臨床検査試薬を製造・供給する国内メーカーがこれを入手し、まず国内で必要とされる数量の第二次標準物質に値を映します。次いで、この第二次標準物質から、キットなどに添付するキャリブレータが製造・販売されることになります。従って、一つの検査室のトレーサビリティは、その検査室における満足な品質管理が不可欠ですが、最終的に自分たちが使っている試薬メーカーの信頼性に依存します。メーカーがどのようにトレーサビリティを保証するか、資料請求をされることを勧めます。
また、大規模な精度管理調査には、時として第二次標準から値を映した日常標準が、全国の臨床検査機関における正確性の現状確認に用いられる場合があります。しかしながら主に経費的な問題から、このような値付けされたサーベイ物質が、すべての調査対象施設に配布され利用されることはしばしば行えるものではありません。通常は濃度が無表示のサーベイ用物質を配布し、集められたデータから正確性を推測する方法が採られます。
次に、国際標準に対して活動を行っている主要な機関をリストアップしておきましょう。活動内容はホームページで確認できますので、アドレスだけを付記しておきます。
- <米国>
- 米国国立標準技術研究所(NIST)
National Institute of Standards and Technology
http://www.nist.gov/ - 米国疾病予防管理センター
CDC: Centers for Disease Control and Prevention
http://wwwn.cdc.gov/
- <イギリス>
- Standards for the Medical Laboratory
Clinical Pathology Accreditation (UK) Ltd
http://www.cpa-uk.co.uk
- <日本>
- 一般社団法人HECTEF (福祉・医療技術振興会)
http://www.hectef.jp/
- <メーカーが製造するキャリブレータについての詳細規定>
- Guidance for Industry - Abbreviated 510(k) Submissions for In Vitro Diagnostic Calibrators(Document issued on: February 22, 1999)
Food and Drug Administration
http://www.fda.gov/MedicalDevices/DeviceRegulationandGuidance/GuidanceDocuments/ucm092800.htm
中 恵一
2009年5月11日