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検査室支援情報
精度管理の考え方
Q18 Answer
機器の精度管理についてお聞きします。検体分離の不十分さからも検査値の精度管理は保てないと思いますが、現在、当院では遠心器については点検も含めて精度管理を実施していない状況です。遠心器のGを測定する機器はあると聞きましたが、高価であり、もっと簡易にできる方法もあるとも聞きました(具体的には判らないのですが・・・)。簡易に実施できる遠心器の精度管理の方法をご存知でしたらお教えいただければ幸いです。(東京都 O様)
臨床検査室で遠心器を利用する場合には、毛細管によるヘマトクリット値の直接測定、血清や血漿の分離に使われるのが一般的でしょう。もし、研究的な業務をされている場合には、密度勾配を用いた分離分析のようなこともその一つになるかもしれませんが、今日の臨床検査室ではまれなケースだと想像します。
ご質問の中では、検体分離が不十分であると、検査データが不正確になる危険があると問題を挙げておられますので、文意からおそらく血清あるいは血漿の分離のことを念頭においておられるものと判断します。
血清分離の作業で遠心力のことを留意しないと、どんな問題が起きるかと考えますと、
- 遠心力Gが想定したより実際では大きく、血球が破壊され、血球内成分が血清に漏出した
- 上と同様の理由で溶血した
- 血清分離剤がうまく血清と血餅の間に層を形成しなかった
- フィブリン塊が残った
などのケースでしょうか。
いずれにしても、こうした遠心器によるトラブルは、ある1本の検体にだけ起きるのではなく、多くの検体で発生し、検査員の注意を引くことになると思われます。ただし、4) フィブリン塊が残った、というケースでは、すべての他の検体にも見られるということはないかもしれません。しかし、このケースでは遠心器に問題があるのではなく、検体に問題があると考えて良いでしょう。
さて、遠心器の点検についてです。
■ 遠心器の薬事法での分類
遠心器は改正薬事法のクラス分類で一般医療機器のクラスⅠになりますが、特定医療機器ではありません。このため、企業から決まった始業時点検や定期点検の手順は示されていません。
従って、特に法令による正確な遠心力について点検を義務付ける規制はないと考えてよいでしょう。一方で、GLP(Good Laboratory Practice)を実施している多くの施設では、遠心器の使用に当たっての安全確認と、定期的な回転数の確認点検がマニュアル化されています。
こうした高い品質の検査を提供する検査施設では、遠心器も品質保証作業の対象に含めています。ただし、ご質問にあるように、遠心力Gを確認し、日常メンテナンスプロトコールに組み込むのではなく、回転数を確認する方法が採用されています。これは、ローターを初めとして、掛ける試験管あるいは採血管の種類などにより、同じ回転数でもかかる遠心力が違ってくるので、考え方として妥当なことではないでしょうか。
■ 相対的な遠心力G(RCF)の計算方法
- 遠心力G=11.18×([回転数]/1000)2×[ローター半径]
- [ローター半径]: ローターの中心から遠心管の底までの距離(cm)
- [回転数]: 一分間あたりの回転数(RPM)
- RCF: Relative Centrifugal Force
※久保田商事のホームページ(http://www.kubotacorp.co.jp/calc/)に自動算出プログラムがあって便利
遠心器の回転数は、通常装置に備え付けられた回転計で表示されます。表示される回転数に疑問を抱かれた場合には、メーカーに連絡して相談をなさってください。
回転数は、回転軸に鏡の働きをする金属片をつけるか、永久磁石の小さなものを貼り付けて、それが回転するのを光学的、あるいは磁気的に検出します。回転計は後付けも可能なので、業者の人と相談なさってください。通常1年に1度の割合で、メーカーの指導を受けて正確な回転数をチェックし、記録にとどめるようにしましょう。また、採血管の種類によってローターを取り替える必要がある場合には、遠心力の計算に注意してください。遠心管の口径が違っても遠心力には違いがありません。
■ 血清(血漿)分離に当たって
採血管の材質、血液の性状、患者に投薬されている治療用薬物、添加された凝固阻止剤の種類、などによって血清分離の準備に必要な時間は異なります。一般的には、室温で、採血されてから20分~1時間の経過時間が血液凝固に必要です。臨床検査項目によって異なるので、一度前準備に必要な時間に関して検討されることを勧めます。
遠心時間についても、さまざまな条件が関わるため、一つの条件ですべてを処理できないでしょう。もし一般的なことを言うなら、1000~1200RCFで10分間が推奨されます(ローター半径20cmの遠心器を用い、2100RPM~2300RPMで遠心すれば、およそ必要な遠心力になります)。
■ より厳密な遠心力の管理が求められる場合
毛細管による新生児のヘマトクリットを遠心器で目視する場合には、回転数の点検はより短期間で行うべきです。
尿沈査の精度を維持するためには、採取した検体尿を均一にしてその一部を遠心管にとり遠沈する、検体準備作業の標準化を行う必要があります。この検査での遠心作業は厳密に標準化されるべきなので、回転数の点検はより短期間に実施することが推奨されます。
参考: [ 尿沈査のための検体前準備 ] 適正に採取され均一にした尿10mlを、先の細くなったスピッツ管に採取し、ローター半径20cmの遠心器を用い、1500RPMで5分間遠沈する(この条件では遠心力が503 Gになります。ローター半径が異なる場合には回転数を計算式から求めれば良い)。遠沈後スピッツ管を静かに傾けて傾斜法により上清を捨てる。残渣液量は0.2mlとなる。これを駒込ピペットで、20回繰り返し吸引排出して全体を均一にした後、同じ駒込ピペットでおよそ15μl採ってスライドグラスに載せカバーグラスをする。
次に、日常的なメンテナンス事項を書きとめておきます。
■ ローターのメンテナンス
- ローターのパッキン(O-リング)部分には真空グリスを塗布する。同時にひび割れの有無を確認し、ひび割れのある場合には交換する
- ローターの蓋を取り付けているシャフトの先端(ネジ溝部分)に清掃後スピンコートを塗布する
- サンプルがローター内に漏れたり付着したりしている場合には、チャンバー内部とローター本体を滅菌・洗浄する
■ 遠心機メンテナンス
- 機器は水平で丈夫な台に設置すること
- チャンバー内にサンプルの漏れ、結露による水分が残留している場合には滅菌手順に従って、清掃すること
- 遠心前にローターを固定しているネジの緩みがないか確認すること
- 使用終了時はチャンバー内部を乾燥させるため、蓋は開けた状態にする
- ローター固着防止のためドライブシャフト部分を清掃後に、スピンコート(グリス)を塗布すること
■ 使用時の安全確保
一般的な注意事項は、メーカーが作成し添付されているマニュアルに書かれているので、これを読み十分理解してください。
遠心器はローターが高速で回転します。一般的なタイプではチャンバー内部を真空にしていないので、内部に空気の渦流が発生します。遠心操作終了後、遠心器のふたを開ける時、内部から霧状になった血液由来の感染性物質が巻き上がる危険が重ねて警告されています。このため、遠心器の作業では、手袋をつけることはもちろん、顔面を防御する強化プラスチック製防御具と口鼻を覆うマスクを着用することが推奨されます。
顔を保護するための防御具の一例です。
[トーヨーセフティ社ホームページ] http://www.toyo-safety.co.jp/seihin/eyeguard_cat4.html
※形状の紹介であり、特定の製品を支援・推奨するものではありません。
中野 幸弘
(宝塚市立病院 中央検査部)
2007年9月18日