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精度管理の考え方中 恵一

Q17 Answer

Q.17

母平均の区間推定」「t分布を利用する」についてお尋ねします。
tをあらわす式で分母は自由度の平方根で割っていますが、t分布表のtの値は割るまえの値ではないでしょうか?自由度無限大の場合を正規分布と考えると、t分布表で信頼水準95%のtは1.96になっています。したがって自由度無限大の場合の信頼水準95%の範囲は平均値±1.96σということになるはずですが、ここで自由度の平方根を式に入れると無限小ということになってしまいます。(神奈川県 O様)

A.17

一つの正規分布をする母集団を考えます。この正規母集団の変数xは、平均値μ、標準偏差σをとるとしておきます。この母集団から無作為抽出をして標本を得たとき、標本集団も母集団と同じように正規分布をします。その標本平均値 X-bar は、母平均と同じμ、その標準偏差は、となります。
つまり回数nを増せば増すほど母平均値を正確に推測することができることになり、精度は回数の平方根だけ上がることを意味しています。

このことを利用して、次のようなことを調べることができます。ここに、すでに多くの経験を持っておりよく知られた工程があって、今これに新たな装置を導入する実験をし、いくつかの標本群を得たとします。この実験によって得られた結果が、これまでと特に違った値になっているかどうかは興味のあるところです。これまでの経験から、その工程では、ある特性値について、平均値μ、標準偏差σになることを知っているとします。つまり母平均と母標準偏差は豊富な経験から分かっているとするのです。すると、新たに得られた標本は、次のような平均値と標準偏差を持つことがわかります。

  • 標本平均値
  • 平均値の標準偏差

ここで、テキスト(『精度管理の考え方』)の記述を引用します。

一般の正規分布をする集団に対して、基準正規分布をモデルとして利用するときには、Z変換式を用いる。
そのもとになる式は、正規分布N(µ,2)にしたがう確率変数X対して
・・・(c-10)

という変換をすると、zは、基準正規分布N (0, 1)にしたがう、という性質を利用するものである。

ところで今、標本平均 の分布に対して、平均値µの周りにの標準偏差
で正規分布をしていると見なそうとした。
そこで、ともかくこのまま、このZ変換を当てはめることにしよう。

上に示した一般的なZ変換式(c-10)に対して、標本の測定値xの代わりに を、母標準偏差の代わりに を用いると次のような変換式ができる。
・・・(c-11)

ここで、重要なことが書かれています。それは、正規分布をする変数Xに対して、Z変換をすれば、変数zは基準正規分布N(0,1)をすることです。
従って、式(c‐11)の値を基準正規分布の値と比べれば、それが特に母平均から外れた値かどうかを知ることができるわけです。よく知られているようにもしこの値が1.96であれば、それから大きい値に、もしくは小さな値に外れるのは2.5%しかない境界値です。
ところで、知識を日常の作業にそのまま利用できるでしょうか。それができるのは、標本が大きな場合であって、小さな数の標本の場合には、標本標準偏差sが母標準偏差σの推定値としては不正確で式(c‐11)のσの代わりにsを用いると大きな誤差を持ち込みかねません。
実際、多くの一般的な作業工程では母標準偏差が正しく知られていません。
そこで、母標準偏差の代わりに標本標準偏差を含む変数を考え出さなければならなくなります。これがStudentのt分布の発想です。
これ以降の説明は、テキスト(『精度管理の考え方』)の「t分布」のところに記載されています。重複になりますが、ここに付け加えておきます。

t 分布

Uを平均0、分散1の正規分布にしたがう基準正規変数とし、V2をUと独立に分布する自由度vのχ2分布に従うとするとき、次の変数はステューデントのt分布に従う。

その密度関数は、次式で与えられる。


ただし、cは次で与えられる定数である。
t分布は正規分布と同じ釣り鐘型をしている。正規分布が自由度で形を変えないのに対し、t分布は自由度によって形が変わる。自由度vが小さいときは、正規分布より広がりが大きく、自由度が30以上になれば正規分布と区別がつかない。自由度が無限大の時、t分布は正規分布に一致する。 t分布の平均値µtと分散 は次の通りである。
µt= 0 式から明らかなように、自由度が2以下の時には分散は存在しない。
t分布をする変数には、母平均をµ、標本平均を 、標本標準偏差をs、標本サイズをnとするとき、標準正規変数Zと同型の次式がある。 標準正規変数Zは、次式で表された。 ・・・(A-18)

中 恵一
2007年1月24日