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検査室支援情報

精度管理の考え方中 恵一

Q15 Answer

Q.15

Tonksの誤差許容限界についての質問です。

誤差許容限界=±{(基準範囲の幅×1/4)/基準範囲の中央値}×100
基準範囲の1/4の幅が許容できる誤差の限界とし、10%を越える場合には10%にとどめる。一般に基準範囲は健常者群から求めた測定値の平均値±2SDで表現される。その幅の1/4は、1SDに相当する。また測定誤差は一般的に95%信頼区間(平均値±2SD)で表現される。このことからTonksの誤差許容限界は実験誤差が健常者群から求めた測定値の1SDを越えてはならないとするもの

・・・とありますが、「測定誤差は~」という文章の意味がわかりません。測定誤差と許容誤差との関係がつかめません。具体的に教えて頂ければと思います。(神奈川県 学生)

A.15

引用された「Tonksの許容限界に関する解説」の出典を知りませんが、たしかに少し言葉を端折ったことで説明が足らないように思います。Tonksの主張する臨床検査の信頼性に対する数値目標は、1963年に雑誌に載った論文で公表されました。論文(下記)が書かれたのはこれより2年前で、日本の年号で言うと昭和36年です。この頃は日本国内でもようやく臨床検査が広く使われ始め、医療現場においてさまざまな医療上の選択に対し、客観性のある科学的根拠を与えるものとして重要な地位を築き始めたばかりです。臨床検査が科学的根拠を特に数値で与えるものとして重宝であるにもかかわらず、バラツキが大きいのではないかという疑問が現場から湧き上がり、実際に調査したところまさしくその通りであったのです。これは当時の臨床検査が未だ技術的に未熟であったために起きたことで、現場の技師に対し、継続的な精度上の調査を実施すると共に、明確な目標を提示する必要もありました。日本医師会の臨床検査精度管理調査などはそのような動機で始まったのです。
臨床検査結果が主に現場の医師によって利用されることを踏まえて、アメリカのある調査では臨床検査の精度に対する医者側の希望が聴取され、臨床検査室にそれらが提示されました。つまり、利用価値のある信頼性はどう表現すればよいか、模索されたのです。この一つがTonksの提案でした。この提案に対し別の提案がいくつも出されましたが、今日でもアメリカでは精度上の数値目標としてTonksの提案を利用することが公的にも勧告されています。しかしなかには、どんな項目に対しても当てはめることができず、場合によっては非現実的で、厳しすぎるという意見も出されています。
疑問とされている点は、Tonksの範囲も、一般的にバラツキを表示する範囲も標準偏差をもって表現されていると考えられたことから生じたと考えます。上に申し上げた通り、臨床検査のバラツキの程度に対し、診療側が希望するのは、たとえば健常者をそうではない群の個体から明確に区別できることです。この場合、健常者の群が持つバラツキ範囲を測定のバラツキが超えるならば、健常者をそうではない群から区別できないと訴えるのは妥当です。
質問者が利用された解説はこのことを説明しようとしたのだと考えます。
Tonksは論文中で自分が提案した計算式が精度目標を与える上でもっとも有効だと思いついた、と説明しているだけで、とくにCV(SD/Mean)%との言及をしていません。また、精度上の数値目標については、Tonksのほかにもいくつか提案されています。それらの計算式とそれを導いた根拠についてもさらに勉強なさってください。

Clinical Chemistry, Vol 9, 217-233(1963)
A Study of the Accuracy and Precision of Clinical Chemistry Determinations in 170 Canadian Laboratories
David B. Tonks
抄録: http://www.clinchem.org/cgi/content/abstract/9/2/217
全文: http://www.clinchem.org/cgi/reprint/9/2/217

篠倉 潔
(NTT西日本大阪病院 臨床検査科)、
中 恵一
2006年8月18日