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検査室支援情報
精度管理の考え方
Q14 Answer
当施設では献血者から採取した血液を測定しております。私の部署で濃厚血小板液を測定しています。自動血球装置の精度管理はメーカーから提供のコントロール血液を使用しています。
以前、行政査察が入った時に、自動血球装置の測定前と測定後の精度管理を実施しなさいと指摘されたそうです。コントロール血液で前後の精度管理を行いたいのですが、検体量が足りないため、朝一番に測定した血液をもう一度夕方に測定して、測定値に差がないかみることになりました。しかしながら、質問集を見ている限りではこれは意味のないことに思えたのですが、いかがなものなのでしょうか?この方法が正しいとして、どうやって前後の測定値に問題がなかったといえばいいのでしょうか?
例えば、朝測定した値の何%以内ならば適とするのか?その何%はどうやって設定するのか?(K.K.様)
Webテキストをお読みいただいて既にご理解いただいている通り、分析前と分析終了時に精度管理試料(コントロール血球)の測定を実施して、その両方ともが管理限界内に収まっていれば途中の分析も問題なく行われたと判断することは、心理的に安心感を得るだけで現実には精度保証として意味を成しません。
自動分析装置は電源電圧の揺らぎや装置外周の温度変化などにより、一瞬たりとも全く同じ状態にはありません。そして、これらの揺らぎは分析量に対する応答信号にいくらかの影響を与えます。これらの変動要因は十分な対策を採ることによって限りなく取り除くことが可能ですが、完全に取り除くことはできません。
このことは言い換えれば、自動分析装置は十分に整備された状態においては、ある小さな範囲のばらつきの幅で安定していることになります。
Webテキストで推奨している-s管理図法は分析装置が上述の安定している状態で、一定期間コントロール血球の多重測定を行い、その結果から多重測定結果の平均値が取り得る95%の範囲(=平均値±2SD)を算出し、実際の検体測定列中に投入したコントロール血球の多重測定の平均値の経時プロットがどのような挙動をとるか確認することで分析装置の状態の変化を見て取り、予防的に対策を実施することを目的とするものです。つまり、今行われたロットの分析が、分析装置が安定稼動していたときと同じ状態で行われたと言えるかどうかを判断しようとするものであり、同じ状態で行われたと言えないと判断された場合には、その原因を追及し除去することを目的としています。
僅かな幅とはいえ、常に揺らいでいる分析装置から得られる結果について、そのロットの良否(分析装置が安定稼動していたときと同じ状態で行われたと言えるかどうか)を歪み無く判断するには、ロットの中から平均値、標準偏差を計算するための標本を偏りなく抜き出す必要があります。即ち、ランダムでなければなりません。常に分析の開始前と分析終了後というのは特定の位置であり、ランダムではありませんので統計学的な根拠を持つ精度保証を行うことができません。
ご質問の本題である朝一番に測定した実検体を夕方もう一度測定するという方法の適否についてですが、朝一番の測定値を絶対と見なして夕方の測定値が何%以内であれば良好と言えるかとするのは無理があります。単回測定の結果は真の値に対して正負どちらの誤差をどれだけ含んでいるか全く分かりませんので、その片方を絶対として他方がその何%であるかとすることには意味がありません。
検体を用いて日内の変動を調べようとするならば、次のような方法が考えられます。
- 多重測定を行いその平均値と標準偏差からC.V.を計算する
- 10検体程度を選び、それぞれを2回測定し1回目と2回目の測定値の差の平均値が0から有意に離れていないか検定する
なお、検体の投入位置は朝一番と夕方ではなく、ランダムな位置に投入されなければなりません。また、これらの方法による結果の解釈にあたって注意しなければならないことは、差の大きさが実用上問題になるのかどうかということです。貴施設の場合の実用上の視点は、製剤の原料としての血小板数の正確さがどこまで要求されるのかということであると思います。その場合、製剤の仕様上許容される程度の誤差であれば、たとえ統計的には有意な差があると判定されても実際には問題はないということになります。つまり、目標とする正確さ、精密さは施設ごとに任意に設定されるものであり、精度を高めようとすれば当然経費もかかりますので、目的とそのためにかけることができる経費により決定されるということです。
ところで、検体を用いての精度管理では偶発誤差による変動についての管理は可能ですが、系統誤差による変動を検出することはできません。また、生血でありその安定性について保証がなされていません。
管理図法は、どのような分布型をとる標本であっても、その標本から複数個を抽出して求めた平均値の分布型は、正規分布に近似するという中心極限定理を理論としていますので、最低で1日に2回の測定を行なえば(投入位置は何度も繰り返しますが、ランダムでなければなりません)、精度管理の目的を果たすことができます。
これらの点を考慮しますと、精度管理にはコントロール血球を使用することが最善であると考えます。
篠倉 潔
(NTT西日本大阪病院 臨床検査科)
2005年8月23日