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検査室支援情報

精度管理の考え方中 恵一

Q10 Answer

Q.10

コントロール血清を流すタイミングについて質問があります。
検体ロットの先頭と末尾に流し、その両方が管理範囲内に収まっていれば、ロット全体を保証できると考えてよいでしょうか。(大阪府 W.S.様)

A.10

図

検体列の最初と最後にコントロール血清を測定し、その結果が管理範囲内に収まっていればその途中の検体も全て正しく測定できているであろうと判断することは理屈が通っているように見えますが、科学的な保証とは成り得ません。

臨床検査は濃度が未知でしかも一つ一つ異なる検体に対し、あくまでも一回の測定でその結果を出さなければならないため、その測定結果が正しいと直接保証することはなかなか困難です。
そこで、一群の検体列(ロット)に対する品質保証を行い、その結果から個々の検体の測定結果が正しいであろうということをある確からしさにおいて保証するという手法を用います。その方法は、まず各施設が任意に測定系のトレーサビィリティーを確認し、再現性の目標を定めます。詳細は「精度管理の考え方」テキストに解説しています。
ここで、正しく理解しておかなければならないことがあります。それは、同一ロットのコントロール血清を多重測定し、平均値を求める作業はコントロール血清の母平均と母標準偏差を推定する作業であるということです。ここでいう母集団とは、コントロール血清の多重測定により平均値を求める作業を無限回繰り返して得られる結果の分布を想定したものです。
さて、実際にコントロール血清を配置するには、まず1ロットの検体数とその中へ挿入するコントロール血清の測定回数を決定し、ランダムに配置し測定を行います。こうして得られた結果から平均値と標準偏差を計算し、それらが先に想定した母集団から取り出された標本であるとしても矛盾はないと判断することができれば、そのロットは母集団と同じバラツキで測定されたと見なすことができます。
標本として選ばれるコントロール血清はあくまでもロット全体の中から代表として抜き出されるため、偏りを持っていてはいけませんから無作為抽出でなければなりません。キャリブレーションの直後といったいつも決まった位置であったり、ロットを標本の塊(群)と見て、その最初と最後といった一定周期で出現する位置に置いたりするのは無作為ではないため、そのような位置に配置したコントロール血清の値を使って検査結果の品質保証を行うことはできません。
コントロール血清の検体列への挿入位置とは、本来は測定が終わった検体列から抜き出す標本の位置のことであり、ロット全体から偏りを持たせず満遍なく抜き出すことが統計学での約束事です。ですから、その位置はランダムにしなければなりません。このためには乱数表を利用するなどして、無作為となるようにすることが必要です。

篠倉 潔
(NTT西日本大阪病院 臨床検査科)
2004年8月6日