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検査室支援情報
精度管理の考え方
数理統計学で使う基本的な用語
測定 measurement
ある量を、基準として用いる量と比較し、数値を用いて表す一連の操作(Z8402)。
「基準として用いる量」を、我々は「単位」とよぶ。単位は、通常国際的な機関などによって定義される。この定義は、あくまでも形而上の取り決めごとであって、現実に再現されない。単位の定義であれ、選択であれ、それは任意である。任意であるために、利害や興味を共通にする国際的な組織の関与が欠かせない。
単位の設定のために、ある計量方法が「第一次測定法:基準測定法 (primary reference measurement procedure)」として設定される。測定方法は、誤差の要因となるものが厳密に記述され、「あいまいさ:uncertainty」が実験的に求められてモデル的に表記されなければならない。ここでいうモデル的という意味は、少なくともその測定方法を実施する際、示される「あいまいさ」の数値範囲内で、測定誤差の程度が現実の目標とされなければいけない、ということである。uncertaintyは、ISO/DIS 17511で定義された、総合的な誤差を意味する用語であるが、「あいまいさ」は未だ国内の関連学会で、統一的に使われる用語として合意に至っていない。
単位の制定に当たっては、さらに2次的な要因を定義で含めなければならないことも多い。例えば、測定時の温度設定、測定に要する時間などは、たいていの場合に議論として付随する。
測定のことをより深く理解するため、若干の理論的なことを述べる。
数量的に測定されるために、測定の対象は論理として厳密に加法性と等価性を持たなければならない。この2つの性質は、「加成の法則」と「等量の法則」とよばれる(中桐大有:近代科学論 p122〜130、理想社 1957年 東京)。
「加成の法則」は、物体のある性質を見て、その性質を同一に持つ物体を、多数並置すれば、その見ている性質について、その度合いの進んでいる別の物質に対し、等量の系を作ることができる、というものである。具体的な例で考えれば、1gの分銅ともう一つの1gの分銅をあわせると、別にある2gの分銅に相当するというものである。すなわち、1つの物体の特性として地球表面における重さを見るとき、あるものが1gの質量を持っていて、同じ質量を持つもう一つと合わせれば、1+1=2の数的関係が成立し、2gのものと釣り合うことを要求している。「加成の法則」は、それを満足しないものを考えるといっそう理解しやすい。その典型的なものは、温度を計ることである。たとえば、37℃で酵素活性を測定する。この37℃は厳密に与えることが出来ない。それは、「加成の法則」を満足しない特性を見ようとするからである。具体的にいえば、20℃と17℃の水を合わせると37℃の水にならないことを指している。
一方の「等量の法則」は、二つの物体があって、関心を持っている特性について、第三の物体に対し等量ならば、その特性に関する限り、他のすべての物質に対しても等量である、というものである。1gのものが延ばすバネの長さは、もう一つの1gのものが伸ばす長さと同じである。この重さという特性について言えば、天秤はかりで片方に最初の1gを載せたとき、支点に対して得られるモーメントは他方にあるもう一つの1gの与えるモーメントと同じである。
「加成の法則」は、物質のもつある特性に対して加法性をいい、数的関係で、1+1=2、1+2=3・・・の関係が成立することをいう。「等量の法則」は等価性をいうので、数的関係においてA=CでB=Cならば、A=Bをいう。温度は「加成の法則」を満足させないが、「等量の法則」を満足する。したがって、水銀の膨張による温度計であっても、アルコールの膨張による温度計であっても、37℃の2つの水槽は同じ測定結果を得る。
温度のように、二つの法則を二つともに満足させない特性を測定しようとするときには、ある特性に対して数の上で結び付けられても、真の意味で数量化が可能になったとはいえない。数と結び付けるというのは、その特性と同じ方向に変化する測定可能な物を利用して数量的な関係をつけることである。上で例にあげた温度では、その度合い、つまり熱さが物体の膨張、電気抵抗、光輝などと同一の方向へ変化する。これらは測定可能である。そこで温度は、一定の太さを持つガラス管の中に封じたアルコールの膨張度を長さで測定して表現するなどとする。
二つの法則を満足する特性に関しては真の測定が成り立ち、その測定には一つの単位を与えればよい。その単位の選択は任意である。しかし片方の法則だけしか満足しない、温度のような特性を数量化するには、真の測定ではなく一定の尺度を与えるだけであって、しかも測定を可能にするには次にあげる4つの規定が必要になる。
- 関心がある特性に関して、その度合いの変化と同じ方向に変化する測定可能な別の特性
- その特性を持っている物質で、現実として使用可能な物
- 測定の単位
- 原点
この4つの規定はいずれも任意であるが、すべてを規定しなければ数量化は完全に行えない。温度は、摂氏で表現する際は、膨張を窒素で測定し1/100を単位として、原点には水の氷点を用いている。華氏は、同じ膨張をアルコールで測定し、1/180を単位として、原点は-320度である。