SOLUTION

検査室支援情報

検査室総合マネジメントのすすめ

経営的マネジメントという考え方

渡邊 達久 (株式会社エイアンドティー)

検査室の運営を、経営的視点から考察する。

背景

近年の病院経営は日本の医療経済の破綻に端を発し、行政改革、規制緩和の大河の流れの中、医療改革が進み、経営改革をしない・できない病院は自然淘汰されようとしている。病院経営がこのような環境である以上、その下部組織である院内検査室も同様に、またはそれ以上に危機感を持つようになり、検査室経営において従来、常識とされていたルールも適応されない時代になってきた。

第一の変化として、度重なる医療法の改正や、すでに一部の施設で実施されている包括医療制度(DPC)は、従来では当たり前とされていた検査の大量処理、多項目処理を否定し、検査室の人件費を含むトータルコストの削減が改善のための最大の目標とされるようになった。

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また第二には、医療の質の変化として、EBM(Evidence Based Medicine)という言葉に代表されるように、経験やカンに頼る医療から、医療情報や医療・治療データに基づく医療へ変化してきたことである。特に数値データを扱う検体検査はEBMでもベースとなる基本データである。そしてこの基本データである検査データの品質管理(狭義の精度管理ではなく、採血から前処理、測定、後処理、報告までの一連の検査工程の品質の管理)や報告される検査結果の品質保証が、病院自体の(財)日本病院評価機構の認定やISO(International Organization for Standardization)の取得と相まって重要視されるようになった。

さらに第三の変化として、一部の病院経営者は、医療をサービス業と捉え、病院内での患者サービスとしての検査室の在り方を問い直し始めている。すなわち、患者接遇部門(入院/外来の採血や生理検査など)への更なる参入や、入院期間短縮化への両輪として注目されている院内感染対策室やNST(栄養サポートチーム)への参加期待感がますます膨らむようになった。つまり、単に依頼された検査結果を返すのが、検査室の使命から、病院職員として、病院経営に対して検査室がどう貢献できるかを問われようとしている。院内検査室としての検査技師だからできることと、検査技師だから一味違った貢献ができること(検査の多能化)への期待感が高まったのである。

すなわち、院内検査室の経営課題は、

  1. 経済的な貢献
  2. 医療の質へ貢献
  3. 医療サービスへの貢献

が必要不可欠なものとなった。

1.経済的な貢献

当然、検査室の経済的な貢献ということでは日常からのコスト削減は言うまでもないが、多くの検査室では根本的な解決策になかなか到達されていないのが現状である。というのも、この問題の解決には検査室の構造的解決を要求されるからである。例えば、苦労して試薬の価格を多少下げたとしても、試薬消費量の多い、無駄が発生しやすい装置を使用し続けたならば、削減効果はなかなか上がらない。また、装置によっては試薬・消耗品コストは安いが、装置の使用料(減価償却費)や維持費が高いものもあり、小手先だけの削減ではなかなか効果が生まれにくいケースも存在する。さらに、試薬・消耗品コストの比重の高い項目(変動率の高い測定項目)では、試薬コストや消耗品コストの削減は非常に有効な削減効果が生むが、人件費や装置の減価償却費の高い項目(固定費率の高い測定項目)では、むしろ人件費や減価償却費の見直しの方が、削減効果が大きく期待できる。(『代表平均20項目コスト指数』参照)

最近では、検査室スペースもコストという考え方も論議され始めている。不必要な検査スペースは病院サイドに返却して、病院運用のために有効利用できるよう努めなければならないというものである。

このように考えると、使用装置の更新は検査室を再構築するための最大のチャンスと言える。単に更新機種を検討するのではなく、検査室全体の最適化を念頭に人的資源配分や試薬・消耗品管理、検査スペースの削減ができる仕掛け(試薬等の在庫管理や、コスト分析、コンパクトな運用ができる仕組み)をビルトインすることが必要である。

2.医療の質に貢献

医療の質への貢献では、検査結果の品質管理、品質保証といった課題があるとした。では検査業務における品質管理や品質保証はどのように解釈し、何を実践すればよいのであろうか。従来行われている精度管理と品質管理は異なるのであろうか。そして、検査室は何を管理し、何を保証すべきなのであろうか。

患者の立場から考えるとその解は、報告される検査結果の正確さと再現性を管理・保証すべきであると考える。しかし、現実的には検査結果はほとんど1回の測定だけで報告されている。1回の測定で、検査結果の正確さと再現性を管理・保証することはできるのであろうか。

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そのために、現在多くの検査室で精度管理が行われているが、問題も残されている。それは、多くの検査室では使用する試薬と装置の検定(または、検査前、検査中、検査後検定。別の言葉で言えば、始業点検)行為で、検定をした時点での試薬や装置のエラーとそのデータと標準物質とのトレーサビリティーを確認できるが、多くの検査室では数理統計学的証明を行っていないため、従来の精度管理だけでは、測定装置や試薬が、安定していたと証明することはできない。(『臨床検査における精度管理の考え方』参照)

検査結果を保証するにおいてもう一つの問題点は、検査結果を保証するための手順手法が担当者によりバラバラなことである。つまり、検査手順が標準化されていない点である。日中の検査では、それぞれの担当者が検査結果を確認して、ある基準範囲に収束されているか(上限値、下限値の異常値チェック)、前回測定した値と同じ結果に収束されているか(前回値チェック)チェックして、対象検体を抜き取り再検している。また、再検方法も再検基準に見合った方法が取られているが、夜間や時間外ともなると、再検基準、再検方法もその日の担当者により異なることもよく聞く、これでは検査室が発信する検査結果を保証していることにはならない。この問題を解決するために弊社では前回値チェックに前回測定時からの経過時間を考慮に入れ、なおかつ過去に対象項目が測定され出現した臨床的変動許容範囲(ゾーン)から、前回値との変動幅を項目別に検査システムがチェックする方法(『出現実績ゾーン法』参照)を推奨している。

そこで、我々が提案したいのは、検査の真の手順書(工程管理書)が必要だと言うことである。真と言ったのは単なるメーカーが提出するマニュアルをまとめたものではなく、検査室が持っている検査ノウハウ、スキル、経験が網羅されたもので、特にアブノーマル検体の再検処理に威力を発揮するものが必要であると考える。そして、その適応範囲は採血から検体受取、保管、前処理、測定、後処理、報告の検査工程全てが含まれ、限られた資源(費用、人的資源、資産など)を効率よく運用できるよう検査工程を設計しなければならない。つまり、誰が担当しても設計通り検査工程を繰り返し実行できる仕組みが人的バラツキを最小限にできるのである。(担当者により検査方法や検査工程、判断基準・再検基準がばらばらでは検査データの品質が一定ではなくなるため)

次に、その設計された適応範囲内で検査工程が確実に設計された通りに行われているか管理することが重要となる。管理する方法としては各イベント(採血時、検体受取時、検体測定時、再検時、報告時など)で記録(ログ;いつ、誰が、何を、どのような方法で、どうしたのか)を取る。これは患者の検体から検査結果が生まれるまでの工程が設計通りの手順で運営され、管理された検査結果であることを証明することになる。また、検査材料である試薬や消耗品の管理も同様に重要となる。メーカーが保証した試薬や消耗品を使用していたという記録を行うのである。(このため購買のルールを定め、在庫管理を行う。)これらの記録が、検査結果から患者(検体)へのトレーサビリティーを補完することができ、検査結果の品質に保証を与えることができると我々は考える。

しかしながら、検査データの品質保証を行うといっても、検査担当者がストップウォッチ片手に搬入された検体1本1本の到着時間の記録を取ることは馬鹿げている。少なくとも検査結果の品質を考えた場合、検査室に仕掛け(検査工程が一定で、検査情報システムなどにTAT管理を含むロギング機能や検体識別機能(バーコード運用など)といった品質管理を提供できる仕組み)が存在しないと本末転倒になりかねない。

3.医療サービスへの貢献

近年の多くの病院経営者は検査室が多能化へ対応することを期待している。多能化の一例として、入外来の採血業務、患者接遇部門検査へのシフト、感染症対策室、検査コンサルタント、栄養サポートチームへの参加などがある。しかしながら、検査室の多能化こそ人海戦術に頼ることが大きい業務である。つまり、検査室の多能化はアウトソーシングとの差別化には必須要素ではあるが、多くの検査室は慢性的な人材不足のため、踏み出せないのが現状である。やはりここでもまた、検査室再構築を行い、自由に人材を活用できる仕掛け(従来の検査業務が最小人数で稼働・運用できる仕組み)が必用となる。

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結論

検査室の機能面向上をテーマに話を進めてきたが、より大きな病院への貢献を考えた場合、検査室の中に遊軍として自由に動き回れる部隊が必用であることは明白である。この部隊を作るためにも、自動化という仕組み・仕掛けが必用であると述べた。また、検査結果の管理保証を行うためにも、検査の標準化とロギングを行うためにも自動化は必要であり、一番安価なランニングコストの測定方法を自動化に持ち込むこともできる。

結論として、われわれは検査室再構築のための仕組み・仕掛けがビルトインされた自動化こそが、院内検査室を存続させ、多機能な検査室を構築できると考えている。

図1.TAT解析グラフ

図1.TAT解析グラフ

また、この自動化にはハード的、ソフト的意味が含まれているのは言うまでもない。ここで面白いデータを2点示そう。第一はTATを解析したグラフ1である。これはある施設の検査室に検体が到着してから、結果報告するまでの時間(TAT)帯別に、依頼数がどのくらいあったのかを調べたグラフである。TATが10分くらいで立ち上がる赤い放物線は1回の測定で終了した検体のTAT分布で、20分以降に立ち上がる緑の放物線は再検を必要とした検体のTAT分布である。通常これら全体の分布からTATの平均値が計算される。当然TATも検査室から発信される品質の一つであるから、TATの管理も必要となるが、TATの改善を考えた場合の結果として、TATの品質は、装置の処理能力に依存するよりも、むしろ初回測定結果から再検検体を割り出し、素早く再検し、報告するスムーズなシステムが重要であることがわかる。

またもう一つの例は、グラフ2で示す他施設とのTATベンチマークでわかったことである。A施設は検体が到着すると、その場にある検体は誰彼なく、すぐに遠心前処理をして、測定している。一方、B施設は、緊急外来検体を最優先とし、緊急、通常と外来、入院との組み合わせを仕分けして、4クラスの優先順位付けをし、最優先検体が到着しないことを見計らって、優先順位の高い検体から順に測定していた。ここで問題なのが、四六時中オペレーターは到着確認している訳でなく、他業務も平行して行っているため、他のオペレーターが到着確認に回って来ても、仕分けされている検体を測定してよいものか分からず、最初のオペレーターが戻ってくるまで、検体が放置されていたことである。これは、効率を優先しようと思い、オペレーターの私感が加わることによって起きたことである。このような前処理や再検指示のような一定のロジックで判断するような工程はシステム側に委ねた方が、むしろ効率よく作業が行え、TATという品質も向上する例と言える。

図2.TATのベンチマーク

図2.TATのベンチマーク

このように、自動化はハードの導入だけでは、真の自動化にはならない。その検査室のノウハウやスキル、経験をソフト化し、ソフトという魂を入れ、初めて検査室の自動化が行え、検査室の再構築の核として機能するのである。

あとがき

検査の自動化は臨床検査の需要とともに進んだ。第一世代は用手法検査を自動化し、検査室は測定精度と効率を飛躍的に高めた。第二世代では臨床検査の需要がさらなる拡大と、検査項目の新たな発見により検査項目が多種多様となったため、高速処理の多項目分析装置が主流となった。さらに第三世代に入ると、第二世代の装置間を搬送システムがつなぎ少人数で稼働できるものとなった。しかしこの第三世代の自動化は設備、設置スペース、予算が拡大し、現実的には"自動化=(イコール)人員削減"となるケースが意外と少なく、病院経営者からは対投資効果としては疑問視する向きも見られた。その結果、一部の大病院や検査センターで実用化した程度で、昨今の医療経済状況では大幅な見直しが迫られている。

本来ならば、1台で全検体系検査項目を処理できる装置があれば、多くの検査室で利用してもらえると信じているが、現在そのような装置は市販されていない。無いのであれば、その検査室にとって必用な装置をつないで1台の装置のようにオペレートすればよいという発想が生まれる。ここまでは、第三世代の自動化と同じだが、全体がOne Unitとしての性格を持たせるためには、ただ接続すればよいと言うものではなく、よりインテリジェンスな機能が要求される。なぜならば、検査依頼はますます包括化され、最小限のセット検査へ移行することが予想される。その結果、異常があればリアルタイムに再検査や追加検査を行う機能が必要となる。つまり、第四世代の自動化とは多項目処理で、臨機応変に、今現時点で、どの項目をどの検体から検査を行えば、最短で短時間に測定が行えるか搬送システムが考える能力が備わっていることが必須条件となるであろう。そのように考えるとますます検査情報システム(LIS)との親和性が要求され、LISからの無理難題に対応して機能できる能力が必要となり、このような第四世代の自動化と検査情報システムのもとで、1. 経済的な貢献、2. 医療の質へ貢献、3. 医療サービスへの貢献が初めて可能になると考える。

測定同分野のマルチ検査という時代があり、その最右翼が搬送システムであったと思う。われわれは数年前より、検査室の再構築を提唱してきた。

その内容は

  1. 導入コストとオペレーティングコスト、維持コストの軽減
  2. 設置スペースのコンパクト化
  3. 検査品質の保証
  4. 最小人員によるオペレーティング
  5. 付加価値業務へのシフト

である。

現在、検査室に新しい装置の導入を検討しているご施設はもう一度考えてほしい。検討している装置やシステムは本当に患者さまに喜んでもらえるものであるかを。