SOLUTION

検査室支援情報

やさしいアカデミック講座

地域医療構想と臨床検査

来る2025年に向けて、私たちはどのような準備をすれば良いのでしょうか。各都道府県で策定された
[地域医療構想]をわかりやすく紐解きます。随時更新いたします。

2021/03/01 掲載

  • 2020年10月に開催された日本医療検査科学会第52回大会のランチョンセミナー7において、「コロナ禍時代の臨床検査室を考える~行政情報を逆手に取って日常業務に生かす」をテーマに講演しました。
    このランチョンセミナーでは、臨床検査に関連する医療行政にフォーカスを当て、ウィズコロナ・アフターコロナ時代の6つの話題を掲げました。
    今回、ここでは「地域医療構想と臨床検査」についてさらに詳しく解説します。

  • 厚生労働省は、2025年までに地域医療構想の実現を目指しています。 この一環で2019年9月に、再編統合が必要な公立・公的病院が公表され、これらの施設は、2020年秋頃までに再編統合に向けた再検証が求められていました。 しかし、コロナ禍により厚生労働省は改めて期限を示すことになり、実質的な延期になっています。 一方、病院の機能が変われば、臨床検査室の対応が変わります。再編統合された病院に対して、どのような検査体制で臨むのか、病院側と十分な議論が必要になると考えます。

  • ここでは、地域医療構想の解説とともに、臨床検査室の対応について考察いたします。
    新型コロナウイルス感染症により、病院の再編統合に向けたスケジュールにも影響が出ています。コロナ禍により病院の収支が悪化する中、臨床検査室は病院側と十分な議論が必要です。検査データの迅速な報告だけでなく、付加価値となる診療支援などについても積極的に行っていくべきだと考えます。

  • 2025年に団塊の世代が75歳以上になることから、地域医療構想では医療提供体制にポイントを置いています。 都道府県は、法律にのっとり地域医療構想を定め、2025年までに実現することになります。
    医療資源の効率化を進め、患者さんが良質な医療サービスを受けられる体制づくりを進めています。

  • このグラフは、2020年8月24日に行われた社会保障審議会(医療部会)の資料で使用されたものです。 2020年4月に行われたアンケートの結果、新型コロナウイルスの影響から患者さんは受診に不安を感じていることがわかります。病院に行きたくても不安を感じる患者さんが、国民全体の3分の2を占めています。このうち、半数以上がとても不安を感じているという結果でした。

  • コロナ患者を受け入れるために空きベッドを用意するなど、医師や看護師は特別な体制を整える必要があります。診療報酬による増点もありますが、経営的に採算が合いません。 臨床検査も受診者減少の影響を受けており、コロナ禍における臨床検査室の体制や役割を再確認すべきと考えます。

  • 臨床検査室は、診療側の検査ニーズに的確に応えることで、患者さんに良質な医療を提供することができます。もし検査データに疑問があれば、電子カルテで確認し診療側にフィードバックすることもできます。
    一方、臨床検査技師は、臨床検査室から出て病棟業務などを行うことも求められています。医師や看護師が行っていた検査説明を技師が行うことで、タスクシフトにもつながると考えられます。
    病院では、コロナ禍により地域医療構想により関心が高まっており、早い段階で臨床検査室も一緒になって将来像を検討すべきと考えます。

  • 政府は2011年に、社会保障と税の一体改革案を示し、その後の地域医療構想へとつながりました。
    2011年当時、病床は一般病床と療養病床に分かれ、さらに介護施設や在宅サービスがありました。
    改革案では、2025年までに病床を高度急性期・一般急性期・回復期(亜急性期)・慢性期・在宅などに分け、段階的に機能分化していくことになります。

  • 2014年10月から、医療法に基づき各病院は都道府県に病床機能を報告することになりました。
    2015年には、都道府県による地域医療構想の作成が始まりました。病院は、自主的に機能分化・連携を進めることになり、その実現に向けて、診療報酬や地域医療介護総合確保基金によって支援されています。
    臨床検査技師の方々も、ぜひとも地域医療構想に関心を持ってほしいと思います。

  • 地域包括ケアシステムは、これまでのような病気になると病院を受診するという医療ではなく、住み慣れた地域で、医療・介護・予防・住まい・生活支援を含めて包括的に医療資源が提供されるというものです。
    この考えが、地域医療構想を実現するための基礎になっています。

    【出典:厚生労働省】

  • 政府の専門組織は、2025年の必要病床数について図のような推計結果を示しました。
    ・2025年の必要病床数の目標を提示
    ・2013年に比べて20万床程度減少させる方針

    ・介護施設や在宅での患者数は30万人前後となる見込み

    急性期の病床数が大幅に減少することは、臨床検査室にとっても大きな影響を受ける可能性があります。

  • 病床機能報告制度により、地域医療構想が作成されます。
    公立・公的病院では、診療実績が少なく、また、構想区域において診療実績が類似している場合に、地域医療構想調整会議により再編統合を要請されます。
    一方、病院による自主的な機能の分化・連携については、診療報酬や地域医療介護総合確保基金で支援されます。

  • 地域医療構想調整会議では、高度急性期・急性期医療を選択している病棟で幅広い手術が実施されているか、重症患者に対応しているか、救急医療が実施されているかなどの確認が行われ、審議されます。
    病棟によっては、急性期ではなくなる可能性もあり、臨床検査(検体検査)のオーダーにも影響します。
    地域医療構想は、今後の臨床検査室の運営にも関わってきます。

  • 地域医療構想は、2016年度までに全都道府県で作成され、進捗状況については調整会議で議論されます。
    厚生労働省の地域医療構想に関するワーキンググループ(WG)では、2025年に向けた具体的対応方針についても検討しています。
    2019年9月には、公立・公的病院を対象に再編統合が必要な424病院(のちに440病院に修正)が公表されました。なお、病院のダウンサイジングや統廃合については、国が支援を行います。

  • 地域医療構想WGによって公表された440病院は、2020年秋までに再編統合計画を作成することになっていましたが、コロナ禍の影響で計画が延長されました。
    440病院の中には、感染症指定病院が含まれており、新興・再興感染症の感染拡大に備えた取り組みが必要となるため、コロナ禍の早期終息が待たれます。

  • 厚生労働省では、地域医療連携推進法人制度の利用について、地域医療構想を実現する際の一つの選択肢として説明をしています。
    コロナの影響で認定に遅れが出ていますが、2021年128日現在、21法人が都道府県により認定されています。
    今後も地方を中心に多くの法人が申請、認定されると推測されます。

  • 厚生労働省は、地域医療連携推進法人設立の効果やメリットを示しています。
    この法人制度を利用すれば、在宅医療への進出の足掛かりにもなると考えられますが、大規模病院ほどこの在宅医療への進出ができていないように感じます。
    法人設立により、各グループによるキメの細かい診療が可能になり、各診療科の機能も拡大し、時間外診療が可能になるなどのメリットが挙げられます。

  • 岡山県では、岡山大学メディカルセンターを中心とした、ホールディングカンパニー制が検討されています。
    これは2014年に公表された資料ですが、2020年10月時点では実現していません。
    一つのホールディングにさまざまな法人が加わるため、難しい事業になります。

  • ある法人では、地域医療連携推進制度により、診療情報を電子カルテで統合し、グループ内で情報の共有化を目指し、医薬品や大型医療機器などの共同購入を行うと発表しています。
    臨床検査はどのようになるのでしょうか。
    個々の病院で導入できなかった最新の大型機器が導入され、緊急検査を除き、病院内で行われていた検体検査が集約される可能性があります。

  • 連携推進法人設立のメリットについて、具体的に示します。
    まず、各病院の医師派遣について、グループで大学医局と交渉できることが挙げられます。税制面や融資面で優遇され、在宅など大型病院では対応できなかった医療をグループ内で実現できます。

  • 他には、大規模病院並みの検査体制を構築することができます。
    臨床検査技師の交流も盛んになり、研修や研究などの実施が期待されます。これまで、大規模病院では在宅医療があまり行われていませんでしたが、グループを通して臨床検査室からの参加も可能になりそうです。
    しかし、外部委託の可能性もあるため、臨床検査室が主体となって将来の構想を進めるべきだと思います。

  • ここで重要なことは、新しい連携推進法人の設立に向けた協議が始まった時点で、臨床検査室も将来構想に加わることです。連携法人の構想が始まった段階で対応することが重要です。新しい組織に向かって、必要な臨床検査室の設計を行うべきでしょう。

  • 地域医療構想の進展により、病院や介護施設が連携したサービスが提供されるようになります。臨床検査室も患者さんに信頼されるために何が求められているのか、そういった検討が一層重要になります。
    検査機器や臨床検査情報システム(LIS)の進歩により、検査データは一層正確に得られるようになりました。最近では、検査データのみで病態を検討するRCPC(Reversed Clinico-Pathological Conference)を行う臨床検査室が増えています。
    LISを活用することで、さらに付加価値を高めた臨床検査室運営を追究してみませんか。

  • 臨床検査業界で地域医療構想の話題は少ないと感じています。
    コロナ禍の中で病院の経営が一層厳しくなり、地域医療構想の関心が高まる可能性があります。地域医療構想により病院が連携して医療を提供し、さらに国や都道府県からの支援により医療提供サービスは変わると思います。
    厚生労働省の三位一体改革の一つに地域医療構想の実現があり、今後、厚生労働省としても強力に進められることになります。
    臨床検査関係者の方々にも、もっと関心を持ってほしいと感じております。

主な参考資料

厚生労働省ホームページ

首相官邸ホームページ