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インタビュー・対談

2021/4/7

トクヤマと機器・試薬開発を加速
渡邊達久 新社長に聞く

 2021年3月26日、株式会社エイアンドティーの代表取締役社長に渡邊達久氏が就任しました。当社は2月1日、株式会社トクヤマの完全子会社になりました。トクヤマとは、すでに電解質や血液凝固などの臨床検査領域において共同で製品開発を進めており、今回の完全子会社化により機器や試薬の開発を加速させます。渡邊社長に今後の製品開発、サービスなどについてお聞きしました。

トクヤマの完全子会社になりました。これまでの歴史を教えてください。

 当社は1978年、アナリティカル・インスツルメンツ(AIC)としてスタートしました。当初はグルコース分析装置から出発したと聞いております。その後、トクヤマの診断システム部門の協力を得て電解質のセンサーも手がけました。1988年にアナリティカル・インスツルメンツ(A)とトクヤマの診断システム部門(T)が統合しエイアンドティー(A&T)が誕生しました。
 トクヤマのつくば研究所(茨城県)で電極を中心にした製品の研究・開発を行っています。トクヤマは現在、化成品やセメントなどが事業の柱となっていますが、2050年の脱炭素時代に向けた事業のポートフォリオを更新し、半導体、健康、環境分野に資源を集中することになります。そこで白羽の矢が立ったのがエイアンドティーです。当社が得意とする臨床検査システム(LIS・LAS)や臨床検査機器・試薬分野をさらに強化することになり、2月1日にトクヤマの完全子会社になりました。

ケミカル力を活用した製品を開発

トクヤマの完全子会社になり、ユーザーにとって何か変わりますか。

 大きく変わることはありません。今回、社長交代があり、製品の開発についても、トクヤマと強力に進めることになりました。従来のサービスを継続しつつ、さらにプラスαを狙って参ります。
 当社の臨床検査情報システム(LIS)や検体検査自動化システム(LAS)の開発・販売は当社が継続します。一方、トクヤマのケミカル力を活用した製品開発を進めます。これまで血液凝固やグルコース、電解質、免疫検査の機器や試薬を開発してきましたが、今後は、より精度を高めた多機能な製品開発を進めます。
 当社は、トクヤマのライフサイエンス部門に属することになりますが、ここではジェネリック医薬品の中間体製造やメガネ関連材料、歯科器材などを製造・販売しています。臨床検査においても、トクヤマの技術を生かし、装置や試薬、消耗品などの開発を進めて参ります。それにより当社のLISやLASなどをお使いのユーザー様の利便性もさらに向上すると確信いたします。

付加価値の高い患者情報を提供

これからの規模別にみた臨床検査・臨床検査室について。

 電子カルテは20種類以上のシステムが組み合わさった集合体です。その中にLISが含まれます。大規模病院では、電子カルテにより患者情報をビューワーとして見ることができますが、付加価値のあるデータに整理されていません。また、電子カルテは、患者個人のデータを見るには便利ですが、同じ疾患の患者データを集め、対比し、傾向を見ようとすると非常に使いづらくなっています。
 医師は、多くの場合、担当以外の患者の経過をたどることはできません。しかし、臨床検査室には、多くの患者データが集積され、閲覧することができ、エビデンスとなるデータが蓄積されています。そのデータを横断的に、または他のシステムと連携することによって、価値のある情報にすることができます。
 当社の検査統合プラットフォーム「CLINILAN Core」は、臨床検査データだけでなく、患者情報を関連付け、付加価値の高い情報を提供いたします。例えば、患者にデータ変化があった場合など、投薬情報などが同時に確認できれば、データ変化の意味づけなどより付加価値の高い情報として臨床に報告できるようになります。
 また、合併症の予測においても、検査値からトリガー(引き金)となる事象をより早く見いだせれば早期治療が可能です。当社では新しく「ROCネットワーク図」を研究開発し、検査データをもとに患者の予後改善を図って参ります。

診断・治療に必要な検査を考える

エイアンドティーのLIS、LAS両方を導入するメリットについて。

 これまで、LIS、LASともに機能向上に取り組んで参りました。最近、自動車に自動運転機能が導入されるようになり、医療においてもLISとLASを連携させることが重要であると感じております。
 コロナ禍であっても医療費の削減が求められています。急性期病院のほとんどがDPCにより入院の検査料は包括されていますが、医師の検査依頼は検査オーダーリングシステムの使い方によっては、前回のオーダーをコピーしての依頼もできるので、重篤でもないのに、緊急扱いで依頼されたり、検査コストが高額な検査依頼が続くなど、患者にとって最適な検査オーダーができていることとは違うと思えるのです。臨床検査室でも、精度管理やコスト管理のみならず、診療に不可欠な検査を追究することが重要です。
 そのように考えると本当に診断・治療に必要な検査は何か、検査室からの情報発信が重要です。検査の進捗管理だけでなく、検査のProとして検査情報から患者の状況を読み取り、その中で必要な追加検査を診療側に提案できる仕組みを作ることで、検査室の価値を高めることができると考えます。
 コロナ禍の中で、感染症の遺伝子検査を導入する施設が増えています。しかし、そのために人員を増やすことは難しい。そこで、検査室の業務の一部をLASに任せることで、技師でなければできない業務に専念することがキーになると考えます。
 大規模病院でも、中小の病院でも自動化、システム化を進め、限られた人員で多様な業務に対応することが重要です。LIS、LASの導入により機器に任せられることは機器に任せ、人の業務に余裕を持たせることを提案しております。

中小病院にLISを導入するメリットは。

 大規模病院のLISは、施設ごとにカスタマイズして納品します。ここに大きなコストがかかります。当社のLISは、すでに約400施設に導入されており、中小規模の病院には、標準化したパッケージ製品を提供することでコストを抑えることができます。
 大規模病院の技師は、検査の領域ごとに専門性を持って取り組む施設が多い。しかし、中小の病院は、少ない人数の技師がすべての分野の業務を行わなければなりません。そこにLIS、LASを入れることにより、業務効率が向上し、ローテーションや24時間の対応など、人数以上の業務をこなすことが可能になります。
 しかし、標準化の問題が障壁となります。検査項目コードが医療機関によって異なっています。今後、地域医療連携が進むことで、どこの病院でも同じコードを使うことが求められます。すでに臨床検査項目分類コードとして「JLAC11」が規格されていることから、セットで導入することも可能です。
 今後、大規模病院だけでなく、地域連携する中小の病院やクリニックでも大きな市場と捉え開発に取り組んで参ります。当社にとって臨床検査データの標準化は重要な課題になっています。

救命にも資する在宅検査を考える

在宅の臨床検査についてのお考えは。

 在宅において理想的な検査は、ベッドサイドに持ち込みが可能なPOCT的な装置です。そこで医師や看護師が簡便な操作で検査ができ、医療機関にデータが送れて一元管理ができることが望ましい。
 現在、そこまで利便性の高い検査機器はほとんどありません。精度を求めると機器が複雑になり、簡易な操作性を要求するとデータの精度が落ちるといったことにより精度と小型化が課題です。
 これまで、病院の検査のクオリティーをそのまま在宅に移すことを考えてきましたが、今後は少し視点を変えて、患者のどういった状況を検査で把握することがいいのか、製品開発の面から考えていかなければなりません。
 今回のコロナ禍により、感染症に関連した項目も必要になっています。目の前で急激に重症化する患者がいることから、どのように救っていくか、検査の視点で考えることも重要だと思っております。

トクヤマの技術を生かす

これからの検査技術開発の方向性は。

 どの産業でもそうですが、別の産業の技術がいきなり入り、劇的に製品価値が変わることがあります。IVDのフィールドでは難しいと考えられていた技術も、トクヤマの技術で解決できれば、我々にとっても嬉しいことになります。
 今後、トクヤマの分子レベルの技術を使い、これまで検査業界ではできなかった製品開発を目指していきたいと考えております。分析装置はケミカルの専門家が必要です。機械設計で解決できなければ電気設計で、さらにプログラムで、ケミカルで解決し、発展できればと思っております。当社が解決できなかったハードルを超えることも可能ではないかと感じております。

情報発信から情報活用に移行

CLINILANなど製品開発について。

 これからネットワークがさらに発達していきますので、CLINILANの開発を強化します。例えば5Gといわれる通信規格は、スピードアップとコストを下げています。単にデジタル化だけでなく、装置からの情報を活用する時代になると感じています。
 装置は、検査結果だけでなく、画像データ、さらに装置によってはLISからのリクエストにも答える機能があります。例えば試薬の残量・交換は、これまで機器に呼び出されて、他の仕事を中断して試薬の交換をしていましたが、スケジュール管理により最適な時期に試薬の交換が可能です。
 診療支援として情報の発信を行うこともできます。LISや投薬、看護情報を関連付けることで、合併症になる前の、より早い段階で患者の状態を把握し、追加の検査の提案により合併症を未然に防ぐこともできると考えます。
 これまで検査の進捗で医師から問い合わせを受けることがありました。これからは問い合わせのないシステムを構築していきます。決められた時間内に検査結果を出すことはもちろん、問い合わせる前に、診療側で進捗状況が分かるシステムを作って参ります。

コロナ禍で情報の発信にも変化

コロナ禍の影響が続いていますが。

 感染症対策のため、メーカーの医療機関への訪問が制限されていることがあります。このような場合、院内のネットワークセキュリティさえしっかりしていれば、万が一、装置やシステムに問題が発生しても、リモートで修復作業を行う方が早く、感染リスクも下がります。コロナ禍により、ネットワーク化を変えるきっかけになるかもしれません。
 診療も一部オンラインで行われるようになりました。臨床検査も柔軟な対応が必要です。マイナンバーカードにより認証がとれれば、医療などの情報を閲覧できるシステム開発が進んでいくと感じています。

新製品としてLPAMが登場しました。開発のきっかけは。

 分析前工程モジュール「MPAM+」に続き、検査室工程自動化モジュラーシステム「LPAM」を開発しました。LPAMは、MPAM+の機能を維持しつつ、前処理工程をモジュール化することで、必要な機能を増設することができます。
 どちらも300床以上の病院検査室で使っていただくことを想定して開発しました。LASは、大小100以上のパーツから成り立っています。これらの機能をモジュール化することがLPAM開発の発想です。MPAM+は、前処理機と説明してきましたが、LPAMは検査の工程の自動化といった位置付けになります。
 前処理だけでなく、途中の処理や後処理にも使えます。検査に検体の待機場(バッファー)を置くことで、優先順位が高い検体から検査が始まります。再検もバッファーに待機させることで時間短縮が図れます。
 LPAMには、待機させるモジュールがあるので、1台で300検体近く格納できます。搬送システムに分析装置が複数つながっていてもバッファーを活用することで、全体的なコストダウンが可能になります。優先順位の高い検体から測りますので、緊急検査の遅延を防ぎます。LPAMは、必要なモジュールのみを追加できることが特長です。

検査の効率化でコストも低減へ

今後の診断支援システムについて

 CLINILAN Coreには、PVproというビューアーの機能を持った製品があります。これまで患者の経過記録(温度板)や投薬情報は手書きで書いている施設がありました。カンファレンスでもそのまま使用していたので、これをシステム化し、検査項目と関連付けました。検査が異常値となれば次の診療を支援します。疾病に特化したグラフを作り、患者の急変を予知することなど検査室から情報発信する仕組みを作りました。
 それ以外にも出現実績ゾーン法という概念を製品化しました。次のアクションのきっかけとして、項目間チェックの中で再検基準を設けるなど、精度管理と同様に使っていただいております。また、データマイニング法は、診断の支援として検査説明を行う際に使っていただきたいと感じております。

コンサルタント的な情報発信も

ユーザーへの情報発信についてはいかがですか。

 コロナ禍のなかで、営業担当者はなかなか施設で製品の説明ができません。特に製品を使っていないご施設には、なかなか営業活動ができないのが実情です。
 従来通りの展示会もできなくなり、新製品を紹介することができません。今後は、バーチャルな映像を提供することを考えており、ショールームの設置などの環境を整えていきたいと考えております。
 ホームページは、ご利用いただく方に有益な情報が得られるような仕掛けが必要です。精度管理と検索すると当社のホームページにたどり着くことが多いので、新しいコンテンツなどにより、さらに深くご利用ただだける内容にしていきます。
 ユーザーからは、システムのエイアンドティーといった印象が強いと思います。しかし、検査室の問題解決といった、コンサルタント的な役割もあると感じており、その期待に答えるための情報発信を行います。
 検査室は、患者情報の宝庫です。当社のLIS、LASを連携して使用することで、患者情報を有効に活用することができると考えております。バーチャルな検査室をつくり、LIS、LASの具体的な使い方を示すことがいいと思っております。新しいアイテムなど、どんどん紹介していきたいと考えております。

プロフィール

渡邊 達久

株式会社エイアンドティー 代表取締役社長

2000年、当社入社。2016年より営業統括本部副本部長として主に海外・コーポレートビジネス全般、営業企画および検体検査自動化システム分野を中心に経営の監督を行う。2021年、当社代表取締役社長に就任。

記者略歴

小林利康

医療ライター

1988年、薬業時報社(現:株式会社じほう)に入社。約 30 年間、臨床検査領域の取材、企画立案に従事。 メディカル・テスト・ジャーナル(MTJ) 誌への記事掲載などに尽力。2018 年、じほう社退職。その後、2 年間宇宙堂八木書店にて企画立案などを行い、現在はフリーの医療ライターとして活躍中。