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インタビュー・対談

2022/1/20

検査のムダを排除、
最適化をめざす次世代モジュラーシステム

 エイアンドティーはこのたび、検査室工程自動化モジュラーシステム(LPAM:Laboratory Process Automation Modular System)の販売を開始しました。LPAMは、投入や仕分、開栓などの機能を独立させたモジュラーシステムで、施設のニーズや設置スペースに合わせて最適なシステムを構築でき、追加や拡張も可能になります。開発の経緯、特徴、今後の展望などについて、技術本部 開発部 LAS開発グループリーダー 菅野宏章氏にお聞きしました。

LPAMが登場しました。分析前工程モジュール(MPAM+)と製品名が似ていますが、システムのコンセプト、命名の由来について教えてください。

 LPAMは、2015年に販売開始した分析前工程モジュール(MPAM+)に製品名は似ていますが、後継機種としての位置づけではありません。LPAMのLには、「Lean(ムダがない)」 という意味とともに「Laboratory Equipment and Analyzer Network system」という別の意味も込められています。
 LPAMの基本構成は、現在、システム制御(LC)、投入・仕分(F2)、投入・仕分・回収(F4)、開栓・検体認識(DC)の4つのモジュールから構成されています。今後、順次追加モジュールを開発していきます。
 これまでの検体検査自動化システム(LAS)は、装置監視、仕分作業、投入制限、搬送上での検体回遊、試薬補給時間、精度管理時間などさまざまな要件を満たすためにムダもありました。LPAMはムダを省くというコンセプトにより、検体検査プロセスのムダ、人手のムダを排除し、徹底した効率化を図ることを目的に開発しました。
 設計面では、①各機能を独立させた構造、②下位互換、③操作性、アクセス性の向上による省力化、④拡張性や縮小性、⑤段階的開発が可能、⑥前処理だけでなく搬送システム全体としての運用に合わせて機能が活用できる、などのコンセプトを採用しています。

600検体の追い越しも可能に

LPAMはどのような特徴を持っていますか。

 一番の特徴は検体認識機能です。開発部に「千里眼」というプロジェクトチームを作り、LPAMの開発着手前から基礎研究を続けてきました。画像解析技術により採血管の種類を判別し、採血管内の液量を推定しています。MPAM+はモノクロでしたが、LPAMはカラーで検体画像をエビデンスとして保存します。臨床検査情報システム(LIS)からも検体画像を確認することができます。より多くの採血管を認識するために、各メーカーの採血管を可能な限り入手し検証を行いました。
 投入と仕分は、F2とF4の2種類のモジュールをラインアップしました。F4は採血管の最大検体搭載量が620検体とF2の2倍です。F4は投入や回収だけでなく、バッファーとしても使うことができます。拡張性にも優れ、搬送ラインの途中にも設置することで、より多くの検体を搬送ライン上に一時保管できます。再検のTAT短縮や、極端な話600検体を追い越すことも可能です。
 LPAMはシステム全体として600検体/時のスループットで、MPAM+の540検体/時に比べて向上しました。操作はすべてフロントアクセスでスムーズに行うことができます。
 モジュラー化したことで必要な機能だけを選べるため、コストを抑えたコンパクトな運用が可能です。さらに、検査業務の自動化は検査技師のリスク低減につながります。
 LPAMの内部は、電気ソフトを制御するアーキテクチャを新世代へ刷新しました。自動車の車載システム制御に用いられている通信プロトコル「CAN」を採用し、信頼性の向上と省配線化を実現しています。

LPAM

300床未満の施設にも搬送システムの導入めざす

搬送システムの導入というと中規模・大規模病院の検査室をイメージしますが。

 これまでLASといえば、多くは300床以上の中規模・大規模病院が対象と考えられてきました。当社の導入比率としては300床から600床の中規模病院が最も多く、大規模病院を含めると約85%を占めております。しかしながら、300床未満の病院検査室にも潜在需要があると思われ、そのような施設を対象に、すでにMPAM+と自動分析装置を搬送システムでつないだ「CLINILOG STraS」(以下、STraS)を販売しています。
 私見になりますが、病床数が少なく規模の小さな検査室では、少人数の臨床検査技師で、複数の領域の臨床検査を行うことが多く、そのような施設へSTraSによる業務効率化を提案しています。今後は、LPAMとSTraSを接続したコンパクトな搬送システムも販売したいと思っております。

LPAMを開発するに至った経緯について教えてください。

 MPAMは割り切った仕様で、高速・コンパクト・オールインワンをコンセプトに、約150施設(2020年時点)で稼働しております。しかし、上市から7年以上経過することから次世代の製品開発を進めて参りました。
 アジア圏、とりわけ中国では検体検査の自動化に向けた市場の成長拡大が見込まれています。会社方針としても中国を視野に入れた事業へと動いております。
 そのような中で、現状の製品ラインナップだけでは競争力が弱いため、国内や中国市場などのニーズにもマッチするために、機能の選択・追加ができる新製品が必要だという判断に至りました。そこで、アジアをはじめグローバル戦略製品として、モジュールコンセプトによる製品開発をスタートしました。

LPAMが完成するまでにいろいろなご苦労があったと思いますが、何かエピソードはありますか。

                

 採血管の判別のために、国内外から入手可能な300種類以上を収集し、LPAMで判別できるようにしました。特に、装置側の機種間差の対策と評価作業(数千本を何回も繰り返し)は、技術的に最後まで苦労したところです。
 開発業務としては、システム検証の大詰めという段階でコロナ禍にぶつかり、国や会社の方針で7割テレワークとなりました。モノに向き合わなければ進まない業務でしたから、作業を止めないようにスタッフを2つのチームに分けて交代に出社させるなど、対応に非常に苦慮しました。
 さらに、LPAMは2020年のJACLaS EXPOでお披露目することも目標に開発を進めてきました。しかし、コロナ禍により展示会は中止となってしまいました。社内では「LPAMを上市させる」という関係部署の想いがひとつになり、なんとか乗り切ることができました。

              

これまでのユーザーの意見を反映

LASに対するユーザーの声はいかがですか。

 すでに業界ではMPAM+の導入により、TATが最大40%短縮し、検体が集中する時間帯にも余裕で対応できると評価されていました。さらに、LASの特徴である優先度設定、至急検体優先搬送、バッファーによる検体追い越し機能が評価されておりますので、今後もTATにこだわった製品の開発を進めていきたいと考えています。
 お客様にはトラブルでご迷惑をおかけしてしまったことが多々ございまして、いかに装置を止めることなく稼働させ続けるかということも非常に重要だと認識しています。 その対応として、AIやIoT、情報マネジメント技術を活用した予知保全機能の開発も進めているところです。 LIS、LASにおいて、少しの異常も見過ごすことがなく、万一、トラブルが生じてもリカバリーが短時間で行えるようなシステムの実現を目指しております。

トクヤマの完全子会社になりましたが、何か開発面の変化はありましたか。

 昨年2月にトクヤマの完全子会社になりました。現在、トクヤマのR&D部門と定期的に技術交流会を開いています。トクヤマは茨城県つくば市につくば研究所があり、その設備も活用しながら、開発効率化やスピードアップにつなげられればと考えています。

「検査室の完全自動化」をめざす

LASの自動化について、今後の展望は。

 現在「検査室の完全自動化」 という当社の大方針のもと、製品開発のロードマップを作り始めました。具体的にはLPAMを軸に、追加機能を開発し提供し続けていくことになります。海外では、病棟で採取した検体を院内にある搬送システムで運び、検査室の検体搬送システムに自動投入するという、一連の流れを実現している施設があります。
 一方、チーム医療の推進とともに臨床検査の情報も、より付加価値を付けることが求められています。今後はハードウェアの開発のみならず、情報マネジメントと一体となった開発を行って参ります。LIS、LASの両方を持っている当社の強みを最大限に生かしていきたいと思います。
 現在の検査工程の自動化技術は、業界各社が得意とする領域・分野の技術によって実現されています。例えば、半導体製造装置も同様で、各々得意分野のメーカーが集積されて実現されています。半導体業界も規格化の動きがありますが、 我々の「完全自動化構想」も同じような考え方と思っています。検査工程は、かなりの部分が自動化されているものの、人手による煩わしい工程も残っています。一気通貫で自動化するために、どのような開発・製品化が必要か洗い出し、どのような技術で実現していくのか、営業やマーケティング部門と連携し提案・具現化していきたいと思っています。
 コロナ禍により環境も一変し、検査室の人的補充もなかなか見込みにくい状況のなか、他の業界同様、自動化は今後間違いなく促進されていくものと考えています。

プロフィール

菅野 宏章

株式会社エイアンドティー 
技術本部 開発部 LAS開発グループ リーダー

1996年、当社入社。2000年よりLAS製品の設計開発に従事。専門は電気設計。2017年から新製品LPAMの開発リーダーを務め、2019年にLAS開発部門の責任者となる。

記者略歴

小林利康

医療ライター

1988年、薬業時報社(現:株式会社じほう)に入社。約 30 年間、臨床検査領域の取材、企画立案に従事。 メディカル・テスト・ジャーナル(MTJ) 誌への記事掲載などに尽力。2018 年、じほう社退職。その後、2 年間宇宙堂八木書店にて企画立案などを行い、現在はフリーの医療ライターとして活躍中。