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検査の樹―復習から明日の芽を

10. 検査街道、見えない先のけいこう案内板

近年、医学の進歩に伴い求められる知識や情報は多岐にわたり、多様化かつ高度化している。また、同時に関連機器の開発や分析内容も急速な変化を見せている。しかし、多くの医療現場では、経済性および恒常的観点より、先端技術ばかりを選択、導入しているわけではない。一方、保守的な対応ばかりでは先端分野との格差を生じ、さらに、経済性のみを追求する経営では将来的展望は弱体化するため、そのかじ取りは極めて重要である。

今日では、iPS細胞を用いた再生医療への取り組みやTOF-MSなど質量分析法の導入、キャピラリー電気泳動、次世代シーケンサー、高速遺伝子変異解析、蛍光イメージング分析やマイクロアレイ分析など、膨大な先端医療技術や新分析法の開発応用が展開されている。

さらに、社会的には、高齢化社会の到来、情報および産業のグローバル化、大規模災害の頻発などとともに経済弱者の拡大、疲弊化した社会生活のゆがみなどが見られ、心身共に病弱な人々が増える傾向が伺える。このような中で開発が望まれているのが、疲労、生体防御力、ストレスなど多くの疾患に深く関与する要因の度量的評価法の確立、さらにその因子解析、および易感染性や疾患発症因子などの保有分析である。かような状況下、疾患によっては早期もしくは罹患初期の確定診断法の樹立など多くの課題が挙げられている。当然、求められることは完治を目指した医療の確立である(図1)。

本稿では、1958年に法律が制定されて約半世紀を経た臨床検査を、より臨床と密着し、かつ患者と協調した患者主体の検査へと発展を遂げるために、変革が求められる分野、より専門的視点を加味すべき分野、将来において導入が必要と思われる分野および開拓確立が急がれる分野などを整理する意味において、臨床検査に携わった一人の元臨床検査技師が幾つかの私論を列挙する。

度量化が困難な重要因子が多い

図1 度量化が困難な重要因子が多い

1:臨床検査は、誰が創る

今日、臨床検査として導入する新規項目は、増加の一途をたどりながらもその導入に際しては、開発メーカーが試薬キットの市販準備をし、保険点数が決定した後に導入される。いわば、検査室は受身的なスタンスである。このような現況では、臨床のニーズにかなった検査を臨床検査室で開拓する機会は極めて低いといえる。臨床検査室での開発研究や新規検査の開発企画が積極的には行われていない現状から察すると、この傾向はしばらく大きくは変化し難いと思われる。

臨床検査に最も精通した臨床検査技師が臨床検査の開発・改革に積極的に関与しなければ、臨床に寄与した臨床検査の構築は芯を失い、遠回りすると考えられる。もちろん、検査項目の開発には、多大な労力と時間を要すると同時に分子生物学および代謝機構、専門的な科学知識、機械工学など広い知識を求められることが多く、一施設の検査室だけでの開発は困難である。検査室、臨床医、基礎医学、薬学、理学、工学および試薬・機器メーカーなど、より多くの分野の方とチームが組めればベストである。また、今日の情報化社会において、この役割を果たす検査室は、大学や大学病院だけではなく、努力によりチャンスはどこにでもつくることができると思われる。

昨今、臨床検査と患者との間には見えない壁を感じる。これは、患者を見ない、患者と接しない、検体だけを分析する検査や検査処理に追われ、患者の痛みを受け止める余裕が無い検査体系上のひずみから生じた課題と思われる。検査自体の苦痛や検査結果通達までの精神的苦悩など充分な患者価値を理解し、真の意味での『患者のための臨床検査』について改めて考え直す必要がある。図2は細菌検査をイメージ例としたが、これは決して細菌検査だけの問題ではない。患者のために時には、迅速な分析が、広範囲におよぶ知識が、または高度な専門知識が必要かもしれない。患者の治療は常に完治を目標とする。そのためには、必要なときに真に必要な検査情報を惜しみなく提供できる臨床検査体系の構築が望まれる。さらに、検査室と患者の対話、患者との共同作業に求めるものが埋もれている気がする(図2)。

いつの間にか患者と検査のあいだには壁が出来ていないだろうか?

図2 いつの間にか患者と検査のあいだには壁が出来ていないだろうか?

近年は、臨床検査技師を育成する多くの大学や専門学校が開設され、高度な理論や技術を取得した卒業生が増えつつある。また、これらの学校教育の場に臨床検査の現場を熟知した臨床検査技師が教官として登用されている。今後は、幾年かの歳月を経てこれらの講座から、新世代の臨床検査の創生意欲が芽生え、一葉知秋な感性の育成などが生じるものと期待される。

2:質量分析法(Mass Spectrometry:MS)の応用

2002年、田中耕一氏のノーベル化学賞受賞により一躍脚光を浴びたMALDI(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法:Matrix Assisted Laser Desorption / Ionization)は、ESI(エレクトロスプレーイオン化:Electrospray Ionization)と共に代表される質量分析における試料のソフトイオン化法である。このMALDIの開発、実用化により、生体分子化合物の分析が純度の低い粗製物でも、微量の試料すなわちフェントモル単位の高感度で簡易に分析可能となった。機器操作も簡易化され、臨床検査では、16Sリボソームタンパク質を解析指標とした微生物同定の日常検査として急速な普及を遂げている。

これまで、臨床検査では、比較的分子量が大きいもしくは大量に存在するタンパク質を定量し評価することが多かったが、生体内や生物間では、微量の低分子ペプチド類や低分子物質が重要な生理活性を示している。ヒトでは、ホルモンやシグナル伝達物質などが、細菌においてはクオラムセンシング(quorum sensing)がクオルモンなどの低分子を介して行われている。また、乳酸菌が産生する抗菌ペプチドのナイシンは正常細菌叢の保持作用を持つ。また、生体内でタンパク質との供役により重要な機能を果たす複合糖質や多糖類および脂質成分の分析も重要である。

近年の話題としては、2012年7月15日にNHKの科学番組『サイエンスZERO』で紹介された、慶應義塾大学先端生命科学研究所の曽我朋義教授らが発表した、肝臓病を1滴の血液で超早期にほぼ100%検出できるオフタルミン酸の研究がある。従来、肝臓病の指標とされてきたγ―GTPは、肝細胞が壊れて放出されるが、オフタルミン酸は肝細胞に炎症が起きると放出され全身を巡るため早期に発症を知ることができる。

肝臓の細胞に炎症が起きると解毒作用を持つグルタチオンが減少する。それを抑えるために酵素(γ-glutamylcysteine synthetase : GCS、glutathione synthetase : GS)が活性化される。その副産物がオフタルミン酸(MW:289.288、CAS No.:495-27-2)である。これを、同大グループが独自に開発した、キャピラリー電気泳動―飛行時間型質量分析計(CE-TOFMS)で分析し、高感度かつ高速測定を可能にした。さらに、同グループは瞬時に変動代謝物を探索するシステム、メタボロームディファレンシャルディスプレイも開発した。

細胞内代謝物はほとんどが電荷を持つため、イオン性低分子化合物に対し、高い分離効果を持つキャピラリー電気泳動(CE)と高い選択性と感度を持つ質量分析計(MS)とを組み合わせた(CE-MS法)結果、同質量の低分子をわずかな電荷差で分離した。今後、バイオマーカー探索などへの応用が期待される。質量分析はその特性として、クルードな微量物質分析が可能なため、免疫沈降物もしくは生体親和性物質間の分析や2次元電気泳動のスポット分析などに応用され、疾患タンパク質個々の高次構造の変化や構成物質分析への応用が期待される。

3:マイクロ波効果の検査法への応用

これは他項とは異なり、直接検査に関わるものではないがマイクロ波の分子振動による効果を、もっと検査の反応促進に応用してはどうかとの提案である。マイクロ波は、周波数300MHzから300GHz(波長1mから1mm)の電波(電磁波)を指す。強力で直進性があり、速度は約30万km/秒である。身近なものとしては家庭用の電子レンジがある。マイクロ波の効果は、現象は確認できても機構は解明されていないことが多い。

電子レンジは、国際規格で、2.450GHzに統一されている。ただし、南北アメリカでは915MHzの利用も認められている。本来、水自体の誘電損失による吸収ピークは1桁高く20~80GHz前後(温度により変動)であるが、水のマイクロ波吸収ピーク自体が広いためさほどの影響を受けることなく2.450GHzでも加熱できる。電子レンジをこの周波数に限定させた意図は、他の用途に使用する電磁波へのノイズを回避するためである。

電子レンジのマイクロ波は、電磁波のため電気と磁気のエネルギーを発揮する。すなわち+極・-極およびN極・S極が1秒間に24億5000万回入れ替わる振動で分子を振動させる。このため速く、物質の内部から加熱すると同時に、マイクロ波吸収の差を利用した選択加熱ができるなどの特徴がある。振動を伴うため、加熱のみならず攪拌効果および未知のマイクロ波効果も期待される。

臨床検査におけるマイクロ波の使用は、病理部門では固定などの標本作製や免疫染色などに精力的に利用され、検査の迅速化に成果を挙げている。しかし、他の部門では遺伝子検査での電気泳動用アガロースゲルの溶解や、微生物検査における抗酸染色の加温に用いられているくらいで、その応用例は少ない。

水分子は酸素のある部分がマイナスに、水素のある部分がプラスに荷電している。このプラスとマイナスが2.450GHzのサイクルで交互に変換し、水分子群が活発に振動し合い熱を発する(熱は分子の振動)。金属の酸化物から酸素が抜けやすい現象、『還元』も、振動した磁場が酸素をはがれやすくすると推測されている。これらの磁場振動の解明により熱化学には無い新しい化学が樹立されるかもしれない。このように、電磁波、超音波、光、圧力および放電・充電などの物理化学的手法を用いた検査の反応促進や新たな分析手法の樹立が待望される。

4:二次元電気泳動およびキャピラリー電気泳動

現在、検査室での検体分析は合理的観点から画一的なパターンで分析する傾向が強い。本来、臨床検査は、画一的な分析パターンと高いバリエーションで分析する分野が混在すべきである。患者各人の診断も、同じ病名であっても、病態ステージ、併発疾患の種類、年齢、栄養状態、性、環境等々が全て個々の患者で異なるため、画一的な検査で良い分野と多種多様な分離分析を必要とする分野がある。

一方、検査室も未知(もしくは特殊)の診断物質や治療マーカーの開拓に踏み込む気概が必要である。なぜなら、これほど質的・量的に豊富な、また膨大な数の貴重な試料を持つ機関は数少ないからである。もちろん、倫理的、経済的かつ労力的な課題が残されていることは述べるまでもない。このような見地から、総合的に解析する比較的手掛けやすい方法としてタンパク質の二次元電気泳動法やキャピラリー電気泳動法が挙げられる。ただし、その解析や前処理には多くの創造と工夫が必要である。

今日の市販キットを使用した二次元電気泳動像は極めて高精度な分析の再現が可能となった。検出もCy2、Cy3、Cy5などの蛍光標識法を用いた高感度な多重染色法が数多く市販され、標識も至って容易である。血漿を材料とするならば、アルブミン、グロブリンの高濃度成分を除去するキット類も市販されている。また、血漿にこだわらず諸種の体液や排出液・物の分析も興味が持たれる。

今後は、タンパク質の機能評価に伴いアミノ酸変異による高次構造変化や糖鎖構造など、これまでの量的評価と同時に質的な評価が求められる。高次構造の変化には荷電変化を伴うことが多い。同じタンパク質でも構造変異により荷電が異なれば二次元電気泳動法やキャピラリー電気泳動法では高い分離効果を期待できる。大量のタンパク質と同時に微量活性タンパク質の分析および活性ペプチド分析も同様な意義付けである。

5:診療報酬(保険点数):疾患診断に潜む課題

国民皆保険制度の成果は問うまでもないが、さらに一歩進めて考察すれば、現行での診療報酬は、疾患発症を主体とするために課題が残されている。発症した関連臓器の細胞で、再生可能なものは別として、その多くは死滅もしくはそれに近い状態であり、治癒してもなんらかの機能障害を伴うことが多い。したがって、発症早期に検知し確定することが望ましい。

近年ではこのような観点から、関連組織の細胞を温存させ得る状態で検知するマーカーや機構が探索されている。京都大学の浅田らは、神経堤由来細胞の機能不全が、腎の線維化と腎性貧血を引き起こすことを報告した。神経堤由来線維芽細胞がエリスロポエチンを産生分泌することとその形質転換により腎の繊維化が起きエリスロポエチン産生が低下することを解明した。これにエストロゲン受容体調整薬のtamoxifenを投与すると線維化と腎性貧血が回復することが示された。前述の肝臓細胞へのウイルス感染におけるオフタルミン酸は、細胞が酸化ストレスを受けた時点で生成検知される。このように、発症前もしくは早期のバイオマーカーを探索する機運が高まっている。さらに、組織細胞がストレスを受けやすい状態を検知できればベストである。

障害を受けた組織の治療は対症療法、負荷軽減療法が主体である。本来、治療は細胞の機能回復もしくは温存が目標である。しかし、ここにはバイオマーカー探索の遅れと検出の高感度化の遅れから対応できていないという課題が残されている。さらに現状では、発症前に検知した場合、保険適用の課題が残る。これは、健康体保持による医療経済効果と個人的経済負担の課題を伴う難問でもある。患者にとっては、より早く、より多くの疾患について、可能な限り、『発症因子→前兆→発病』のプロセスの中でより早期に正確に把握してその対処に努めるべきである。また、臨床検査に携わった方なら誰しも健康な時の検査値の意義を疑う人はいないと思う。また、測定回数は多いほどその意義は高く、ここにも課題を残す(図3)。

発症までの経過(早いほど、検出は困難だが効果は多大)

図3 発症までの経過(早いほど、検出は困難だが効果は多大)

6:iPS細胞の応用

京都大学の山中伸弥教授がノーベル生理学・医学賞を受賞され、急展開を見せているiPS細胞。これを用いた再生医療分野への臨床検査の加担はできないか、この技術を使って展開できる臨床検査は無いのか。これは検査に携わっている臨床検査技師なら誰もが抱く夢、願望でもある。

iPS細胞は、分化した体細胞から多能性の状態にリプログラミングしたものである。山中らはヒト成人皮膚の線維芽細胞からOct3/4、 Sox2、Kif4およびc-Mycと4つの因子を用いてiPS細胞を作成した。iPS細胞の次なる課題としては、200種類ほどの細胞へ、そして組織への細分化誘導が挙げられる。しかし、この分野も多くの研究者の努力により急速な進展を遂げ次々と成果が報告されている。

分化実験のモデルにはプラナリアが使用される。3分割したプラナリアは2日後には尻尾だけのプラナリアに眼ができ9日後は全ての生体に必要なパーツがそろう。なぜ正しいパーツが再生できるのか。必ず頭の方向から頭、尻尾の方向から尻尾が再生する。これは、プラナリアの中ではヘッジホッグというタンパク質が頭の方向から尻尾の方向へ流れていてヘッジホッグが溜まっている方向に尻尾が、ヘッジホッグが無い方向に頭部が幹細胞により再生される仕組みになっている。したがってヘッジホッグの働きを止めると両端に頭部が再生される(阿形清和:京都大学理学研究科教授)。

アクチビンA(Activin-A)というタンパク質をiPS細胞に混ぜると1週間後には沿軸中胚葉(筋肉の細胞の元)が形成される。さらに、アクチビンAの濃度を高くして添加すると肝細胞などの元となる細胞が形成される(櫻井英俊:京都大学iPS細胞研究所)。受精卵からの分化では、ランダムに細胞ができて体をつくるのではなく、からだは番地様区分によりタンパク質の濃度勾配をつくることで位置情報が精巧に制御されていると認識されている。

心臓細胞(福田恵一:慶應義塾大学循環器内科教授)はノギン、ウィント、G-CSFが順次につくられては消え、細胞がつくられていく。iPS細胞にその時期その時期で重要なタンパク質を順次添加し、心臓筋肉の再生につながった。また、ある程度分化させたヒトiPS細胞に間葉系細胞と血管内非細胞を加え、混ぜて放置すると細胞がボール状を形成し、ミニ肝臓ができた (谷口英樹:横浜市立大学臓器再生医学教授)。これにより、分化組織化には細胞同士のコミニューケーションが重要と推察される。

当面は、iPS細胞による再生医療は、分化細胞が重層した膜状細胞を接着もしくは挿入し、分化細胞の増殖誘導をはかる方法が主であると推測される。ここで重要なのは、接着細胞の増殖誘導の可否判定である。この時の細胞間コミニューケーションの重要物質の構成およびバランスの分析に臨床検査の寄与が考えられる。また、分化制御の手法が確立した時点で、分化した生細胞を用いた発現タンパク質の質・量的分析と遺伝因子の関与解明などの患者の個別治療への施行応用が予想される。

7:組織片からの形質発現情報を分析

医療では治療および診断目的により組織の生検や切除を施行するが、これらの大半は病理診断による形態診断に使用される。この切除組織の一部(望ましいのは正常近接部位と腫瘍部位)が遺伝子発現もしくは形質発現を分析できれば、これまでとは異なる有益な病態機構情報を提供し、治療成果を向上させ得るかもしれない。また、これらの一部でも培養できれば個々の患者細胞の諸種の物質代謝を解析することが可能となり、適切な治療薬の選択肢が広がると思われる。多くの組織細胞の培養が可能となれば、治療法の向上と診断学の普遍性が高まると思われる。

これまでは染色色調から細胞や組織の成分を判断していたが、今日では細胞や組織での標的分子の動的代謝をも捉えることが可能である。また、蛍光イメージング法や質量分析法を用いた細胞内物質同定も積極的に試みられている。さらに近い将来、次世代シーケンサーの導入が普及すれば発現機構が詳細化し、分析情報はより多彩化すると思われる。

8:現在の臨床検査室の分担分析には属さない新たな部門

現在の臨床検査室の分担分析は、分析手法もしくは分析対象物により区分されている。今日では、交錯する部門や体系化でき難い部門などがあり、再構築の必要性を感じる。例えば感染症診断検査を例に挙げると、臨床検査の黎明期には伝染病診断が主体であり、検体中の細菌を検出し同定すれば充分に要をなした。

今日の感染症は、患者の高齢化、免疫不全者の増加、社会のグローバル化などに伴い、対象となる感染微生物もウイルス、原虫、真菌、細菌など多種多様である。しかし、未だ細菌を主体とする培養検査が主流である。さらに、患者は高齢化、免疫抑制剤の使用、偏食者等々生体側も多様化し、免疫・防御機構、体内栄養状態、易感染性体質およびサイトカイン構成とバランスなどへ対応できる分析が望まれているが、これらを総合的に分析する検査室は整備されていない。

悪性腫瘍の疑いで採取した生検の組織片も病理部門との連携がうまくとれない施設が多い。悪性腫瘍の診断がついた生検材料でも、試料の不適応性、使用抗癌剤の有用性評価の遺伝子検査や薬物代謝の個別情報、感染微生物との関連情報などの分析は、同じ医療機関とは思えないほど連係がスムーズではないケースが多い。同じ生検材料の分割や抽出遺伝子の分配使用などから始めて、渾然一体な患者主体の検査体系を目指した腫瘍診断・治療検査など再編構築は必須の課題と思われる。

生体の代謝は、多種の成分が複雑多岐に生成・異化を反復し、蓄積・消費されながら営みを遂げている。この動向を捉える検査が容易でないことは誰しも理解している。さらに、検査室間での連携の困難さ、分子生物学的分析をはじめとする高度分析の貧弱性などの現実も要因として加担する。早急に、患者のための疾患を主体とした分析法の選択と、導入および幾つもの分析を融合させた解析法のデザインを設計すべきと思われる。

9:臨床検査技師の高齢者対応部門の創設

65歳定年制の現実化に伴い、高齢な臨床検査技師が行う作業内容の再考は不可欠の課題といえる。緊急検査、24時間体制、広域業務の拡大、新機種導入、情報システムの刷新など検査業務の変動は目覚ましく、これらへの順応速度は年齢的ハンディが伴う。もちろん、個人差はあるが大方の見解は一致するものと思う。現実は、高齢者も、若干の作業内容の配慮は受けつつもこれらのストレスを抱えながら若い人と同作業に従事している。

慌ただしく緊急検査などに対応しながら直接的に患者検査を発信する部門(若い技師向き)と、分析蓄積された膨大なデータを、患者と対話しながら共同で詳細に解析し発信する統計資料部門(高齢技師向き)を検査室に創設できないだろうか。これまで統計資料はサービスと捉えられてきたが、今日の検査室に眠る膨大なデータは解析いかんによっては貴重な病院の財産となる(図4)。

経験と知識蓄積による重要因子の発掘と立証

図4 経験と知識蓄積による重要因子の発掘と立証

特に高齢の患者さんは、これまでに数回の臨床検査を受けた経験がある。しかし、自身の全ての時系列データを持つ人は極めて少ない。出力データを持っていても、検査した施設が違う、分析法が違う、記録が残っていないなどの理由で検査データの時系列は途絶えている。体調の異変に気づくことは患者本人の自覚が重要で、これらの貴重な異変期、病状の変遷期、およびその前兆期のデータは残念ながら残されていない。今後は、患者と検査室とが対話して、その共同作業の中から検査の意義を構築し、真の実りある医療体系を生む可能性も高い。今の情報化時代、患者の生涯のデータベース構築は大きな課題である。『病気→病院』という概念を外して健康時のデータベースも残せる医療の体系化が必要である。

過去の分析データの中には補正が必要な場合もあり、特に過去データの実情を把握している高齢の技師は適任だと思う。確立した生涯の時系列データを基にして諸種の因子とリンクさせ、複数の医療機関が協力して解析すれば、価値の高い、臨床検査を活かした統計資料の確立ができる。莫大な量のデータを保有する検査室ならではの貴重な情報発信ができる。解析因子としては、発症年齢、生活環境、食の効果、投薬効果、嗜好性およびSNP(Single Nucleotide Polymorphism)の遺伝要因などを組み合わせ、治療効果、予後など詳細な解析情報を生むことができる。また、解析結果によっては、現行検査の弱点も浮上させ得る。

10:供試検体の保管体系を確立する

早期診断の確立や病態の変遷期を的確に把握するには、経時的な試料を追跡し分析することは不可欠であり、ましてや確定診断できた試料は極めて貴重である。このような目的のために新たに試料を収集するには莫大な年月と労力、費用および保管場所が必要である。臨床検査室には、データベースの構築、倫理的・経済的な課題は残るが有力な資源がある。さらに、これは前述の課題への対応だけではなく、新たな臨床検査を樹立するためにも重要である。供試検体の保存は臨床検査全分野に該当する課題である。残された分析データはそれ以上の分析はできないが、供試検体を保管すると新たな分析法による分析ができる。今後は微量分析が主体となるため試料保管量も微量で済み、スペースの軽減は可能である。

例えば、臨床微生物検査では、後日、病状経過から強く疑う非検出微生物を培養したくても同じ培養検査はできない。もし、検体が保管されていれば遺伝子検査での検証ができる。特に、培地性能、培養環境の適正、検体処理と取り扱い、培養結果判断の力量など、大きな技量差が存在しても結果は同一レベルで評価される細菌検査では早急の課題でもある。技量上の効果としては、治療経過段階での感染微生物の有無を検証する。また、特殊例としては、医療裁判での過失の有無を証明する重要な証拠となる。

本来の目的としては、臨床経過が随伴した極めて貴重な試料であり有益な情報源でもある。特に、感染微生物とホストとの生態情報および生物情報を唯一同時に含む感染材料は重要である。さらに、発現状態を加味すれば、採取から保管までの時間を短くするほどその価値は高くなる。分析情報例としては、分析対象以外の微生物の存在確定、感染微生物叢の構成と定量、易感染性体質の解明、治療効果の有効性評価、詳細な生体の感染防御反応の解明、病態推移と移行期指標成分の定量的確立など数多くの情報確立が可能となる。患者の病状に疑問を抱き、血清を保管したことで7年前のSFTSウイルス(Severe fever with thrombocytopenia syndrome virus)感染例を解明されたニュースは記憶に新しい成果といえる。

貴重な情報源を有する試料であるが、現状では、大半の施設で分析後の試料は廃棄される。確かに、保管スペースや必要な機器や器材が購入できない現実においてはやむを得ないかもしれないが早急にその価値と必要性を訴えて欲しい。試料の保管法が確立されれば分析は、施設ごとではなく、分析可能な施設と連携して行うべきである。保管例としては、冷凍保存だけでなく、感染性を失活させ室温でDNAを長期保存できるFTAカードなども市販されている。分析は、カードを数ミリの大きさに切り抜き専用液で抽出し遺伝子を分析する。

近年、臨床検査は高精度、微量化、迅速化、簡易化の追及が主流であった。今後は、適正、個別対応を進化させる時期が到来しつつある。現代社会では、特定分野では過剰競争をして、他の分野ではすべき仕事をまともにできない現象も起きている。臨床検査では、目的と本質を見据えた作業の効率的な分担と常に患者の完治を目指した医療人としての検査を樹立して欲しい。また、臨床検査全般の開発情報や課題などの情報を辛口発信する臨床検査評論家の出現も必要と思う。
本稿では、限られた分野の私論となったが、今後の課題整理に一石を投じ得れば幸いである。

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イラスト/菅原 智美

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