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検査の樹―復習から明日の芽を

1. 臨床検査と純水 (あなたが使っている水は本当に超純水)

臨床検査において、純水は、試薬調整や検体・標準液の希釈および分析ラインや分析器具の洗浄など多くの用途に使用される必要不可欠なものである。しかし、この純水も使用管理のいかんによっては分析誤差の原因や細菌類繁殖の温床となる危険性を秘めている。検査室には眼に見えない塵や細菌類などの浮遊微粒子が、窓や換気扇あるいは検査室の空調や出入りする人の衣服を介して浸入する。これらの浮遊微粒子は、分析器のファンの稼動や人の往来により空中に舞い上がり、室内のいたるところへと飛散する。このような状況下において、分析器具や純水製造装置の蛇口などへ付着、もしくは純水貯留容器内に混入、さらには容器内で細菌類が増殖する可能性などが想定される。したがって、純水を使用する人がこのような認識を怠る、もしくは純水製造装置の管理が悪い場合などにおいては、分析値に直接影響をおよぼすトラブルの発生が考えられる。純水の取り扱いについては、あまりにも慣れ過ぎて、時として細心の注意を怠る事も考えられるため、もう一度、純水について整理し、その管理法を考えてみよう。

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1:純水の純度指標

純水は、大きく超純水純水とに分けられる。超純水を区別する明確な規定はないが一般的には比抵抗18MΩcm以上を超純水として分けてきた。近年はさらに水中の有機物を有機体炭素量として測定するTOC(全有機体炭素:Total Organic Carbon)も指標として用いられつつある。半導体工場ではTOC 0.05mg/L未満の超純水が要求されている。

また、使用する分野ごとに個々に微粒子数(個/L)や生菌数(個/L)などを規定している。バイオテクノロジー分野では、DNAフリー、RNaseやDNaseフリー、エンドトキシンフリーな超純水が求められる。

2:純水の精製法

純水はその精製方式により、

1)
イオン交換水:イオン交換樹脂によりイオンを除去(ion-exchanged water)
2)
蒸留水:沸騰気化した蒸気を冷却(distilled water、略:DW)
3)
RO(Reverse Osmosis)水:逆浸透膜により得た水。浸透膜で区切った水は塩濃度の低い方から高い方へ抜けるが、浸透圧の差以上の外圧を塩濃度の高い側にかければ水分子は塩濃度の低い側に抜ける(逆浸透)。
4)
RO-EDI水:EDI(Electrodeionization)は電気再生式イオン交換装置。イオン交換膜とイオン交換樹脂で構成され、直流電流を用いてイオン交換樹脂を連続再生する最新の高品質水処理技術で、電気透析技術とイオン交換技術を一体化したものなどに分けられる。

また、純水の精製とは別に、脱気(デガッサー)機能、純水精製工程の最終部に設置する紫外線殺菌ランプ(UVランプ)、アルカリフォスファターゼ分析への対応としてBio-Pak C限外濾過膜(MILLIPORE社)などがオプションとして用意されている。

原水となる水道水が地下水か河川水かにより含まれる不純物は異なる。また、配管の素材や管理状態などによっても異なるが、純水に混入する不純物は、大きく、無機物(無機イオン、無機塩類、重金属、Caイオン、Mgイオンなど)、有機物(リグニン、タンニン、エンドトキシン、RNase、DNase、農薬、環境ホルモンなど)、微粒子(鉄錆など)、微生物などに分けられる。
詳細には、『MILLIPORE 超純水装置・純水装置』を参照
http://www.millipore.com/lab_water/clw/capability&country=jp&lang=ja

3:望ましい検査の用途別純水の使い分け

検査室で使用する純水は、1)酵素反応やタンパク質分析にはイオン交換水やRO-EDI水などの金属イオンや有機物を除去したもの、2)遺伝子検査には、RO-EDI水や超純水をオートクレーブ滅菌したもの、RNA検査にはRO-EDI水や超純水をDEPC(Dietyl Pyrocarbonate)処理後にオートクレーブ滅菌したもの、DEPC処理した市販品もある。
3)細菌培養にはイオン交換水や蒸留水をオートクレーブ滅菌したもの、4)動物細胞の培養には超純水もしくはRO-EDI水をオートクレーブ滅菌したものを用いるのが望ましい。

4:不可欠なメンテナンス

高い精製機能を備えた純水製造装置でも、装置の機器管理を含めた採水管理が悪ければ使用する純水の質はおのずと低下する。定期的または数値的なバロメーターを指標としたカートリッジの交換、採水口部の頻繁な交換もしくは殺菌処理は必須である。細菌は、当初数個が水中に浮遊状態で混入し増殖も遅いが、容器の基底に付着して細胞外多糖またはEPS(Extra cellar PolySaccarides)を分泌し菌膜(biofilm)と呼ばれるバリアーを形成すると複数の菌種が共役しながら増殖は促進する。

検査室では、純水を洗浄瓶に入れて使用するが、これは便利な反面、汚染の危険が高い方法でもある。使用に当たっては、頻繁に瓶を洗浄し乾燥する、瓶内に不要な純水を溜め置きしない純水を汲み足ししない洗浄などの限定した用途のみに使用するなどを順守すべきと思われる。

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水質管理として、定期的に純水の細菌培養検査を実施してみていただきたい。
方法: ドリガルスキー改良培地(BTB培地)など低栄養培地に50µL位を接種し、微小コロニーの発育に注意しながら30℃一週間以上培養し毎日観察する(1、2日の培養では発育しないものが多い)。また、使用する際は、肉眼的にも洗浄瓶の底部がうすく緑色化など着色していないことを確認して使用する。

5:純水のオートクレーブ処理の注意点

オートクレーブを用い滅菌水を調整する場合には、オートクレーブの底に張る水は滅菌する純水と同レベルの純度の水を使用し、毎回、使用後は廃棄すべきである。ましてや、廃棄物の殺菌など他の用途に使用した底水を交換せずに再使用したり、底水に水道水を用いたりすると、オートクレーブ内は滅菌時には高温、高圧状態になり、底水に含まれている気化性の不純物は釜内に充満し、加熱後の冷却過程で滅菌水の中にも溶け込み、超純水を使用しても純度は劣化してしまう。

近年のオートクレーブは、空焚き防止の安全装置として、水位検出装置を備えているため、当初は電通のない超純水だけでは作動しないことがある。この場合は、水位検出装置を解除するか、微量の食塩などの電解質を添加する措置が必要である。
また、遺伝子検査の増幅産物などの廃棄物をオートクレーブ処理することは厳禁である。

6:検査室内は浮遊微粒子による汚染の危険が一杯

検査室の室内の空気中には、室内ダスト、機器磨耗金属微粉末、土壌成分、自動車排気微粒子、微生物、昆虫類の死骸やフンなどの微細化したものなどの微粒子が浮遊している。特に空調やエアコンから排出される空気にはカビの胞子などが多く存在する。空中浮遊成分は、所在地域の環境(工場、交通状況、宅地や山林開発地域など)や季節(黄砂、花粉)などによっても異なる。

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さらに、検査室には機器を冷却するファンが多く稼動しているため、微粒子はより浮遊しやすい。したがって、これらの物質が常に精製した純水や純水製造装置などに付着混入する危険性を念頭に入れておく必要がある。特に微生物の遺伝子検査では、細心の注意を払わないと採水容器などへ浮遊微粒子が付着する可能性がある。

また、純水製造機と分析機器とを直接接続している場合でも、中を通る純水は、水道水から純水に精製した時点で塩素系殺菌剤は除かれている、また、連結管や接合部位は非滅菌状態で接着されているため細菌類が増殖する可能性は高い。特に、ライン最後尾の排出口の管理法いかんによっては細菌類の増殖性は極めて高いことが考えられる(特にライン内の水流が静止する時間帯には細菌類が逆行することも推察できる)。

したがって、定期的なラインの交換もしくは次亜塩素酸による殺菌洗浄などのメンテナンスは不可欠といえる。この頻度は、施設の設備状況や季節ごとの室温、使用水量などによって異なるため施設ごとに設定する必要がある。微生物繁殖による影響は、初期にはさほど大きな影響は見られないが、あるレベルに到達した時点から影響が現れ出してくることが多い。現象としては、微生物の代謝物や産生酵素の混入、有機試薬類の分解および酵素試薬類の分解などその影響は多様である。

遺伝子検査では、浮遊微粒子に混じった細菌類や乾燥した増幅遺伝子の汚染、純水に増殖した微生物酵素による遺伝子の分解などが生じる。これらの対策としては、UV灯の設置、作業前後の次亜塩素酸による清拭などとともに検査担当者の認識の向上が必要である。

職場環境の浮遊微粒子については、微粒子状物質による大気汚染と寿命との関連性の報告もあるので、健康管理上からも環境管理の目的でご自分の検査室を検査してみてはいかがだろうか。

Pope CA 3rd, Ezzati M, Dockery DW.;Fine-Particulate Air Pollution and Life Expectancy in the United States;N Engl J Med. 2009 Jan 22;360(4):376-86.

イラスト/菅原 智美